左足

 さて、仕事だ。と、そうなった時、問題が一つ持ち上がる。

 僕の左足だ。

 先の戦闘に置いて、吹き飛ばされた僕の左足は膝から下が無くなっていた。

 これは拙い。どうにかしなければならない。当たり前だが。

 僕が生まれた時代から五百年が経過した今の時代、四肢の損失はそこまで重大なモノではない。結構簡単にどうにかなる。

 隻腕である僕の親、ユーリの様な物好きを別にすれば治してしまうのが普通だ。

 方法は二つ。

 再生させるか、機械化するか。

 手元にはないが、抜き取られた背骨を使えば足を再生できるし、強化外骨格の技術を流用すれば元と同じ動きを行える義肢だって造れる。

 ただ、今はその双方を行う為の時間と技術が僕には無かった。

 だが、仕事をしなければならない。


「……さて、」


 背骨で作ったネックレスを握る。

 トラックの一番奥に背中を預けた僕の視界には、今の僕の総戦力がある。

 スナイパーライフル、B型伍式狙撃銃が一丁に、クロスボウが一丁。

 強化外骨格、ムカデ、つまりは修理されたハウンドモデルが一つ。

 モノズが十二機。だが、修理が完了はしたが、戦えるのは丑号、未号、そして巳号の三機のみで、他はクリスタルへの損傷もあり、実戦は不可能だ。

 最後に股の間に鼻を突っ込んだ仔犬が一匹。無論、病み上がりのルドルフも戦力としては数えられない。

 考えろ。

 圧倒する方法を。僕の有用性を見せつける方法を。左足の喪失を補う方法を。

 考えろ。考えろ。考えろ。考えた。結論が出た。


「――良し、」


 僕は余り頭が良くないのだ。

 僕は不器用なのだ。

 だから、そう。やることは単純で、簡単な方が良い。







 目的は金を支払わせることだ。

 が、どちらかと言うと『舐められた落とし前』と言う意味合いの方が強い。

 つまり、『やり過ぎ』と言うことは無い。

 遠慮なく行こう。容赦なく行こう。何と言っても彼らは僕の敵だ。

 さて、やることは、単純で、簡単な方が良い。

 だから、やることは簡単で、単純だ。

 殺す。

 人を全て。モノズを全機。殺して、壊す。

 そして、僕は狙撃手だ。だから狙撃で殺す。狙撃に足は必要だが、まぁ、必要ない。左足を空っぽのまま、僕はハウンドモデルを着込む。人口脊髄に絡みついたDNAフィラメントにより動きを造る強化外骨格ならば、左足が空っぽでも歩ける。

 高台まで移動した。

 深呼吸をする。

 スコープを覗き込んだ。

 視界の先には大型モノズ六機からなる大型装甲車、中に入っている人間は三人で、モノズは全部で四十五機。


「……」


 素人だな。そう思う。普通、全員が全員、同じ車両に固まっていると言うのは宜しくない。

 ただ、問題としては、モノズが多い。多いが、一機でも逃がせば僕の存在が伝わるかもしれない。それは拙い。どうしよう? こうしよう。

 僕は引き金を引く。右前輪を担っていたモノズの眼を撃ち抜く。クリスタル、本体を傷つけられた彼は機能を停止する。

 バランスを崩し、暴れ出す装甲車。また僕は引き金を引く。右側後輪、続いて、右側、真ん中。三発撃った。

 モノズは頑強だ。あの程度では死なない。それでも、あの傷だと時間を置かなければ、戦線に復帰はできない。つまりは――これで、三機。

 右側のコントロールを失った装甲車が、石に乗り上げ、横転する。右側を潰した買いがあった。右側が下になり、アレでは左側からしか出られない。

 そして僕らは出す気が無い。


「巳号、丑号、牽制」


 言いながらクロスボウに持ち替える。巳号と丑号が装甲車に閉じ込めるための牽制を開始した。隠密狙撃ハインド・スナイプに徹する巳号とは違い、姿を見せている丑号に対し、何機かの敵モノズが向かう。

 少し、急いだ方が良いかもしれない。

 僕はそう判断した。

 引き金を引く。飛び過ぎた。少しだけ射角を上げる。動力源と化した卯号が巻き上げる。次弾、装填完了。二射目。今度は良い位置に落ちた。少しづつバラしながらそれを置いていく。十発撃った。九本が墓標の様に装甲車に突き刺さっている。僕は最後の一本に火をつけて放った。先の九本に『運ばせた』巳号特性の液化延燃剤に火が付く。べたっとしたソレはじわじわと燃え続ける。装甲車の中に人間三人を閉じ込めたまま、だ。

 モノズは人間が大好きだ。

 モノズは人間を守ってくれる。

 だから凡そ四十機のモノズは――燃え盛る装甲車へと一斉に集まった。

 僕は丁寧にそれを潰した。

 数時間後、リカンは三つの“蒸し焼き”をアマヅに送り付けた。

 犯人が人間である証拠、スナイパーライフルで撃たれたモノズも忘れないし、白々しくも『盗賊に襲われたようだ』のメッセージを付けてだ。

 まぁ、見せしめだ。一応、支払いもされたらしい。

 そんなわけでお祈りメールが届くこともなく、僕は無事に採用された。

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