ゲリラ戦
準備砲撃が終わったのだろう。
観測された弾道を用いての本格的な砲撃がキャンプ地を襲っていた。
名目状は街に潜んだトゥースへの攻撃となって居るが、どう見ても僕等の居住地を狙っている。酷い話だ。
「本当にテメェの言う通りになったなぁ、おい?」
「僕では無くてカリスなんですけどね……」
シンゾーに双眼鏡を投げ渡しながら僕。
恨まれるだけのことをしたのだから当然だが、まぁ、恨まれていたのだろう。
開戦と同時にトゥースが旧都市に入ったと言う情報を流してやれば、あっと言う間にこの有り様だ。避難勧告も無しに爆撃が始まった。
全く、何と言うことだろうか。
たまたまあのキャンプ地が空だったから良かった物を、万が一でも残って居たら大惨事だった。
だが、これで僕等が天津鉱業に敵対する理由は出来た。
無事だったのは運が良かったからなのだ。運が悪ければ死んでいたのだ。
この時代、正当防衛は有っても、過剰防衛は存在しない。蹴り落されたら蹴り落せ。そう言うことだ。
「さて、ご協力に感謝します。リカン」
「何、こちらも敵の動きが見えて助かったからな。御相子である」
そうして僕はキャンプ地に侵攻したはずのトゥースの部隊、レオーネ氏族の歩兵部隊を纏める男に声を掛けた。
不思議なことに、キャンプ地に侵攻したトゥースの部隊は僕等と一緒に避難していた。
あぁ、本当に不思議なことだ。
ただの犬である僕にはどうしてこんな不思議なことが起こってしまったのかは、分からない。
分かるのはただ一つ。縄張りを荒らされたと言うことだけだ。
さて、そんな分けで噛み付くとしよう。
双眼鏡の中、荒地に造られた道を走っていた装甲車が地雷を踏んで吹き飛んだ。
犠牲に成ったのはタイヤの役割を果たしていた大型のモノズだ。ボディは勿論、アレは核にも届いているだろう。つまりは完全な死だ。少し申し訳ない気分になる。だが、まぁ、少しだ。見なかった、いや、感じなかったことにしよう。
装甲車の乗員とその護衛は慌てた様子で防御の準備を整える。
行軍が止まった。
僕はその様子を眺める。撃つ気は無い。彼等には時間を掛けて貰うのが目的だ。
二十分ほど経っただろうか? 襲撃が無いことを確認した彼らがまたゆっくりと進みだす。何度も地雷を踏む気は無いのだろう。
先ずはモノズ達に周りを調べさせる。モノズ達はこの先が『地雷原』だと告げる。
そう。仕掛けたのは一つ二つでは無い。幾つか仕掛けさせて貰った。
結果、彼等はモノズにローラーを作成させ、それで地雷を処理しながら進みだした。爆発の度に装甲車が装備したローラーが跳ね上がるのは、少しだけ面白い。
と、暫くの間は歩くようなスピードで進んでいた彼等だが、速度を上げ始めた。ローラーの信憑性が確認できたからだろう。
だから僕は『次』に移る。
ソレにモノズ達は気が付いていたのだろう。だが、速度に乗った車は止まれなかった。結果、ローラーで爆破処理出来なかったソレ、信号を受信した地雷が性能を発揮する。
再度吹き飛ぶ装甲車。そうして装甲車は今度こそ立ち止まった。
手動と自動の地雷を混ぜて使うのは中々に良い手の様だ。
全部が自動ならばローラーだけで対処も出来るが、一部に手動、こちら側が任意で起爆出来るものが混じっているとそうは行かない。一つ一つ取り除きながらの進軍しか許されない。
「……」
さて、仕事の時間だ。
双眼鏡を下ろし、代わりにスコープを覗く。
これと同じ仕掛けをあと二つの輸送路に仕掛けてある。そっちに向かったチーム、巳号、卯号のC1、申号、酉号、戌号C2には無事に通す様に言ってある。つまり――
目の前のアレは殺しても良い奴だ。
引き金に掛かった指をゆっくりと引く。
ムカデを纏った男の頭部装甲、カメラが壊れる。命には届かなかったが、突然の襲撃に驚き、身体を折り曲げる。背部の動力が丸見えだ。撃った。当てた。前にかがんだままの状態で機能を停止したムカデが、その格好のまま、地面に倒れこむ。
他の護衛とモノズ達が動き出す。もう一発。今度は命に届いた。頭を撃ち抜いた人影が倒れて動かなくなる。開いた穴から赤いモノが見えた。
マズルフラッシュを見た相手が僕目掛けて撃ってくる。モノズが僕目掛けて突進してくる。
流石はモノズだ。地雷の位置を正確に割り出し、踏まない様に迫ってくる。
困ったな。
困ったので、避けた地雷を撃つ。横を走り抜けようとしていたモノズが巻き込まれた。それでもモノズ達は止まらない。
動きが止まった人間よりもこっちを優先するべきだろう。先頭から順番に、丁寧に撃ち殺していく。相手の撃つ銃撃が段々当たる様になってきている。少し拙い。
「寅号、亥号、行け」
だから命令する。受けた二機の戦闘型のモノズが装甲車の周りの人員に襲い掛かる。チャンスだ。
「丑号、辰号、未号、もたせろ」
三機のモノズに防衛を任せ、意識を遠くに置く。その場所では寅号に襲われた人がソレを押し返そうとしていた。つまりは止まっていた。撃つ。殺す。
同じことを繰り返した。立っている人間は居なくなった。
残るは彼等のモノズだけだ。
契約者が居なくなって尚も、いや、だからこそ、だろうか? 彼等は鬼気迫る様子で僕に迫る。
「……苦しませずに、やろう」
僕に出来るのはそれ位だった。
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