マシン

 僕の生まれた五百年前の時点で既に自動車は存在していたが、モノズは存在していなかった。

 つまりは別にモノズをタイヤにしなくてもタイヤをタイヤにしてしまえば良い。

 ……僕は何を言っているんだろう?

 まぁ、少し訳が分からなくなってしまったが、そう言うことだ。完全単一の目的にしか使えない嗜好品と化したタイヤ。

 それをシャーシに取り付け、動力源として午号を積む。

 形は違う。それでも午号には本人の――本機の希望通りに走って貰うことにした。

 デメリットは山の様にある。四機のモノズで分散していた仕事を一機に押し付けるのだ。遅くなる。馬力も無くなる。ボールホイールタイプのモノと比べれば軌道の自由性も圧倒的に落ちる。遅くて、鈍くて、動きがぎこちない。これがレースだったら、エントリー時点で最下位位争いに加わること間違いなしの性能だ。

 だが、これはクラッシュレース。相手を壊すと言う要素があり、レギュレーションでモノズの数が決まっている以上、メリットもある。

 他のチームが四輪を全てモノズにしたとしたら、その時点で残りは二。だが、僕はそれを全て午号にやらせる。で、在る以上、攻撃に回せるモノズの数は――五。機体数だけで言えば実に2.5倍の火力と言うわけだ。

 動きは遅い。

 確かに、遅い。

 だが僕は元より、狙撃手だ。親であるユーリ直々に『歩き回ったら死ぬと思え』と云われた引きこもりの王、言うなれば、キング・オブ・ニートだ。ちょっと違う気もする。


「……トウジ、注文通りに仕上げたよ」


 機械油で頬を黒く汚しながら、声に何時もの張りなく、それでも確かに『やり遂げた』と言う充足感を持って、アキト。


「流石だ、アキト。君は最高だ」

「君の持ってきた仕事が面白くてね、つい、はしゃいじゃったよ」


 拳と拳をぶつけ合う。

 そうして視線を向ける際には、鉄の馬。

 あらゆる悪路に対応する様に、大型のブロックタイヤを持つジープ型。運転席は前面と側面にガラスの代わりに鉄板を用い、カメラを設置することで、内側に外の景色を映すと言う防御重視のコンセプト。

 唯一、開け放たれた天井は僕の狙撃の為に、銃を固定する為に銃座が取り付けられている。

 運転席で僕のナビをしつつ、取り付けた二丁の機関銃の制御を受け持つのは、子号だ。

 ボンネットに置かれた亥号は搭載したLMGにより、弾雨を吐き出す。

 側面には戌号、酉号と言う射撃に優れ、戦闘経験豊富な二機を置く。

 そして、荷台部分。エンジンである午号の上に置かれるのは、最大火力、辰号。

 速さは要らない。欲しいのは火力だ。

 ヘルハウンドを積み込むことで戦車すら屠る鉄の猟犬――


「……鉄ハウンド」

「ヤークトフントアイゼンっ!」

「……そうですね、ヤークトですね」


 アキト提案の方がかっこよかったので、そっちにした。







 シンゾーの機体は何だか未来的だった。

 四つのボールホイールタイプのタイヤ、前鬼、後鬼、牛頭、馬頭の四機のモノズを縦に配置したバイクの様な機体。流線形のボディは風を流し、伏せる様にして乗ればシンゾーの身体はまさしくマシンと一体となり、側面は兎も角、正面と背面からの被射撃面積を極力減らす。

 完全に、シンゾーの操縦技術だけを武器とした高機動型、火力はシンゾーの手持ちのみで、徹底的に重さも削ったソレは、僕のヤークトとは対照的な設計思想だった。

 火力は要らない。欲しいのは速さだ。

 それが、カリス監修のもと、組み上げられたモンスターマシン――


「ブレイドですわ」

「……トウジ、名前の時点でヤークト、負けてないか?」

「そういう君は衣装に負けてますね?」


 チアガールの様な衣装を纏った。イービィーを見ながら一言。

 レースクイーンですか? クイーンを名乗るにはボディの起伏が足りなくないですか? だから露出する意味は無いですね。ジャンパー羽織ってなさい。


「かむよ?」

「噛まないで下さいよ」

「正直に、おれが人に見られるのが嫌だって言えば良いのに……」

「……」


 良いから着ていろ。無理矢理、羽織らせて、ジッパーを上げる。どうしよう。下に何も穿いてないみたいになってしまった。まぁ良いか。

 僕はそう結論付けた。


「高火力な僕のヤークト、高機動な君のブレイド。互いに得意分野が被らない分、良い所まで行けるんじゃないですかね?」

「ンなに簡単に行けば楽だけどよ――特化型は型に嵌れば強ぇけど、外れると目も当てられねーぜ?」

「シンゾー、犬の先輩として教えておこう」

「?」


 少し先輩風を吹かせて、得意げに。


「状況を無理矢理、型に嵌めれてこその犬だ」


 僕はシンゾーにそう言った。

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