バンリと言う男
「何でドローンを積んでいないんだっ!?」
我がキャンプ地が誇る仕事が出来る大人の男、ハワード。ワーグマンが僕とシンゾーのマシンを見て、きしゃー、と吼えた。
「ちゃんと教えたよな? クラッシュレースでは運転に集中するために武装ドローンを積み込めって!!」
「……」
「……」
――そういえば、そんなことを言っていた気もする。――あぁ、けど忘れてたな。――忘れてたんなら仕方がない。――あぁ、そうだな。仕方がねぇ。
シンゾーと無言でアイコンタクト。言葉を交わして、一回、深く頷きあう。
「勿論、覚えている。だが、考えてみても欲しい。ツリークリスタルの影響がある以上、実戦でのドローン使用は現実的ではない」
「あぁ、その通りだ。俺達はただ勝ちに来たんじゃねぇ。牧羊犬になりに来たんだ。お遊戯会の練習に興味はねぇよ」
僕とシンゾーは取り敢えず、思いついた言い訳を並べてみる。
「……成程。良い心がけだ。所で、『勝てば官軍』という言葉は知っているな?」
言いながら、ハワードさんが、親指で後ろを指し示す。
そこにはプロペラドローンの確認をしている大型の車両があった。
「……」
シンゾーはソレを見て、とても嫌そうな表情をしていた。だが、僕は何のことだかさっぱりわからない。この荒野で生きていけるか微妙なラインのあの金髪の優男がどうかしたのだろうか? そんな彼にすり寄っているカリスに何処となく似ていながら、性格の悪さが滲み出ている金髪少女の方なら覚えがある様な気がしないでもない。
「……」
僕もとても嫌そうな顔をした。
「猟犬の方は知らないだろうから、教えてやる。アレも牧羊犬候補だ。アロウン社の技術開発班の一部が全面的にバックアップについた、な」
「……姉妹喧嘩は他所でやって欲しいものですね」
ハワードさんの言葉に、作業着を着たカリスを見る。
にっこり優雅に笑っていた。
多分、何を言っても無駄だろう。
「……シンゾー、腕の方は?」
「ギリで
「ドローンの性能次第ですね」
シンゾー並みの機動力で、僕並の狙撃能力を持って居ると言うことは余程ないだろうが……プリムラさんにはオート・スナイプシステムがある。ツリークリスタルの影響が少ないこういう場ではそれなり程度に気を配った方が良いかもしれない。
参加チームは全部で三十五チームあるらしい。
奇数だ。
どうする気なのだろう?
疑問に思ったので、手時かな所に居たクラッシュレースオタクにそのことを聞いてみた。
「そんなことも知らないのか、猟犬?」
「……」
鼻で笑われたのでこのオタクのマシンがピンチになっても助けないでおこうと思う。
「予選はデスマッチだ。四組――今回だと、九、九、九、八にわけて削りあい。各組の中で最後まで生き残っていたマシンがいるチームが準決勝へ進出ってわけだ」
「成程」
「ここでマシンの損傷が大きすぎると折角、次に進んでもまともに戦えずに終了……ってこともある。ギブアップも出来るから、速めにギブアップしてチームメイトに後を託すと言うのも戦略だぞ?」
「と、言うかですね、参加チーム少なくないですか?」
大企業の三社合同開催にしては、と僕。
「ある程度のコネやら実力が無いと出れないからな。審査段階で弾かれたチームもある」
「……良く僕等、通りましたね」
「今回に関しては試験の為にシンゾーが動いたんだろ」
「あぁ、そう言うことか……」
嫁の実家の権力に頼ったか。
「それに関係して一個良いニュースがあるぜ」
屋台にでも行ってきたのだろう。きゃいきゃいはしゃぐ子供達を引き連れ、シンゾーがソースのいい匂いをさせながら近寄って来た。
「たこ焼きですか?」
この時代、タコ居たんですね。
あぁ、でも一説によると人類が滅んだあとの地球の支配者はタコだと言う説もあったな。クトルゥフ的な方では無く、学術的な方で。
「遺伝子操作して人工培養されたタコらしいぜ」
「……」
それはタコと言っていいのだろうか? 最早、
「それで、良いニュースとは?」
仕方が無いので、ニュースとやらの味見をすることに。
「バンリって知ってるか?」
「……君と同じ牧羊犬のパピーだろ?」
勿論、知っている。
シンゾーと並んでの次期、牧羊犬の有力候補だ。
現在、牧羊犬の仔犬はシンゾーを含めて、四匹。だが、その実、僕が犬に相応しい実力を持って居ると判断できたのは、シンゾーと、バンリの二匹だけだ。
シンゾーと同じく、【操縦】技能のランク4持ち。量と質の境目に立つ英雄の雛型。それがバンリだ。
今回の試験、実質、彼とシンゾーの一騎打ちだろう。
シンゾーを動とするなら、彼は静。
冷徹で、鋭利な氷の刃。【罠師】の技能を持ち獲物を追い込み、仕留めることを得意とする彼は、状況が違えば、猟犬となっていた可能性も高く、僕としても他人事ではない。
さらに、その裏に今回付いたメカニックも曲者だ。まさかのエンドウさん。多数のモノズ制御を得意とする彼の技術を応用すれば、少ないモノズでかなりの数のドローンを動かせるだろう。限定的な戦場。お遊戯会の舞台。それでも、ドローンが使える以上、その火力は笑って済ませることは出来ない。
断言しよう。
この大会の優勝者は、彼かシンゾーのどちらか――
「アイツな、参加の選考段階で落ちてたぜ」
「……」
この力強く握った拳をどうしたら良いのだろう?
あとがき
その内ちゃんと出てくるさ
バンリさん
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