追走

 僕の小隊員は兎も角、事前に保護されていた子供達の中にはカスターに感謝している子供もいるかもしれない。


「彼等は勇敢に戦った。だが……」


 なので僕は、そんな言葉の後に悔しそうに「くっ!」と言うことで結論をぼかした。

 後に続くのが。『だが、死んでしまった』も『だが、最終的にはクソだったので僕が殺した』も今の結果が同じである以上、さして違いは無い。

 荒野に放置された孔の空いた四つの死体はインセクトゥムか、野犬か、死体すらも金に換えるスカベンジャー辺りがどうにかするだろう。

 中には泣く子もいた。少しだけ心が痛んだ。

 だが、まぁ、少しだけだ。だから気にしないでおこう。


「ユノ、君達はこのままキャンプ地へ戻れ」

「はいっ! ……あの、トウジさんは?」


 ――どうするんですか?

 その問いかけに僕は準備を進めながら答える。


「僕はこれからが本番だ」


 言いながら、机の上に並べた脱着式マガジンに鈍く光る弾丸を詰めて行く。師匠曰く、一流は弾丸一発にもこだわり、厳選するらしいが……僕は特にそう言うことはしない。

 理由は簡単だ。これまた師匠曰く、超一流は弾丸一発にこだわらない、どんな弾でも仕事をこなせる。いや、こなせて超一流だと教えられたからだ。

 そう言う分けだ。

 決して面倒だからではない。

 こうして作業を進めていることからも分かる通り、残念ながら僕の仕事は終わっていない。その実、残業ですらない。定時内の業務だ。

 本来の目的が『誘拐犯』の確保である以上、A0が追跡を開始して漸く業務開始だった。

 何故、追撃部隊が来たのかなど、気になることはあるが――さっさと使用した物資を補充して追わないといけない。


「……一応、聞いておきますけど、誰か残しますか?」

「すまないが――」


 要らないな。

 そう言って肩を竦めて見せる僕の元に丑号が転がって来た。

 建材の補充に、食料と水の補充が済んだらしい。


「おわった」「がんばった」「ほめろ!」


 そして三人の小僧がやって来た。

 手ずから弾を込めて準備をした伍式程愛着を持って居ない漆式軽機関銃、そのマガジンを用意して貰って居たのだ。


「ご苦労」


 お駄賃だ、と未だ余っているハッカ飴を上げた。


「……わかった」


 凄く微妙な顔をされたので、携行食のチョコをくれてやった。とても嬉しそうだ。欲しそうだったので、ユノにもあげておいた。








 襲撃地点までモノクで走り、そこからA0部隊の足跡を追うことにする。

 目印とするのは、パン屑代わりに酉号が落として行ったビーコン。直径四センチ程の円盤を荒野から探すのは大変だが、その円盤が信号を発していれば話は別だ。

 メルクリウス。

 子号と卯号のモノであるアロウン社製のシリコンボディ、情報戦用小型モノズは偽装され、暗号化された信号を拾い、足跡を辿る。

 この時代のヘンゼルとグレーテルは馬鹿正直に歩いた後にビーコンを落とすのではなく、本命の位置情報を記録し、シューターで打ち出しているようだ。

 だから一個目の位置から二個目のビーコンの電波が拾えない。

 一個目を拾い、ソレが撃たれた場所を特定し、そこから進行方向に進むと、二個目の電波が拾えると言う偽装が為されている。


「……」


 ややこしい。

 匂いで追う気になって居たルドは出番が無くなり、少し不満そうだ。かりかりと耳の後ろを掻いてやる。はわ、と甘えた声で鳴きながら顔を手に押し付けて来た。

 まぁ、そんな分けで僕とルドに出番は無い。

 卯号の耳と、子号の読みに従い、荒野を歩く。

 酉号がこんなややこしい手段を取ったのは追っていることがバレるのを警戒してのことだろう。僕がソレを無駄にするわけにはいかない。モノクに乗りたいのを我慢し、熱に刺されながら歩く。

 そう、歩いた。

 半日ほど。


「――、」


 追いつかない。目を凝らす。地平線は彼方。建造物は見えない。まだまだ歩きそうだ。


「午号」


 人間の足は遅い。体高が低いルドも地面からの返しが辛そうなので、一緒に乗せる。

 荒野に砂の尾が靡き、僕はここだと自己主張する。

 僕は酉号の気遣いを無駄にすることにした。







 そこから睡眠時間は五時間程で、丸一日、走り続けた頃に、ソレが来た。

 酉号か戌号、意表をついて巳号だろうか?

 少なくとも僕と同類で、雑な部類に分類される寅号と申号では無いと思いたい。

 ある程度目的地の手前のビーコンから、モノクから降りる様にと言うメッセージが入っているようになった。ゴールまで行った後に、引き返してメッセージを追加したのだろう。


「……成程」


 これがモテる男の気遣いと言う奴か。僕も見習おう。いや、無理だな。面倒だ。やめた。

 僕は彼等の気遣いに従い、午号から降りる。目的地が近いと言うのなら、警戒をする様にしよう。小型で目立たない上に、耳である卯号、それと荒野と保護色になり、鼻と耳での警戒が出来るルドの一機と一匹を先行させる。

 僕も暑さに耐え、未号が造ったギリ―スーツを纏い、子号、未号と共に第二群に入る。


「……目立つんだから仕方が無いだろう?」


 何やら不満そうに、ゆるーく、目を点滅させる丑号、辰号、午号、亥号の大型四機は最後尾、第三群を造って貰う。


「子号、観測」


 丑号から伍式を受け取り、スコープを取り付けて調整。

 名銃であり、熱に強い伍式とは言え、荒野の熱は容赦が無く、残酷だ。

 少しだけ『顔』が変わっていた。

 薄化粧。そんな気がする。銃に女性名を付けるのはこういう所から来ているのだろうか? 今日も君はきれいだよ、シャーリー。「……」何故かイービィーの顔が浮かんだので止めよう。

 伍式を背負う。歩くので、不意の襲撃に備え、ムカデの頭部装甲を身に着ける。

 ォン、と重く震え、荒野に一つだけの目が放つ光が落ちた。

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