ロシナンテ

 一歩、二歩、三歩――歩いた辺りで面倒になったので、言い訳を考えるのを諦めた。

 端末を確認する。通信可能範囲内に、寅号、巳号、申号、酉号、戌号の五機からなるA0が居ないことを確認した。酉号からの置手紙ならぬ置きメッセージは『追跡を開始した件』。彼等なら上手くやるだろう。そんなことを思った。


「君っ! どういうつもりだ! 指示にも従わずにっ!」

「団長サンよぉ……次の言葉に気を付けろよ? それによっちゃぁ、アンタ――」


 攻める様な視線。蔑む気にすらならない。


「黙れよ、無能」


 一言。


「ちょっと、アンタ! 何、その態度っ?」

「……そう言うの、どうかと思いますよ?」


 女性陣も騒ぎ出した。

 僕は無言で頭部装甲を脱ぎ、顔を見せた。


「――え?」


 それだけで男性陣は黙る。


「ねぇ、謝んなさいよ! アンタの取った勝手な行動で私たちがどれほど迷惑したか――」


 だが女性陣は黙らない。


「おい、カスター」

「?」

「君のことだ。貴方のことだ。部下の進言もまともに聞けない無能指揮官。運ぶ価値の無い荷物でしかないクソ野郎。僕はあの防衛戦以来、君のことをそう呼んでいる。分かったか? 分かったな? だったら返事をしろ、無能指揮官カスター

「……は、い」

「声が小さいな? 返事もまともにできないのか? 良い。最初から君には期待していない。――ソレを黙らせろ」


 僕の態度に更にヒートアップしそうな女性陣をワイズマンが必死に止め、カスターも必死で彼女達に言い訳をしている。

 言い訳の内容は酷いものだ。男二人が根拠としていた強さが全て『僕』のモノであるのだから当然だろう。元から間違っている以上、言葉で飾っても無理が出る。

 相手をするもの馬鹿らしい。

 もう相手にするのは止めよう。


「負傷者報告」


 僕は簡易塹壕の向こう側で怪我人の治療に当たっている子供達に声を掛ける。


「小隊の負傷者は私だけで、打撲、軽傷です。保護対象者に、軽傷者が三名。ただ、一人……」


 代表してユノが答えた。言い淀んだ彼女の視線の先を追う。小さな女の子が居た。右足が血だらけだ。あぁ、これは破片にやられたか。

 生きている人員が欲しかったのだろう。

 初撃の……恐らくはランチャーによる一撃はバスの動きを止める為に、中央下部に撃ち込まれていた。その際のバスの壁が砕け、彼女に刺さった。同じ様な位置に居たユノにケガが無いのはムカデを着ていたからだろう。脆いプラスチックでも、人間の皮膚よりは硬いし、割れれば鋭い。


「……未号、頼む」


 唯一医療の心得がある未号に投げる。骨には届いていない。だが、出血量が多い。早く医者に見せた方が良いだろう。僕の素人判断で分かるのはその程度だ。

 地図を確認する。現在位置からだと――戻った方が早いな。

 ボールホイールを担当出来る大型は――丑号、辰号、午号、亥号。行けるな。バスを改造しよう。


「未号――は、駄目か」


 申号も居ない。工作が得意な奴は居ない。だが、モノズは例外なく一流の工兵だ。問題は無い。


「辰号、午号、亥号、三号車の補修、装甲を厚くしろ、基本詰め込むので空間を広げる必要は無いが、ベッドを一つ用意してくれ」

「丑号、ハウンドモデルと伍式を。身に着けるのを手伝ってくれ。その後は未号のフォロー」

「子号、卯号、周辺索敵。別動隊を警戒」


 近寄って来た丑号がぱかり、と口を開ける。中には丸められたムカデが入っている。今着ているアラガネを脱ぎ捨て、着なれたハウンドモデルを身に着けて行く。

 血の色をした赤い糸、DNAフィラメントが人口脊髄に絡みつく。増えた感覚により視界に一瞬、ノイズが奔る。装甲を完全にはめ込み、言葉。「同期開始」。右手を握って、開いて、握る。中の肉体と外の肉体のズレが潰される。外付けの肉体が僕のモノとして機能をしだす。

 頭部装甲――は身に着けずに、帽子を被り、伍式を肩に担ぐ。

 そうして準備が整った所に未号が転がって来た。治療が完了したらしい。


「ありがとう、助かった」


 一言声を掛けると、気にするなとでも言う様に、ピッ、と電子音。それからバスの改造の指揮をとるべく、製造班の元へ転がっていった。







 襲われて、撃退して、撤退させて、別動隊が追う。

 場所が分からないなら案内して貰えば良い。

 僕が選んだ作戦はそういう種類のモノだった。

 その為に“弱い”ふりをして釣り上げる必要があった。

 その為には猟犬である僕では駄目だ。名前も、顔も必要ない、弱い傭兵。ソレを演じる為の餌として子供達を使った。

 それはまぁ、巧く行ったと言って問題無いだろう。トラブルはあったが、A0が敵を補足して追っている。


「……卯号、見間違えでは――なさそうですね」


 だが、これは予想外だ。

 双眼鏡で覗く先に砂煙が立ち昇る。

 六輪トラック数台が見えた。この時代の技術体系から違うソレを使うのは、今回のターゲットである、『誘拐犯』の特徴だった。


「……」


 何故おかわりが来たのだろう? 考える。これまでも、彼らが襲撃を失敗したパターンはある。その場合、情報を残さない為に逃亡するのが常だった。ソレは正しい判断だ。僕もそう思う。

 だが、今回は戻って来た。A0は――通信可能範囲に居ない。つまり、アレは純粋な追加戦力と言うことだろう。

 考える。考えた。答えはでない。ならば仕方がない。目の前の現実と言う奴に対処しよう。


「――小隊各員はバスで保護した人員の護衛に、街へ戻れ」

「午号、モノクへ。未号、それを手伝え」

「その他のモノズはこの道を塞げ」


 幸いにも道の両端はツリークリスタルの群生地だ。道を塞いでしまえば、あとは大きく回らなければバスをスムーズには追えない。

 戦場の限定化。

 場所を区切れば状況が区切られる。

 強いと言うことが状況への適応力であるのならば、先手を打って戦場を選んだ方に幾分か分があるのが道理と言うものだ。

 流石はモノズ。工兵だ。一度、簡易的に陣地を築いていたこともあり、あっと言う間に、バスが横倒しにされ、土嚢が詰まれ、道が塞がれる。


「子号、卯号、僕と一緒にS1。子号はいつも通りに観測手、卯号は更に追加が来ないかの警戒を」

「午号、丑号、E1。逃亡準備を。今回の作戦は簡単だ。ヤバく成ったら逃げるぞ」

「辰号、未号、亥号、それとルド、A1。未号、君がリーダーだ。辰号、亥号、君達は高火力ではあるが癖が強い。だから言おう。加減をするな、焼き払え」


 指示を出し、足元に転がって来た子号を抱え、横倒しになったバスの上に陣取る。

 子号が即興で造ったクッションを投げだし、そこに銃身を置いての――伏せ撃ち。

 敵先頭は凡そ、二千メートル先。


「――、」


 当てられる。だから当てた。

 タイヤを撃ち抜く。速度が乗っていたせいだろう。バランスが崩れた。蛇行するトラック。叩き込まれたハンドルがどうにか車体を安定させようとするが――それをさせないのが僕の仕事だ。「……」意識の外側で手が動き、レバーを煽る。視界は蛇行するトラックを捉え、銃身の先に次のターゲットを置く。――今。

 目に移ったのは少しだけ先の未来。

 弾丸が飛ぶ間に世界が視界に追い付く。

 狙い通りに蛇行するトラックの隣のトラックのタイヤを撃ち抜く。――あぁ、当たり所が良かったな。いや、良すぎたな、か?

 タイヤが外れた。

 大きく車体が傾き、先に撃った一台目にぶつかる。速度が落ちる。

 急ブレーキ以上の急ブレーキは大事故の元だ。

 押される様に二台のトラックが前に出たかと思えば、止まった。

 敵の進軍が鈍る。

 だが鈍っただけだ。停車した二台を避ける様に列が膨らみ、迂回して両サイドが前に出て来た。あぁ、やはり伍式で対車両戦は無理があるな。そう思う。ヘルハウンドを使うべきだろうか? いや、無理だ。設置の時間を考えると無理だ。

 だが、目途は立った。


「ユノ、ケガで動けない君に仕事をやろう。リーダーをやれ」

「え、あ、はいっ!」

「良い返事だ。早速だが、命令だ。逃亡を開始しろ」

「ユノ、了解しました! ……あの、誰か残しましょうか?」


 はきはきとした声での応答。それを聴きながら、再度、世界を切り取り、遠くを見る。


「ん? あぁ、良い。必要ない。言い方は悪いが――」


 引き金を引いて、レバーを煽って、また引き金を引く。それを五発分ワンクリップ


「足手まといだ」


 トラックが倒れた。車軸に当てられれば、自重が重いこともあり、タイヤが外せる。

 だが、難易度が高い。有効な戦術ではあるが、僕に向いている戦場ではないな。そう思う。だから――


「気にせずにさっさと逃げてくれ。僕もさっさと逃げたいんだ」

「――――りょ、了解です!」


 狙撃手でもない彼女には刺激が強かったのだろう。ポカンとした表情。それでも、意識を取り戻し、バスに向かうユノに――


「待ってくれッ!」


 バカが声を荒げる。

 無視をしたい。だが、バカには理屈が通じず、バカ程声が大きいのが世の常だ。ユノでlは押し切られる可能性があるので、仕方が無く。

 敵先頭の距離は少し速度が鈍ったこともあり、千五百メートルと言った所。それでも接敵まで、残り一分無い。さっさと無駄なことは終わらせたい。それが僕の本音。


「待ってくれ――ボク達もバスには乗らない」

「……」

「君がボクを嫌っているのは知っている。それでもボクも――ボク達も戦わせてくれッ!」


 何やら決意のこもった様子でカスターとその仲間たち。


「……どうぞ」


 僕が言うと、男性陣はバスの影に女性陣は土嚢の影に隠れた。そこから支援射撃をするつもりらしい。


「……バスに、乗る気だったんだ……」


 嘘でしょ? と言いたげにユノが言った言葉が僕の代弁をしていた。

 どれだけ図々しいのだろう、アレ。

 心配しなくても君達の席は無い。







 偉人曰く。戦いとは、数らしい。

 カスターとワイズマンと言えど、一応、兵士としての基礎位はある。

 1と数えられなくても、0.5くらいならカウントしてもいいだろう。そう判断する。


「では、バスに捕まってください。千メートル後退して、陣地を再作成。未号、あぁ、このモノズです。彼の指揮下に入ってください」

「未号? モノズじゃないか?」

「モノズですね? それが何か? 時間が無いんだ。文句があるなら立候補するな。やる気のあるアピールは後にしろ。ほら、どうする、3、2、1、0」


 手を、ぱぁん、と鳴らす。ソレでカスター達は走り出し、バスの横に捕まり、走り去った。

 残りは三十秒。そろそろ敵の先頭がツリークリスタルの群生地に入り込んでいる。良い位置だ。


「辰号」


 やれ。

 それだけで火を噴く僕のチームの最大火力。

 車軸を狙うなどと言うセコイことをする必要は無い。地道さなど置き去りにする力。トラックを吹き飛ばし、横転させる。道がふさがる。トラックで追いたければ迂回しなければならない状況。それを造った。

 当初は、この後、軽くからかっての逃亡だったが――


「丑号、辰号牽引、千五百メートル後退」

「辰号、リチャージ」

「S1、A1、撤退。僕らも千五百下がる」


 今は即座に引く。

 横転したトラックからドラム缶達が出てくる。一部はトラックを解体し、大半はこちらに来ていた。

 そうだな。機動力が下がるのを許容してでも車を捨てるしかないよな。

 それでもドラム缶は兎も角、ドラムタンクは足が速い。呑気に眺めている時間は無い。午号に跨り、僕も逃げる。

 三十秒走って千メートル後退。

 土嚢ですらない。

 建材を発砲させ、土を混ぜた土色のクリームが湯気を上げていた。

 それが道に点在する様に置かれていた。

 経路を選ばせるための苦肉の策だ。軽く指で突く、スポンジの様に簡単に形を変えた。このままだと、歩くに任せてあっさり倒れてしまうだろう。


「固まりそうだろうか?」

「あぁ、大丈夫だぜ!」


 未号に聞いたのに、ワイズマンが答えた。


「……」


 未号が、問題ないと言う様に瞬きをしていた。そうか。なら良い。


「トラックは潰しました。来る敵兵をここで食い止めて下さい」

「――君は、どうするんだい?」

「更に下がって援護します」

「ッ! そんなのっ!」

「待てッ!」


 何かを言いたげな女性陣を制して、カスターが言う。


「――信じて、良いんだな」

「……」


 それはこっちのセリフだ。

 それを大人の世界の言葉で言うと――


「勿論だ」


 になる。加工がされ過ぎて原型を留めていないが、ソレで社会は回るのだから不思議な物だ。


「再編する。ルド、亥号、A1。ここで『防衛』に加われ」

「丑号、辰号、A2。君達もだ。ただし、丑号、君は牽引体制を維持しておくように。攻撃参加は辰号だけだ。――あぁ、少し離れておけ。小物が相手だ。ボールドローン展開し、威力よりも手数を増やせ」

「子号、未号、卯号、午号、S1。僕に付き合え」


 今度はカスター達の面倒は見ない。

 好きにさせておく。当てにしていないのだから、この位で良い。

 五百メートル下がる。午号の上に座る。左膝を立て、その膝の上に左肘を置き、そこを銃座とする。右足首に座り、取った構えは――漆射しっしゃ

 それで先頭を走るドラムタンクを撃ち抜いた。さぁ、試合再開だ。

 カスター含む前線班に求めるのは遅延。遅らせてくれればそれで良い。時間を作ってくれればそれを僕が『使う』。


「……」


 だが、これは予想外だ。

 余り役に立たない。

 カスターと女性陣には撃つのをやめて貰いたい。弾がもったいない。かろうじて役に立っているのは、彼らが連れたモノズと、ワイズマン位だ。

 亥号とルドの負担が大きい。帰って来いと言いたくなる。だが、幾ら無能でも、役に立っていない位だと、流石に見捨てられない。僕は想像以上に良い奴の様だ。


「――、」


 方針転換。

 カメラアイを狙って綺麗に仕留めるのを止める。

 速度を優先し、仕留める速度を上げる。

 狙いがズレる。偶に仕留めきれないのが出る。だが、動きは鈍る。それで十分だ。亥号のLMGが食い破る。


「?」


 敵の進みが早くなった。何故だ? そう思った瞬間に、観測手――僕よりも広い視界を持って居る子号からメッセージ。


 緊急:敵前逃亡発生のお知らせ


 一瞬、何を言われたのかが分からなかった。

 だからスコープから顔を上げる。

 カスター達がモノクに乗ろうとしていた。


「……それは何の真似だ?」


 僕の冷たい声が通信にのる。


『むっ、無理だ! こんなっ、こんなのっ!』

「……十分なフォローはしている。引くタイミングの指示はこちらで出す。それ迄待て」


 まだ大丈夫――と、言うか大丈夫だった。ワイズマンとモノズは役に立っていたのだ。


『アンタは――ッ! 後ろから、安全な場所から撃ってるからそんなことを言えるのよっ!』

「……」


 どうにも女性の怒声と言うのは苦手だ。悪いが通信をオフにさせて貰う。


「ワイズマン、君はどうだ? ここ数分の君の働きはそれなりに悪くなかった」

『へ、へへっ、仲間をっ! 裏切れるわけがねぇだろうぉぉぉっ!』


 主人公みたいなことを言われた。


「最後の確認だ」

「君達が引けば、先に逃げた子供達に危害が及ぶ」

「それは理解できるな?」

「理解できた上で君達は逃げると言っている」

「良いんだな?」

「――それで本当に良いんだな?」


 問いかけ。返って来たのは――


『――』


 無音。

 ……。そうか。残念だ。残念だが――仕方がない。


「辰号、やれ・・


 無数の光が空に昇る。

 それは辰号から伸びたボールドローンが発した光の線だ。

 光の線はその戦場における『敵』を焼く。敵は――カスター達のモノズだった。


『――っつ何をッ! 君は、何をしているんだッ!』


 数秒の沈黙の後に、爆発する様に叩きつけられるカスターの叫び。

 僕はそれに応じる。


「君達は僕の敵だ」

「敵だから、守らない。気も使わない」

「それでも元味方だから助かる道も用意した」

「足止めをすれば、僕が撃ってやる」

作戦名コードロシナンテ」

「ロバ以下と揶揄されながらも、彼は歩き、前へ進み、彼の英雄を戦場に運んだ」

「見習え」

「さぁ、死に物狂いで壁に成れ」


 通信をオフ。喚く彼らの言葉は最早聞こえない。「A1、A2、後退」。見捨てろ。言葉に出さなかったその言葉に、モノズ達は従い、ルドが、ちらりと後方を確認して――やはり見捨てた。カスター達は何やら言っているようだったが、直ぐに諦めた。

 モノズは無い。

 だから逃げられない。

 ならば戦うしかない。

 威嚇射撃は射手が減ったことも在り、意味をなさなく成り、あっさりと接敵を許す。マガジンを換えている暇は無い。カスター達は僕のアドバイス通りに、死に物狂いで動く。

 カスターがタックルをする。僕はその頭上を通して弾を置いた。

 ワイズマンが抱き着く様にしてドラムタンクを止める。良い動きだ。ワンショット。

 女性陣はもう少し蛮勇だ。AKの銃身を握り、野性を剥き出しにタコ殴りにしている。「……」。アレは手出し無用だな。そう判断した。


「A1、手を貸してやれ」


 更に足止めの数を増やす。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 大きく吸い込んだ息を小刻みに吐き出し、その度に引き金を引く。


「ふーっ」


 五発ワンクリップ。打ち切ったところで、大きく吐き出し、次弾を装填。

 狙う。

 撃つ。

 それを早く、正確に行う。僕はそういう機械だ。

 幾らか時間が経った。

 ドラムタンク達に退くと言う選択肢は無い様だ。文字通りの全滅まで戦い続けた。

 時間が出来たので、丑号がヘルハウンドを設置したので、トラックも僕は撃った。

 前方に広がるスクラップの群れは僕が造り出したある種の作品だ。

 何の益も無い癖に造るのに苦労だけはしたので、芸術と呼んで恰好でも付けないとやってられない。


「総員、戦闘レベルダウン、散開」


 熱くなった亥号のボディを裏拳で一回叩いて『ご苦労様』。

 随分と前に突破された防衛線に向かって歩き出すと、護衛なのか、未号とルドが付いて来た。

 カスター達は頑張った。

 だが、まぁ、死に物狂いで奇跡が起こるとは限らないのが現実だ。

 随分と前に突破され、蹂躙されたそこには――


「……驚いたな」


 四人の若者がスクラップの影に隠れていた。生きている。しぶといと言うか、生き汚いと言うか……。


「――こ、今回のこと、タダで済むとは思わないことだ!」

「成程。『おめでたい』が正解だったか」


 吼えるカスターに苦笑い。


「? どういうこ――」


 こう言うことだ。

 僕は言わなかった。言う相手が『居なくなって』しまったのだから仕方がない。

 頭部装甲を纏っていないから硝煙の匂いが強い。

 手の中の自動拳銃から匂いがしていた。


「―――――え?」


 ワイズマンが理解をする前に、理解を出来なくする。これで残りは2。


「……なん……で……?」


 震える声での問いかけ。

 異性を殺すと言うのはやはり、少し特殊だ。

 僕は興奮することは無いが、勤めて心が動かない様になる。

 当然、それは表情にも出る。

 僕は無表情で彼女に言う。


「彼、カスターは三度目だ。無能は良い。だが無能で迷惑を掛けるのならそれは『害』だ」

「それに、流石に今回は駄目だろう」

「子供達の為にと言っておきながら、最終的にソレを捨てて逃げた」

「救いが無い」

「その良い見本だ」

「だから殺した」

「それだけだ」


 狙うのはムカデの装甲が薄いカメラアイ部分。二発も同じ位置に叩き込めば頭部装甲の中で弾が跳ねる音が聞こえるようになる。


「わた、わたしはっ! わたしはっ! ――一回目じゃないっ!」

「そうだな。すまない。だが、一応、これは問題行動だ。僕の考えは兎も角として、カスターの後ろが騒ぐ可能性がある。分かるだろう? それは嫌なんだ。これは口封じと言う奴さ」

「黙って、る……わたし、黙ってるわ!」

「すまない。君を信用することが出来ない」


 未号が持ってきた頭部装甲を身に着ける。ミュート。

 彼女達の叫びを聞かない様に、外の音を拾わないようにした。

 四回、引き金を引いた。

 銃声は一発も聞こえなかった。

 それだけだ。






あとがき

連休は四か月後まで無いと言われた。

何が良いたいかというと――更新は安定しませんッ!!

すみませぬぅ(。-`ω-)

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