ドラグーン
さて、問題だ。
僕一人で採掘場のインセクトゥムを全て相手に出来るか?
まぁ、無理だ。
だから僕は勝利条件を取り残されたシンゾー達の救出と定めた。
ならば
その為にはシンゾー達に機動力を持って貰うことと、シンゾー達との連絡をとれる手段を確保する必要がある。
「さて」
双眼鏡を取り出し、シンゾー達が立てこもっている保管庫を見る。流石はシンゾーだ。バリゲートを造りつつも、穴を開け、そこを狙わせながら火線を集めている。アレならば、簡単には突破されないだろう。
弾が持つ限りは。
時間との闘い。そう言うことだ。
何時もの様にネックレスを握る。タイマーを起動させる。三分だ。考えろ。
「……」
考えた。結論が出た。
「僕と午号をS1、巳号と卯号をS2、戌号をA1、酉号をA2、子号、丑号、申号をC1、最終突入目標をB1と呼称する。チームリーダーは僕、卯号、戌号、酉号、子号だ。先ずはB1周辺の敵を散らそう、その為に、チームSは狙撃でB1の周辺の敵を削る。S2はB1正面での隠密狙撃(ハインド・スナイプ)に徹しろ」
――ピッ!
「C1は合図が有るまではS2の護衛兼陽動を。撃ってS2の場所を特定させないように」
――ピピッ!
「A1、A2。悪いが君たちが一番きつい。索敵だ。採掘場内を走り回り、敵の位置を探って欲しい、戦闘は極力避けて下さい。報告はC1リーダー、子号へ。子号、君はAチームからの情報を纏めマップの作製をお願いします。その情報は僕へ」
――ピッ!
総員了解。その回答を受けて、僕は深呼吸をする。
僕の一言で僕の部下達は戦場に行くことになる。それをしっかりと意識した。
目を閉じる。目を開ける
「
――ビッ!
僕達は景気付けに空に向けて弾丸を放つ。
さぁ、踊って貰おうか、インセクトゥム。
正面はS2に任せた。
ならば僕の担当はその他、三方向だ。
入り組んだ採掘場は死角が多い。死角が多いから動いて撃つ必要がある。つまりは――
「
――ピッ
C1リーダーより最新のマップを受信、チームAが拾った敵の情報が表示される。脳内に描いた地図の中から狙撃ポイントを特定。くん、と重心落としながらの前傾姿勢で、午号のアクセルを噴かす。セミ・オートパイロットを起動、午号に半ば任せながらモノクで外縁部を走る。
「五十メートル先で、停車」
僕の命令を忠実に守った午号が止まる。僕は伍式を構える。スコープの中に移った命は三つ。息を吸う、止める。引き金を引く。三発撃って、三匹を仕留めた。まだ余裕だ。
「次。このまま三百メートルその後、反転」
二匹居た。二発で終わらせる。
「次のポイントは遠い。一気に戻ろう」
四匹居た。息が上がる。銃身が安定しない。数が多く、素早く仕留める必要があるのでムカデのロックが使えない。深呼吸をする。三匹目を仕留め損なった。五発撃つことになった。
ヘッドセットのゴーグルに表示されたゲームのミニマップの様なものを確認する。次は……近い。だが、団体さんだ。僕だけではきつい。戌号が傍に居る。それならば、とゴーグルのミニマップを端末に表示し、ポイントB2を設定する。
「S1からA1、十五秒後に挟撃の要請。ポイントB2で待機……行けるだろうか?」
回答:楽勝な件
良し。ならば――
「急ごう、午号。戌号がピンチだ」
僕のせいでな。
そんな苦笑い気味の僕の言葉に午号は土煙と共に巻き起こる風切り音で答えた。良くぞ間に合わせてくれた。そのボディを軽く一撫で、スコープを覗き込む。
見えた。都合、八匹。呼吸が荒い。殺し切るのは無理だ。そう判断した。ラピッドを気取る。狙いは雑に、手を速く。目立つ様に。
レバーを煽る様にして装弾を繰り返し、音を響かせ、注意を引く。悲しいな。六発撃って二発しか当たらなかった。息が上がっているのだから仕方が無い。仕方が無いし、これで言い。
僕に注意を向けたタイミングで建物の隙間から飛び出した戌号に腹を文字通りに食い破られ、混乱するアントの群れ。スコープの中でその様を見ながらも、次を装弾していた僕は、吐き出す呼吸に合わせて、心を鎮めた。
当てる。
頭の何処かで時計の秒針が鳴いた。
たん、たん、たん。
ゆっくり、それでも素早く。引き金を引いた。
八匹の群れは五匹が撃ち殺されて、二匹が噛み殺され、一匹が斬り殺された。
索敵能力に加え、高い戦闘能力を持つ戌号はとても頼りになる。
一時間。
走り続けて、撃ち続けて、殺し続けた。
そして漸く、その時が来た。
報告:B1周辺の警備が散った件
C1リーダー、子号からのその報告。それを待っていた。
巳号達の潜伏ポイントへ合流、B1の正面が見渡せる良い位置だ。
帽子を取り、アラガネの頭部装甲を纏う。
「S1リーダーから各位。仕上げの時間だ、働こうか」
――ピッ!
総員、了解。受けて、深呼吸、ネックレスを握る。午号のハンドルを両手で握る。
「突撃」
午号を駆り、僕は真っ先に飛び出した。
左右からアント達が道を塞ごうと迫るのを見る。止まらない。伸ばされた手がムカデに当たる。止まらない。進路上に身体半分入れて来た個体が居た。
「午号」
――ピィ?
「
――ピッ!
弾き飛ばす。引き千切る。止まらない。止まる気が無い。目指すは火線を集めるためにシンゾーが開けたバリケードの隙間、僕は走る。午号が走る。その後ろを他のモノズ達が走る。
電撃の矢は質量と速度でもって薄くなったインセクトゥムの包囲網を突き破り――
「待たせたな。騎兵隊のっ、お出ましだっ!」
僕は二時間ぶりに会ったシンゾー相手に格好つけてみた。
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