雇われる
軍事施設で眠っていた少女。彼女はジーナと名付けられた。
『X』と書かれたカプセルに入っていたので『
年の頃は十を超えるかどうかと言った所。幼く、記憶が無い彼女は何処か同年代と比べると大人びて見えるが、それでも無力だ。
そんな分けで、当然の様に僕は彼女をキャンプ地に連れ帰った。
連れ帰って分かったことは、彼女が“あたり”のスリーパーだと言うことだ。
エンドウさんの反応からうっすらと推測出来ていたことだが、同じコンセプトか近いモノなのだろう。
運動能力が高く、知能指数も高い。
兵士としても一流になれるだろうし、技術者としても将来が期待できる。
テストの結果は僕にそう告げていた。
だが、彼女はあっさりと兵士となる道を断った。キャンプ地の学校も、技術者系統を選び、空いた時間は教師役を務めている。
一応、キャンプ地の中では大人に位置する僕は彼女に尋ねてみた。それで良いのか? と。
彼女の答えは淡々としていた。
「だって、わたしではお父さんには届かないわ。わたしは一流にはなれるかもしれない。でも絶対に超一流にはなれないもの。だって、ねぇ、そうでしょう? 『強い』なんていうものが特定の環境下での物差しで測られる以上、特定環境下に特化したお父さんみたいな人の方が絶対的に強いもの」
年に似合わない早い諦め。それを感情ではなく、理性で行った彼女は随分と早熟だ。
……まぁ、それは良い。どうでも良い。
個人の進路だ。教育者でもない僕はいちいち口を挟む気は無い。問題は――
「どうかしたのかしら、お父さん?」
彼女の僕に対する呼び名だ。
「僕は君の父親でも何でもないのですが?」
「しっているわ、そんなこと。でもわたしは貴方と関りを持ちたいの。出来れば恋人が良いのだけれど……」
「勘弁してくれ」
「えぇ。えぇ。貴方がそう言う趣味ではないのは知っているわ」
くすくす笑う。
「それに、性癖的にお兄さんと呼んでも嬉しくは無いでしょう? だからお父さん」
そう言って、また彼女は、くすくす笑う。
「……そうですか」
説得が面倒だった。更に言えば、ちゃっかりイービィーを『お母さん』と呼んで味方につけていたのも大きい。
だから僕は彼女の好きなようにさせた。
師匠には僕以外の仔犬が居なかった。
だから僕には分からないが、仔犬が多いと、犬になるのも一苦労、と言うものらしい。
その日、僕は本来なら休日だった。
ドギー・ハウスが置かれた都市、ウラバと僕が住むキャンプ地を行き来するにはモノクでも一日かかる。そんな分けで仕事中は宿を借りることにしているのだが、朝の八時ほどに、その部屋のドアがノックされた。
帰る日の習慣として昼まで眠るつもりだった僕は、それを無視して布団をかぶっていたのだが、そうは行かないのがルドだ。起きてしまったので、外に出たい。胴長短足のコッペパンはそんな思考回路に促され活動を開始してしまった。
先ずはノックの音が響く扉をカリカリ掻く。
僕が動く気配が無いと判断すると、ぴーぴー、鼻を鳴らして悲しくなく。
それでも僕が動かなかったので、ついに彼は布団に顔を突っ込み、僕の素肌にその濡れた鼻を押し付けて来た。
流石にこれには耐えられない。
「……分かった、起きる」
だからそのミキプルーンみたいな鼻を押し付けるな。
今日もルドは元気だ。鼻はしっかり濡れていた。
欠伸を一回。トランクスとTシャツと言うラフな格好で寝ていたことを思い出す。服を着ようと思うが、面倒だった。諦めて枕の下から拳銃だけ取り出し、見張り番についていた寅号と亥号にハンドサイン。配置についたのを確認して、ドアの死角に拳銃を隠しながら、空ける。
「……警戒して損をした」
居たのはシンゾーだった。
「起こしてわりぃな」
「いえいえ、大丈夫ですよ。トラブルですか?」
もう一回大あくび。どうにもまだ目が覚めない。酸素が脳に届いていない。いけないな。そんなことを考えながら、拳銃をズボンの間に挟む。ごとん、と落下。ズボンでは無くトランクスだったので、保持できずに落ちてしまった。
「……」
「……」
微妙な沈黙が醸し出す微妙な空気。
「何かトラブルですか?」
僕はソレに負けずに、きりっ、とした表情で言った。
「この状況で言うとすげぇ不安になるんだけどよ、俺からテメェに仕事の依頼だ」
「? 一緒に仕事しようってことですか?」
別に珍しくもない。何をそんなに畏まっているのだろう?
「いや、猟犬として雇いたい。牧羊犬に為る為の試験が出されたからよ」
「成程」
そう言うことか。
三十分後にドギー・ハウスで落ち合う約束をして僕は身支度を整える。
さて、帰省準備の為に荷物を積んでいた丑号と、モノクになっている午号、この二機への良い言い訳を考えておこう。
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