ワンショット/ワンキル

 僕は、僕のモノズ達の質問に答えを出した。

 モノズ達は「成らば我らに任せておけ」と言った。

 迫撃砲の雨はもう降らない。

 十二機の僕の友人は今、眼下の戦場を駆け抜けている。

 携帯端末には、最後にやり取りしたメッセージが映っていた。


 宣言:必ず道を造ってこよう


 僕はそれを信じるだけだ。

 右でスコープを覗き込む。

 先に有るのは指揮官がいると思われるテントだった。

 左のヘッドセットに投影したミニマップの光点を見ながら、僕は世界を切り取った。

 息を、吸う。息を、吐く。大きくそれを三回繰り返す。

 痛む左足も、無視した。必要なもの以外の全てを捨てる。

 撃つ為の銃と、戦況把握のためのミニマップ、見る為の眼、引き金を引くための指、そして当てる先である的だけが有ればいい。


 イメージ。


 ただの白い世界にB型伍式狙撃銃がある。左目のミニマップで戦況を把握しながら、そのスコープを僕の眼が覗き、その引き金に僕の指が掛かっている。

 今はまだそれだけだ。

 音を拾う。

 誰かが近づいてくる音だった。誰かはトゥースの兵隊の様だ。

 狙撃手である僕の死亡確認、もしも生きていたら捉える為だろう。

 彼等は銃を構える僕を見つけ、銃撃を開始した。

 無いはずの頬を銃弾が掠める。肩に弾丸が突き刺さる。それでも僕は構えを崩さない。だから問題ない。

 邪魔なので無視をすることにした。

 音も捨てた。

 最後にルドの唸り声と、相手の悲鳴が聞こえた。だから大丈夫だ。きっと。

 時間が経った。

 どれ位かは分からない。

 未だに世界には銃と、マップと、眼と、指しかない。

 また時間が経った。

 不意に、ソレが映った。

 ミニマップに赤のタグが付けられる。

 右目が捉える。

 “誰か”から事前に聞いていたターゲットだった。慌てた様子で走っている。

 少しだけ“先”を狙って引き金を引いた。

 当たった。

 殺した。その瞬間、世界が帰って来た。







 ショットガンのバックストック叩きつけられる。伏せ撃ちの最中だったので、頭が地面に叩きつけられる。ボロボロになったルドが見えた。生きてはいるようだが、拙いかもしれない。


「ルドの、その仔犬の治療をさせて下さい」


 僕を打ち付けたトゥースにそう言う。

 キチン質の外殻を持つ二足四腕の異形だった。それでも言葉は通じる様だ。


「ッ! い、いや、それは、構わないが……自分は良いのか?」

「自分?」


 言われて、自分の身体を見る。

 ムカデに結構な数の孔が開いていた。血が流れている。痛い。


「できれば自分の治療もさせて貰いたいです」


 害意が無いことを示しながら、モノズ達を呼び戻す。大破が十機、中波が二機、死亡は無し。中波が丑号と未号だと言うのが有り難い。丑号は運搬が出来るし、未号は治療ができる。だが、そのモノズ達も何時殺されてもおかしくない状況だった。

 あぁ、と言うかシンゾーも取り押さえられているじゃないか。

 直前の戦闘ログを確認したらシンゾーはしっかりと牧羊犬をやっていたらしい指揮官を追い出したのは彼だった。そして、そのシンゾーも無茶をしたツケを払っていた。


「後、降伏しますので、同僚とモノズを回収させてください」

「構わんが、狙撃手が捕虜になるとどう・・なるかは分かってるのか?」

「えぇ、まぁ、一応は」


 リンチにあって、拷問に掛けられて、「殺してくれ!」と懇願する。差し詰めそんなルートだろう。


「その割に、随分と落ち着いているな」


 四本腕がやけに警戒している。


「まぁ、指揮官殺しと言う目的は達成しましたので」


 勝負には既に勝っているから問題は無い。


「はぁ? 嘘つくなよ、何時だ?」

「さっきですが?」


 四本腕が慌てた様子で何処かに連絡を取る。五分程放置された。ルドを回収して抱き上げる。僕の匂いを、ふんふん、嗅いで安心したのか、眼を閉じた。慌てた。だが、心臓の鼓動が伝わって来たので、大丈夫そうだ。

 ルドも頑張ったようだ。周りに黒焦げの死体が多数ある。


「……今、確認した。お前、あの状況で当てたのか?」

「? あの状況が分かりませんが、当てましたよ」

「――――――――――――――――ッ!」


 酷く驚いた様子の四本腕。


「お前はあの時、撃たれていたんだぞ?」

「そうなんですか?」

「……それ以前からその犬の攻撃で周りは悲鳴が上がっていた」

「そうなんですか?」

「直前に、その犬を俺が地面に叩きつけて悲鳴を上げさせた」

「……それに気が付かないとか、少し正気を疑いますね」


 腕の中のルドをそっと撫ぜると、眠りが浅かったのか、眼を開いた。まだ寝てて良いよ、と頭を撫でてやる。


「……俺は大分前からお前の正気を疑っているよ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ! ……ったく、調子が狂うな。おい、気が代わったお前とその犬、それとお前のモノズには捕虜に成って貰う。勿論、治療もする」

「シンゾー……同僚は、どうなるのでしょうか?」

「……俺はお前たちがどうしてあそこの廃都市に居るかは知っている。守りがいるだろ?」

「助かります」


 僕は頭を下げた。

 こめかみを撃ち抜いた指揮官の首に僕のヘッドセットを掛け、気絶したシンゾーの横に転がしておく。

 この軍も引き上げるそうだ。手土産としては十分だろう。

 僕はトゥースのレオーネ氏族に捕虜として捕らえられた。

 多分、生きてここに戻ってくることはないだろう。

 最後だと思って、廃都市を目に焼き付け、歩き出した。











 あとがき

 一応、これで第一章が、完です。

 やっと主人公が本音をしゃべったなぁー、と思ってます。

 と、言う分けでこれから他人にしっかり関わって行って欲しいです。関われ。

 このままだと割と消化不良化と思いますので、続きもお付き合い頂ければなぁー。と、思います。

 ただ、二章はちょっと書き貯め期間を頂きます。多分、1~2ヶ月。なので、一応、完結にさせて貰いました。

 リハビリ的に書き始めた作品でしたが皆さんの、お気に入りやら、コメントやら、ポイントやらを励みに一応の区切りまで書けました。ありがとうございます。





 因みに次の話はただのおまけですので、本編とは関係あるけどありません。

 もし、モノズが好きなら覗いてみてください。

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