制圧

 少し騒ぎ過ぎた。

 申号、酉号、戌号からなるエースチームであるA1、寅号、亥号からなるA2では対処しきれない量のバブルが集まりつつあった。


「H1、状況」

『階段を降り切ったである』

「敵影、規模」

『小で、威嚇。未だ混乱状態と言った所であるな』


 そうか。なら――


「僕等も行く。階段側の確保を頼む」

『了解である。フリーゲを行かせよう』


 通信終了アウト


「丑号、未号、ヘルハウンドの解体、辰号、チャージ。――それぞれ時間はどれ位いる?」


 回答:三分で解体完了

 回答:一分でチャージ完了


 踊る文字を認識。


「そうか、頼む。A1、A2、S2、先に行け。階段でフリーゲの援護に。リーダーは戌号、君に頼む。それと申号は『壁』を出す用意を」


 提言:我一人ではきつい件


 申号からだ。成程。確かに一機ではキツイだろう。あちらの戦力を考える。これからのあちらでの仕事を考える。近接は仕事が無いな。そう判断した。


「寅号、サポートに入ってくれ」


 一緒に滑り台を造っていたくらいだ。連携も取れるだろう。

 時計を確認する。ヘルハウンドの解体完了まで、あと一分半と言った所。「辰号、移動」。新調したばかりの漆式軽機関銃とクロスボウを抜き、手に取る。クロスボウを子号とつないで、チャージが完了した辰号の随伴に付いた。

 一分が経った。三十秒ほど早いが、未号と丑号が来た。僕はモノクになった午号に跨り、ハウンドモデルの頭部装甲を纏う。ォン、と重い音が響く。胴から供給された電力が頭を稼働させる。緑色のモノアイが光る。フルスロットル。手首を返し、午号に叫びを上げさせる。


「辰号の砲撃で道を造って駆け抜ける。丑号、辰号の牽引を。子号、君は僕と相乗りだ。未号、身軽な君は先に行け、殿しんがりは僕と君だ、午号。カウント――3、2、1、GO!」


 辰号のレーザーが空気を焦がす。オゾンの匂いが頭部装甲を纏って尚、鼻に届いた。


「……」


 オゾンって吸っても大丈夫だっただろうか?

 いや、だが、匂いを知っていると言うことは、過去に嗅いだ経験がある、即ち吸った経験があると言うことで――今も生きているのだから大丈夫だ。

 そんなことを考えていた。


 出遅れた。


 拙い。いや、拙くない。僕は殿だ。この位置が僕の位置だ。


「準備は良いか、午号?」


 ――仕事の時間だ。

 口の中で転がしたその言葉。受け取った午号が振動で答える。

 僕は見る。

 操縦技術は並だ。それでも勝つ必要がある。だから見る。それが僕の仕事だ。

 先行した未号は――捕まらないな。放置。丑号は流石だ。辰号を引いても速度は落ちていない。だが、悲しいかな。

 元から足が遅い。

 アレでは捕まる。だから行け。僕が行け。僕が行く。


「午号、任せた・・・


 僕は見る。それが僕の仕事だ。広い視野で捉え、狭い視野で狙う。見てない部分の動きを脳で見る。見ている景色から先を見る。クロスボウの引き金を引く。ぃン、と鳴く弦。放たれる炸裂矢ブラストボルト

 重いから飛ばない。重いから遅い。効果を発揮するまでに誤差がある。フレンドリーファイアの懸念だって残る。だが、それを補って余りある――威力。

 矢で爆発を運ぶ。そう言う用途の武器だ、これは。

 軽いバブルにはそれだけで十分な効果がある。爆風に煽られ、道を開ける。それでも一部はぷかり、と浮かんで僕らの進路に来た。左手の漆式で撃つ。単発にセレクタレバーを入れて三発。それで核一つ。「……」効果が薄い。予定通りに行こう。「子号」。言葉と同時に子号の口から水が出る。水を被ったバブルが溶け出し、小さくなる。いや、形が保てず、核だけを残して消えて行く。

 相手がバブルなのだ。

 当然の様に水鉄砲を持って来ている。

 丑号の前に出る。「使い切れ」。進路を確保する為に子号の小さな体に目一杯貯めていた薬液をぶちまける。こちらの援護に来ようとしていたのだろう。飛び出したルドが、少し被ってひゃん、と悲しげに鳴いていた。浮かぶ苦笑い。消す。和んでもいられない。午号を再度辰号の後ろに付け、直ぐ後ろに矢を落とす。三秒後、爆発。その爆風に背中を押され――


「君たちの出番だ、申号、寅号、穴を塞いでくれ」


 僕は目的地に辿り着いた。







 頭部装甲を取る。

 地下の空気は爽快さとは程遠い所にあったが、それでもムカデの頭部装甲の中よりは幾分マシだ。寄って来た丑号に頭部装甲を渡し、何時ものダブCの帽子を被る。


「状況は?」

「見ての通り、ここは確保完了。次の角までも制圧完了である」

「そうか――それで、今は?」

「頼りになる狙撃手待ちであるな」

「……」

「おや? こんな所に狙撃手が居るであるな」


 丁度良い、とリカン。


「……小芝居は止めて下さい」


 何をやれば良いんですか? と、僕。


「角の先、長い廊下の先に狙撃手がいてな、攻めあぐねている。頼めるか、ラチェット

「やってみますよ、わんわんわん、と。――卯号、ボールドローン、一個で良い。子号、卯号と連結して映像処理。なるべくロスなしで僕に映像をくれ」


 卯号がぱかりと口を開けてボールドローンを吐き出す。

 卯号はアロウン社製のハーミットだが、以前のアバカスのボディ、ガラテア時代の設計図は覚えている。だからボールドローンを造れる。当然本来のボディではないので、十全に性能は発揮できない。だが――

 近い距離なら十分だ。

 ボールドローンが通路に転がる。僕のヘッドセットに映像が映る。ボールドローンが撃ち砕かれる。僕は歩き出す。「! おい待て!」。エンドウさんに呼び止められる。無視。伍式を肩に当て、構える。通路に出た。


 世界から、音が、消えた。


 狙った。撃った。当てた。

 ドールは一発で殺し切れないので、武器を破壊。その後、二発で核――ドールの弱点である腰骨を丁寧に砕いた。

 それで肉ミミズの動きも終わった。

 スエンからもらったドールの設計図は有用なようだ。そんなことを思った。


「カバー」


 スコープを覗いたまま、淡々と言う。僕のモノズとルドが通路の先を確保すべく、出鱈目に撃ちまくりながら、通路を駆けて行く。

 それだけだ。


「……カバー」


 もう一度。


「! 突入である、続け!」


 それでようやく気が付いたリカン達が走り出す。角からドールが出てきた膝を打つ。装弾。うつ伏せに転んだその腰骨を撃つ。

 ぺぃ、と角の先に向けて戌号がグレネードを投げた。爆発。それに合わせて弾丸がバラまかれる。通路、確保。では僕も移動するとしよう。


「? 何か?」


 間抜け面のエンドウさんと目が合った。

 手にはAK。兵士兼任の学者さんだと言うのなら戦闘にも参加して欲しい。


「――大した腕だな、猟犬?」

「そうですか?」

「兵士としてもオレは自分を一流だと思ってたんだがな……」

「まぁ、僕はこれが本職ですので」


 これくらいはやります。肩を竦め、通路の先を視線で促す。ほら、突っ立って無いでさっさと行きましょう。

 角の先からは、太い笑い声が聞こえる。張り切り出したリカンの理不尽さが大爆発しているのだ。

 もう既にこれは作業の領域だ。






あとがき

多分、更新が安定する。

きっと安定する。


投稿時間、二十一時と二十二時、どっちが良いですかね? それともその他?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る