side E.B Day デート

 ※時系列的には『開戦』の前辺りのお話です。






 ある日、シンゾーと一緒にドギー・ハウスに行くと、パピー・ウォーカーであるマリィさんに手招きをされた。何だろう? 不思議に思った僕は特に何かを考えることなく、のこのことそちらに向かった。


「あれぇ? 何か、のこのこ来ちゃったねぇ、トウジくん?」


 甘い声で机に突っ伏したマリィさんはとろぉんとした目でこちらを見ながらそんなことを言った。


「? 呼ばれましたで、それは、当然、来ますが?」

「ふーん? 女の子が怖いから近づいてこないかと思ったのになぁ~」

「………………………………子?」

「ふふ、なぁに?」


 にっこり。

 背筋に悪寒が奔った。こわい。


「いえ、特には。何も。本当に、何もありませんが?」


 だから何時もの様に笑っておくれよ僕の可愛い仔猫キティ。と、僕。


「そ?」


 それじゃ、その似合ってないキャラに免じて許してあげる。と、、マリィさん。


「それで、一体、僕に」


 何の用でしょうか? と、小首を傾げてみる。


「あぁ、うん。トウジくんは、ホモじゃないのねぇ?」

「……全く違いますが?」


 何だ、その不思議情報は。


「ほんとにぃ?」

「本当に、です」

「えー……ほんとのほんとにぃ?」


 身体を起こしたマリィさんが上目遣いで僕を見る。

 前で組んだ腕が『女性らしさ』をむにぃ、と持ち上げた。


「――」


 思わず見てしまった。ぼくはわるくない。


「あぁー、ほんとだぁー」


 そしてそんな僕を見てくすくすと笑うマリィさんは、わるいひとだ。


「ポテトマぁーン、大丈夫だったよぉー、トウジくん、ホモじゃなかったぁー」

「そうか。それじゃぁ、俺が近づいても大丈夫だな」


 マリィさんが失礼なことを言うと、失礼なことを言いながらポテトマンがやって来た。


「……例え僕がホモだったとしても、僕は貴方を選ばない」

「おい、マリィー。これホントに大丈夫か? 露骨にツンデレって奴じゃねぇか。俺の様な美青年はホモの格好の餌食のはずだぜ?」


 口をへの字に曲げながらポテトマン。

 僕はマリィさんから鏡を借りて、それを無言でポテトマンに突きつけた。


「……」

「……」


 間。僕とポテトマンが見つめ合う。


「ふ、」


 僕は鼻で笑った。


「……ほぅ。良い子だ、駄犬。躾をしてやる」

「辰号、砲撃用意。S2、狙撃用意。A1、A2は辰号の砲撃後、店内に突入。時間稼ぎを、子号、丑号から伍式を受け取り所定の位置で待機、午号、君が要だ。僕を攫え」


 一息。


兎に角勝てオーダー・トゥ・ウィン、以上」


 と、キメ台詞を言った瞬間、マリィさんに僕とポテトマンは頭をはたかれた。


「お座りぃー」

「……お前から座れよ、駄犬」

「……いえ、足腰が辛いでしょうから、お先にどうぞ、ご老体」


 がるるー。


「あははぁー。ね、二人ともぉー……お・す・わ・り」


 マリィさんがにっこり笑った。


「……」

「……」


 僕とポテトマンはがるるーとやりながらも同時に腰を下ろした。


「それで、さっきの失礼なのは何なのでしょうか?」


 僕がホモとか言う失礼なアレは。


「それなんだがな、猟犬、お前、何でイービィーに手を出さないんだ?」

「……何でと言われましても、何となく、としか」

「じゃ、手ぇ出せ」

「……」


 何を言ってるんだ、このジャガイモ野郎は。そんな目で僕はポテトマンを見た。


「あー、今から説明してやる。あのお嬢ちゃんな、かなり“良い所”のお嬢ちゃんだ」

「一人称が“おれ”ですけど?」


 育ちが良いと言うのはカリスの様な女性のことを言うと思うのですが?


「こっち側の基準だとそうだろうがな、お嬢ちゃんは名前がアルファベット二文字だろう? そう言う名前の付け方をされるのはトゥースの中じゃかなり上の階級だ」

「だから手を出せ、と?」


 僕は露骨に嫌な顔をした。


「あらぁ、嫌そうー」

「僕は、純愛派なので」


 そう言う理由で女性に手を出すのはちょっとぅー。


「いや、お前、シンゾーに政略結婚押し付けてなかったか?」

「それは、それ」


 これは、これ。そして今が良ければそれで良い。シンゾーは今、幸せそうだから良い。


「まぁ、お前の主義など知ったことが無いから手を出せ。繋ぎ留めろ」

「それと、イービィーちゃんのことを心配してるなら大丈夫よぅ? トウジくんのホモ疑惑はあまりに自分に手を出さない彼女からの相談だからぁー」

「……そうですか」


 何を相談しているんだろう、彼女は。


「因みに断ったらお前がホモだと言う噂を流す」

「相手はシンゾーくんねぇー」

「さっさと行きやがれ、馬鹿がッ!」


 しっかり聞いていたシンゾーが絶叫していた。

 そんなわけで僕はイービィーに手を出すことにした。







 と、言うと僕は随分なロクデナシに思える。

 利益だけを考え、自分に好意を持っている相手に手を出すのだから。

 だが、僕がイービィーに好意を持っていないか? と問われれば、僕は『持っている』と答える。別に彼女のことは嫌いではない。


「つまり、トウジはちゃんと俺に欲情しているとっ!」


 いよっしゃぁー! とガッツポーズするお嬢様。

 黒のレザージャケットに、デニム生地のショートパンツを合わせた彼女は女性らしい曲線を描く白い太ももを晒したまま、叫んでいた。

 ブーツに隠れた両足と、長手袋で隠した右手。こうしてみると本当に人間にしか見えない。


「さ、抱け」

「……いやですが?」

「むぅ、何でだよぅ? デートだろ? だったら最終的には抱くんだろ? だったら早くヤろう!」

「ほんとにやめて」


 ヤろうとか言わないで。

 カップルがいっぱい居る喫茶店でそんなこと大声で言わないで。

 結構な数の男性が居た堪れない感じになってるから。

 僕はイービィーの手を取って急いで喫茶店を出た。イービィーの叫んだ内容が内容だったので周りからの視線が生暖かい。完全に『休憩』をしに行くと思われていそうだ。

 しないよ。ほんとだよ。


「なぁ、トウジ?」

「はい、何でしょうか?」

「お前、おれを抱かないんだよな?」

「そうですが?」

「じゃ、デートって何するんだ?」

「それは、こう、もっと普通に――」


 言葉に詰まる。

 普通って何だろう? どう言うのが普通のデートなのだろう?


「んんー? どうした、トウジぃ? お前、経験なさそうだもんなぁ? 結局、抱くっていう結論になったんだろぉ?」


 にやにやにやにや。獲物を嬲る猫の様に笑うイービィー。


「はっはっは、まさか」


 取り敢えずそう返しておいたが、実はそうだ。シンゾーに助けを求めたい。求めたいが、そうも行かない。だから頑張ろう。


「デートっていうのは、アレです。あの、あー……取り敢えず手でも握りますか?」

「ほい」


 左手を差し出された。人間と変哲の無いその手を握る。

 指が、絡まる。

 俗に言う恋人繋ぎと言う奴だ。

 イービィーが身体を寄せてきて、僕の腕を抱える。


「へへぇー」


 ふにゃり、と幸せそうに笑う彼女のことを僕は素直に可愛いと思った。







 バザールを適当にぶらぶらと歩いた。

 曰くウィンドショッピングと言う奴だ。


「トウジは伍式から買い替えないのか?」

「手に馴染んでいますので」


 二人で狙撃銃を弄りながらそんな会話をする。

 ウィンドショッピングだ。見ている物が少しばかり物騒ではあるが。


「そう言う君は武器を買い替えないのか?」

「うーん、買い替える……って言ってもなぁ」


 さすさすと右腕を撫でるイービィー。あぁ、確かに買い替えると言う表現はおかしいか。造り返るの方が正しい気がする。


「胤」

「あげませんが?」

「むぅ」


 イービィーが膨らんだ。


「キャンプ地、トウジの部屋、ごみ箱、丸まったティッシュ」

「やめて」


 不穏なワードを連呼するの本当にやめて。と、言うか――


「本当に僕の遺伝子はそこまで優秀なのですか?」

「うーん。優秀、と言うよりはおれとの相性が良いんだよ。ほら、おれたちトゥースは自分の身体を改造したり、寄生型を産んだりして装備を整えるだろ?」

「そうみたいですね」


 前に買ってた骨もおやつでは無く、生体弾の材料でしたね。


「うん。だから自分と相性が良い相手の遺伝子は何となく分かるんだけどさ、トウジはかなり良い。子供を造れば英雄が出来るし、武器を造ってもかなり良いのが出来る。だからおれはトゥースを裏切ってお前の傍に居る」

「酷いな。完全に僕の身体が目当てじゃないか」

「そうだな。それでもおれはこの感情を“恋”と呼びたい」

「詩的に素敵ですね」

「せんきゅー!」


 いぇーい! と繋いでいない手でハイタッチをしてみた。


「だからおれはお前に『抱いてくれ』って言ってるんだけどなぁー」

「異文化過ぎて上手く処理が出来ていません」


 と、言うか――


「そうなるとトゥースの文化だと結婚ってあるんですか?」

「ん? あるぞ。ソレは人間と一緒だ。元が人間だからな、幾つかの文化はそのままだ」

「……だったら『抱いてくれ』では無く普通に『好きです』とかで良いのではないでしょうか?」

「それでも良いけど、別にトウジはおれのこと、好きじゃないだろ? だったら――」

「いえ、普通に好きな部類ですが?」

「……ほぅ。もう一回言ってみようか?」

「好きな部類ですよ?」

「ぶっきらぼうに言ってみろ」

「好きな部類だ」

「よし、良いぞ。簡略化しろ」

「えー……」

「言わないなら……そうだな。泣くぞ?」


 見上げてくる青い瞳に、肩を竦める。

 それは困った。

 僕は別に彼女のことが嫌いではないのだ。泣き顔は見たくない。


「―――」


 僕は彼女だけに聞こえる様に、そっ、と三文字を耳打ちをした。

 そして思うのだ。


「えへへー」


 ふにゃり、と嬉しそうに笑う彼女はやはり可愛らしい。










 別サイトにて感想でリクエスト? されたトウジの貴重な餌やりシーンにして、イービィーの捕食準備シーンです。

 これとか掲示板ならあと一本位なら上げられるので、リクエストあれば書きます。

 なので、もしあればコメント下さい。

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