パピー
犬の
僕は受けた覚えが無いのだが、普通はそう言うものらしい。
ある程度優秀そうな新人の場合、ドギー・ハウスへの登録試験の際に一緒に見てしまうと言うことだ。
因みに、『優秀』の基準はランク3を持っていること。
そんな分けで、シンゾーの登録試験には何人かの犬がすることになった。シンゾーの動きを見て、自分の後継者として相応しいと思えば、パピーとして登録すると言う分けだ。
パピーと普通の傭兵だと受けられる仕事に差があるし、会社から受けられるサービスにも差が出てしまうそうなので、シンゾーには頑張って貰いたい。
今回、シンゾーに目を付けた犬は全部で五匹。
探査犬、牧羊犬、狂犬、忍犬、最後に猟犬だ
そう万が一に備えて僕も試験官として同行することにした。
誰からも指名が無かった場合は、僕が指名してしまおうと言う分けだ。
シンゾーの試験が始まった。
トゥースの盗賊団を潰すと言う中々に面倒な仕事だった。
僕は、ポテトマンから万が一の際は仕事を引き継ぐ様に言われたので、一応、伍式を背負い、子号と戌号、そしてイービィーを連れてきている。
双眼鏡を覗き込む。敵は大型の武装トラックと、その随伴としてバイクが六台にバギーが三台。中々の大所帯だ。略奪の帰りだろうか? トラックはやけに重そうだ。
先ず、シンゾーは随伴から削っていくことにしたようだ。ショットガンに、斬馬刀。基本、シンゾーは機動力を生かしたヒット&ウェイを攻撃の主体に置いている。基本、高速移動しながらの近接ではシンゾーが圧倒している。斬馬刀を二回振るって三台を転ばせ、トラックに轢かせたり、バイクごと跳躍してバギーの運転席を後輪で潰したりとやりたい放題だ。
だから問題はトラックだ。重武装化されているソレはシンゾーを食いきる様にガトリングガンを放ち、質量を武器に押しつぶそうとしたりしている。更に、その内の一台が脈打っている。まるで生き物の様だ。
……いや、実際にアレは生きている。
先日イービィーが産んだモノと同じ寄生型のトゥースが使われているのだろう。アレは酷く殺し難い。撃っても直ぐに肉が孔を塞いでしまう。
「……何か良い手は無いんですか?」
「寄生型か? 銃弾よりも生体弾撃ち込んだ方が利くぜ? わざと血を混ぜてやると結構効果がある」
「……できれば人間にもできる方法が良いのですが」
「無いな。だからトウジは困ったらおれを頼れよ」
ふんす、と得意気にイービィー。
できればそうならない様にしたい。その為に、余裕のある今の内に観察することにした。
そうこうしている内に、シンゾーが随伴と二台のトラックを片付け、本命一台に取り掛かっていた。
「……俺はアレ、要らねぇな。家の子向きじゃねぇ。仕留めた奴の回収に行くわ。猟犬――は、言っても来ないだろうから良いや。狂犬、お前もだろ?」
「――あァ」
探査犬と狂犬がそう言ってモノズを引き連れ、高台から降りて行った。
ちらり、と残った犬を見る。露骨に忍び装束を纏った奴が居た。アレが忍犬だ。絶対に。
それと比べるとインパクトが薄いのが牧羊犬だろう。強化外骨格にルドと同じウェルッシュコーギーのペイントがされているので、多分、良い人だ。
「おい、トウジ」
「何ですか?」
「寄生型の弱点、見つかったか? もし、もう良ければ双眼鏡貸してくれよ。一応、相手のリーダーの顔見ときたいんだ、何か知り合いの様な気がする」
「あぁ、別に良いですけど……知り合いだったらどうするんですか?」
裏切りますか? ならば殺します、と僕。
「首くらいは故郷で寝かせてやっても良いだろ?」
戦士の作法だ、とイービィー。
そういうことならば、と双眼鏡を渡す。受け取ったイービィーが双眼鏡でトラックを追いかける。
「うーん、多分違うな。……それで、トウジ、見つけた弱点は何だよ? おれが答え合わせしてやるぜ?」
「心臓みたいなものを見つけました。えーと、たしか――有った。ほら、あそこです」
買ったは良いが使わなかった無駄に高性能なレーザーポインターをポケットから取り出し、脈うちが始まっている部位を指す。
恐らく、あそこが本体だ。
「「――あっ!」」
次の瞬間、僕とイービィーの声が重なる。
梃子摺っていたシンゾーがその部位を撃ち抜いた。緑色の血が勢いよく吹き出す。荒れ果てた大地に染み込んで行く。トラックは一気に機動力を失い、動きに精細を欠き出した。
シンゾーはチャンス! と言わんばかりに運転席にショットガンを撃ち込みまくり、完全に動きを止めた。
完全にポインター部分を撃ち抜いたのが勝負の分かれ目だった。
「……」
取り敢えず、忍犬と牧羊犬はこっちを見ないで欲しい。
……まぁ、それでもシンゾーの追い込みは評価され、シンゾーは牧羊犬のパピーになった。
シェパード・パピーだ。
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