V.Sモノズタンク 前

 卵が先か、鶏が先か。

 変態だから強いのか、強いから変態でも許されるのか。


『フォォォォォォウッ! クゥラァリィッサァァァァ! フォウ、フォウ、フォォォオウ!』


 と、言う奇声を通信機越しにこちらに届けながら、砂の大地を猛スピードで戦車で走る男の存在は僕にそんな哲学的な思考をさせた。

 今回の仕事場である砂漠地帯は乗り物に優しくない。風で容易く形を変える地面は魚の鱗の様な模様を描き、車を跳ねさせる。

 幾ら悪路走破性に優れたキャタピラとは言え、あそこまでの速度で動けるものなのだろうか? ……まぁ、変態でも犬。そう言うことだろう。


『付いてきてるかぁ、ハァ~ウンドォ~?』


 そんなタンクを見失わないように僕等も走る。

 流石にモノクでは安定せず、シンゾーを真似てボールバイクにしても無理だった。仕方が無いので、丑号、午号、辰号の大型三機を使い、三輪ボールバギーを造ってみた。

 その出来が良いのか、それともハンドルを握るイービィーの腕が良いのか、今の所、変態が操る戦車に付いて行っている。僕の他のモノズ達やルドが脱落して行ったことを考えると、その両方かもしれない。

 だが、それは僕達だけではない。


「余裕だ……僕等も、奴も」

『マジかよ、マジかよ、マジかよぅ……』


 泣きそうな声。


『最っ高じゃねぇかぁぁ!』


 一転、ヒャッハー!

 タンクのイカレかたから言うとパンツの中が大変なことになってそうだ。

 ちゃんと履いてれば。


「……」


 変態め。

 僕は口の中で悪態を転がし、イービィーの背中の体温を感じながら、しがみ付いたまま、背後を見る。スコープを覗く必要も無い。奴。即ち今回のターゲットは大きい。

 三輪バギーを造った僕を嘲笑うかのような構造だった。

 超大型モノズ一機を用いた戦車だった。

 モノクと同じ設計思想で造られたソレは、ハリボテの様に砲台と装甲を纏っていた。

 ポテトマンと言う男は実に白々しい奴だ。何が「探査犬に何を頼んだんだ?」だ。しっかりと把握しているじゃないか。


「――」


 回転に合わせ、モノズタンクの装甲と地面の間に、一瞬、モノズの目が、ツリークリスタルが見て取れる。構える。撃つ。悪路にバギーが跳ねて、イービィーが「ひゃう」と鳴いた。跳ねるバギーに合わせ、弾道がブレる。正面装甲に孔が開く。


 うじゅる。


 そこで何かが蠢いた。

 知っている現象だった。それでも少しだけ進んだ技術だった。蠢いた肉のミミズは穴を塞ぐと、固まった。一秒後には周りの装甲と同化していた。

 前のヒト型には無かった技術だ。だが、確実にマーチェの組織の匂いがする技術だ。ポテトマンに感謝をした方が良いかもしれない。

 だが、先ずは……さっさとこの仕事を終わらせよう。

 そんな僕の考えが伝わったのだろうか?

 モノズタンクがボールホールタイプ独特の滑る様なスライド移動。するっ、と僕等の真後ろに付く。あぁ、これは少し拙いな。


「イービィー」

「なんっ、だよ!?」

「速度を上げろ」

「あぁん?」

「主砲だ」

「はぁ!?」


 轟音が響く。

 モノズタンクが反動で一瞬、後ろに転がり威力を物語る。

 そこまでして脅威を伝えてくれたのだ。当たって見ようなどと言う気には成らない。

 僕は足でがっちりとバギーを挟み込み、身体を固める。


「イービィー、右」

「お茶碗持つ方?」


 いいえ。お箸を持つ方です。

 だが、そんな暢気な指摘をしている暇は無い。イービィーの身体を抱き締める。


「合わせろ」


 言うだけ言って、右に身体を倒す。ウェイトを叩きこむ。合わせて移動した車輪役の三機の移動を大幅に補助する。

 先程モノズタンクがやったことのお返しだ。

 ボールホイールタイプ独特の滑る移動。

 それで弾丸をやり過す。

 先程まで自分たちが居た場所で砂柱が上がる。

 怖いな。

 何が? その威力が? まさか――


『りぃぃぃぃぃぃぃぃやっほぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』


 その砂柱に突っ込んでいけるあの精神性がだ。

 いつ反転したのかは、分からない。

 それでも主砲の発射により、モノズタンクの速度が一瞬マイナスに入ったのを隙と捉えたのだろう。相手が速度に乗る前を狙う様にタンクの操る戦車が突っ込んでいく。

 前面装甲に取り付けられたクワガタを連想させる二本のブレードを使う気なのだろう。

 だが、駄目だ。悪手。

 モノズタンクの立ち直りが思ったよりも早い。あれでは突進をやり過されてお終いだ。

 僕はそう思った。

 案の定、モノズタンクが左に滑る。

 タンクは何もいなくなった空間を駆け抜けて――


『逃げないでおくれよバァニィィィィィィィィィィ!』


 行かない。

 車体が振られ、大きく描かれるのは弧。

 モノズタンクを軸に公転しながら、モノズタンクの表面装甲に突き刺したブレードで速度を落としながら自転する。

 正面から突っ込んできたタンクを避ける為にモノズタンクは左に避けた。

 だが、タンクはその進行方向に回り込んで見せた。


『ゴォォォォォォぉ! クゥゥゥゥゥゥゥゥ! ラッ! リッサァァァァァァアン!』


 通信機越しの割れた声が轟音を掻き消した。

 あいつ、こえ、おおきい。


 あとがき

  3/29の更新はお休みです。ごめんなさい。

  3/30の更新をお待ちください。

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