ファクトリー
型に嵌った……と、言う言葉は決して『面白味がない』と言う意味ではない。その試合形式の中で最適のカタチであると言うことだ。
ピックアップトラックタイプの車体に詰まれるのは一機のプロペラドローン制御装置と、一機のホイールドローン制御装置だ。
機動力を確保し、その確保した機動力の中で正確な攻撃を行うために、モノズ管理下のドローンを飛ばし、或いは走らせ高速戦闘を行うと言うクラッシュ・レースにおいての最適解とでも言うべきハワードさんのマシン。
『クラァァァァッシュ! 準決勝の記念すべき一台目の犠牲者はエントリーナンバー42、ハワード・ワーグマンだぁっ! だが未だ未だBチームの戦力は衰えなぁ~い! トウジが! シンゾーが! クラッシュレーサーとしても一流の傭兵が二人いるぞぉー!』
そんなマシンはあっさりと退場してしまったようだ。
「……」
何やってんの?
いろいろとツッコミたいのを我慢して、通信を繋げる。
「シンゾー」
『……頼む』
「いや、僕は構わないのですが……良いんですか?」
自陣防衛は? と疑問符一つ。
『見りゃ分かる。相手さんの戦術は、徹底的な守りだ』
「? 良く分からないですが、分かりました。でも、余り動けないので、基本は援護ですよ?」
『構わねぇ。わりぃな』
通信を切り、運転席へ身体を滑り込ませ、ハンドルを握る。「午号」。声かけ一回に、回答一つ。返って来た『問題ない件』の言葉を聞きながら、子号にチェックさせる。オレンジ。本調子ではない。戦闘機動は無理でも、動くくらいならいける。周辺の地形を確認、シンゾーから送られてきた敵の位置を確認。上ることができる高台を三つピックアップ。あまり動かすのも拙いので、一番近い場所を選び、子号ナビをオンにする。
午号をゆっくりと回しながら、岩山を上り切り、スコープを覗く。あぁ、成程。シンゾーの言っている意味が良く分かったし、実況が僕ら贔屓な理由も分かった。
恐らくはアレにユリウスとやらが乗っているのだろう。
予選からあぁだったのだろうか? 見ていない僕にはわからないことだが、中々に徹底している。
ルール違反では無いだろうが、マナー違反。
お客さんへの受けなど考えない。勝てば良い。勝ち方を選べるほど強くないのだから、勝つ為に手段は選ばない。
一際大きなあの機体のコンセプトはそんな所だろう。
僕と同じタイヤを使用しての四輪。だが、本体の重さが凄まじく、シャフトはたわみ、車体の下が地面についていることからも分かる通りに、走行は不可能。「……」。端末を弄り、検索。機体の登録名は“ファクトリー”。皮肉でも何でもなく、『走りません』。と言う自己申告に、ひゅぅ、と口笛を吹いてみた。
恐らく、チームメイトも完全にアレの補助なのだろう。ファクトリーの両翼に繋がれた二機の装甲車は、走行こそ可能なようだが、今はファクトリーの補助としてドローンの制御に回っている。
ポンポンと生み出されるプロペラドローンはこの位置から裸眼で見ると、蚊柱にすら見えそうな数だ。
僕以上の火力特化。
圧倒的なまでの数での戦い方。
ドローンの制御範囲が半端ではない。高台から見下ろす僕に気が付いたのだろう。何機かが、こちらに向かってきた。
コレで相手を仕留めたあとに悠々と陣地を占拠する。完全に後手に回る『守り』の戦略だ。
「シンゾー、狙撃ポイントについた」
無数のドローンに追われながら、それでも何処か余裕がある動きで敵陣の中を走っているシンゾーに通信を。
『こっちは見ての通り、取込み中だ』
「そのようで。僕の方にもお客さんが来たよ」
僕の言葉に合わせた訳では無いだろう。
亥号の代わりに、正面に立った巳号が精密射撃で、側面の戌号と酉号がそれを抜けて近づいてきたドローンをショットガンで喰らう。間を縫う様に、子号の補助も入り、あっさりと安全確保は完了。
『……どうだ?』
「アポが無かったようなので、お帰り頂いたよ」
総合火力では負けても、この場所、この瞬間に関しては僕の方が上だ。
『無理させてわりぃが、助けてくれ。――行けるか? やれるか?』
十五秒。スコープを覗き、考える。相手側からの狙撃が来た。チィ、と前面装甲が鳴いた。「……」。距離と高低差の影響だろうか? オート・スナイプシステムは並以下のスナイパー程度の働きしか出来ないようだ。これなら、まぁ――
「行けるし、やれるな」
『そんじゃ、
「らじゃぁー」
言って、撃った。
狙ったのは、プロペラドローンの出口だ。戦車の装甲すら貫くヘルハウンドは容易く食い破る。
全く関係ない、ファクトリーの横の地面を。
「?」
あれ、おかしいな? 砂煙が風に流れるのを見ながらそんなことを思う。外した。
「……」
止まっている的を、僕が、外した。
有り得ない、僕がこの距離で外すなんてッ!
と、やりたいところだが、まぁ、起こってしまったモノは事実だ。ズレを考慮し、その分をずらし、また引き金を引く。外れた。今度は、大きく前側にズレた。
「……成程」
これはタネがあるパターンだ。
「子号、機銃制御は良い。観測手を頼む」
初段から数えての
どうしたものか? 考える。当然だが、答えはでない。
「シンゾー、弾が逸れる。そこで確認何だが、君、ファクトリーの本体に近づけるか?」
『……』
返って来たのは無言だったが、ドローンに追われながらも、シンゾーはファクトリーに近づき、斬馬刀でその表面装甲を撫でて見せた。シンゾーは近づけるらしい。
何だろう、これは? もう一度考えるが、やはり答えは出ない。……どうしよう? 子号を見る。子号は何も言ってくれなかった。
『――どうだい? ファクトリーの電磁シールドの力は?』
と、知らない人からの通信。誰だろう? とは思うが。まぁ、状況を見るにユリウスとやらだろう。
「どういう仕組みですか?」
『シールドだよ。エネルギー体のね。元より風で、葉の一枚で曲がってしまうのが狙撃と言うものだ。ソレを曲げる位、分けが無いだろ?』
「……」
『言葉もないか……そうだろう。見たかッ! これが君が馬鹿にし、僕の愛した人、プリムラ・アロウンの本気だッ! 僕は、負けないっ! 彼女が僕の後ろにいてくれる限りぃぃぃ!』
テンションが高いな。タネが分かったのは有り難いが、余り、接したくない人種だ。「子号、
「辰号」
――フルチャージ。
出さなかった言葉尻をしっかり拾っていた辰号が、極太のビームを撃つ。これも逸れた。どうやら、実弾、非実弾を問わず、遠距離には対応してくるらしい。仕方がない。
「巳号、戌号、酉号、中に来てくれ工作大会と洒落こもう」
「子号、機銃の操作を頼む。近づく奴を撃ち落とせ」
「辰号、少し早いが切り札を切ってしまおう。ボールドローン、展開」
僕の言葉に『了解』の言葉が返され、各人員――各モノズ員が動き出す。車内に入って来た巳号、戌号、酉号に積み込んでいた資材を食わせて、工作大会を開始し、辰号には決勝で使うつもりだった切り札を切る。
卯号が使う偵察用のボールドローンよりは少し大きい拳大の球体が、ころころと転がっていく。卯号のモノと根本的に違うのは、それらが有線で辰号と繋がっていると言う点だろう。
絡まらない様に周囲に展開したボールドローンのそばを敵のプロペラドローンが通ると、ボールドローンが細いレーザーで回転翼を焼き切り落とした。
僕が辰号をνガンダムと称した理由はこの武装、有線ファンネルとでもいうべき、コレがあったからだ。
威力は弱くなる。それでも、手数と取れる射角は多くなる。
今までなら防衛には向かなかった辰号に防衛を任せる。
戌号達に工作大会を任せる。
『さぁ、準決勝第一試合は以前、膠着状態だぁ! 攻め切れないBチーム、攻める気の無いAチーム! グダグダな試合展開に観客も飽きて返りそうだぁーっ! そろそろ動きがほしいぞぉぉぉ!』
そうして、十分。
ウルサイ実況の要望に応える気は無いが、準備が完了してしまった。
「シンゾー、有り合わせでおもちゃを造ったから取りに来てくれ」
そんな分けで移動を開始。
途中であったシンゾーに造ったモノを渡して、のこのこと近くの高台へ移動。
『どうした猟犬? どうしたトウジ? 君の相方は僕の車を洗ってくれる気なのかい? 水を掛けたくらいでファクトリーがどうにかなると思っているのか、野蛮人? 負けを認めるかい?』
途中、着信拒否していたのがバレたのだろう。信号を変えてまたユリウスから通信が来た。ミュートにしておいた。
「シンゾー、火をつけてやれ」
そして一言。そして高台に辿り着いた僕が見下ろしてみれば、蒸し焼きになり、慌てて白旗を上げるファクトリーと、そんなファクトリーを見捨て、逆転に掛けて装甲車が慌てて走り出すところだった。
巧遅よりも拙速とは言うが、少しは落ち着いた方が良い。走り出す方向が拙い。
まぁ、無理か。シンゾーがこちらに追い込むように装甲車に嫌がらせをしている。
僕は漸く回って来た仕事をこなすことにした。
即ち、撃って、当てる。
『逃げた』のでは無く、『逃がされた』獲物は酷く狩りやすいものだ。
あとがき
皆さんお元気ですか?
僕は元気ですが、僕が昨日作ったカレーは元気でないようです。
……何でだよ! スパイスには防腐作用があるんだろ? カレーなんてスパイスの塊みたいなもんじゃん!! 何で一日で駄目になっちゃったの!?
そんな分けで一旦帰宅した後に、サイゼ行ってたので、投稿が遅くなりました。
すいませぬぅ……。
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