V.S ドラム缶

 インセクトゥムではない。バブルでもない。だからと言ってトゥースでもなさそうだ。ならば相手は人間だろう。そう結論付けた。

 スコープの中の世界に映るのは、キャタピラ移動をする金属の円柱だった。

 手を生やし、頭に機銃を持った機械仕掛けの円柱が子供の集団をトラックに積み込んでいる所を一匹の犬と、一機のモノズが強襲した。

 そう言う場面だ。


「……」


 だが、違和感がある。何だ? 考える。トラックだ。トラックのタイヤがモノズでは無く、通常のタイヤであると言うことに違和感がある。

 そして、十個のドラム缶。円柱形の機械兵。これもおかしい。モノズではないのだ。

 ツリークリスタルありきで発展している『今』のモノとは兵器の技術体系が違う。困ったな。どこが弱点かが分からない。


「A2、速度を上げ、トラックの運転席へ突っ込め。その後、パージし、近接戦闘に移行」

「R2、作戦変更。手前での離脱は止めて、装甲車の守備へ、中に人質を逃がせ」

「S1はここで離脱する。三秒後の減速を頼む」

「行くぞ」

「3、2、1、エンター」


 ダブCで講習を受けて以来の五点接地を試みる。伍式を放り投げ、頭を庇う。爪先、すね、もも、背中、肩、その順番で衝撃を逃がすこの方法であれば三階程の高さからコンクリートに落下しても助かるらしい。昔、漫画で読んだ。

 だが、悲しいかな。僕はグラップラーでは無く、スナイパーだ。

 爪先の時点で既に失敗した気がする。

 機械の左は兎も角、生身の右が痛い。地味に痛い。走れない。走れないが、良い。僕はグラップラーでは無くスナイパーなのだから。

 投げ出した伍式の元にけんけんで辿り着き、伏せ撃ちで照準の調整を行う。

 やはりと言うか、何と言うか、スナイパーライフルは放り投げてはいけない様だ。ズレが大きい。少し使い難い。

 まぁ、良い。

 気にしない。気にするな。そう決めた。


「子号」


 状況報告:卯号との情報連結完了。敵個体の弱点解析結果を展開 → 眼の奥に動力を確認


「了解だ」


 まぁ、暫くは仕事をする気は無い。

 僕は僕の存在を隠しておくことにした。

 双眼鏡を覗き込み、戦線を確認する。

 人質確保を優先としているので、各機が近接で対応している為、未だに戦線を支えているのはルド一匹だ。中々に、やり難そう。


「S1から巳号、狙撃でのフォローに入れるだろうか?」


 回答:可能である件


「では、足止めだ。やれ」


 足止めの一発。それで足の止ったドラム缶にルドが襲い掛かる。子供達への配慮から、電撃が使えないので、武器は噛みつきだが……遺伝子改良しても鉄は噛み切れないらしい。効果は無い。効果は無いが、十分だ。

 A1が接敵。前線要員では無い卯号と入れ替わる形で前線に躍り出た。卯号が引く。それを追う様にドラム缶が進み出た。こちらを向く。目が見えた。

 撃てる。撃ちたい。だが止めておこう。


「卯号、相手の眼を狙って撃ってみてくれ」


 通信可能範囲に入った卯号の攻撃。僕よりも少しだけマシと言う程度の集弾能力だが、卯号の機銃はどうにかドラム缶の眼を抜く。それで機能は止まったのだろうが、動きは止まらない。ドラム缶が勢い良く倒れて転がった。

 効果、確認。

 それなら――


「子号、仕事の時間だ」


 すぅ。

 息を吸って、止めた。

 装甲車が突っ込み、トラックの運転席を潰す。動きはこれで封じた。その装甲車に向かって動き出すドラム缶の背中が見える。

 その眼は見えない。

 だが、僕の狙いは目の奥の動力だ。

 別に背中からも撃てる。

 だから撃つ。

 見えない眼の位置を想像した。その真っ直ぐ後ろを狙って、撃って、当てた。

 最後尾を走っていたソイツは、勢いそのままに前の連中にぶつかる。流石に転ぶ奴は居なかったが、転倒しない為に止まった。

 つまりは隙だ。


「A2」


 僕の指示は必要なかったかもしれない。寅号がドラム缶を輪切りにして、亥号のタックルがへし曲げる。丑号と午号も一機を仕留めた。

 これで五機。そして、残りもまた、五機。

 ふぅー。止めていた息を吐く。試射で一発、今ので一発、残りは四発。一機仕留めるには足りないが……良い。

 そう思った。その判断は妥当だと思って居る。だが、そうではなかった。

 ドラム缶の動きが統一される。与えられたメイレイが書き換わった。そんな表現が似合いそうだ。彼らは任務を切り替えた。

 子供の誘拐から、敵勢力との抗戦に、そして今――敵司令官の排除へ。

 ぐりん、と回るドラム缶たち。その目が捉えるのは何れも僕。そして一直線に僕に向かってきた。

 その行動は、有り得ない。

 確かに僕がモノズ達の指揮をとっている。その僕を撃てば、忠誠心の無いモノズであればそこで攻撃を止めるかもしれない。

 だから、その手は一応有効だ。

 僕と彼等の距離を考慮しなければ。

 つまり、彼らは判断が出来ていない。

 モノズの様に自己判断が出来るわけでなく、事前のプログラムに従い、最優先での撃墜ターゲットを決めただけ。

 つまり、彼らは遠隔操作、若しくは指揮されていない。

 自動で任務をこなしていると言う分けだ。


「……」


 やはりどうにもおかしい。

 モノズを使えば発生しない問題が発生している。


「S1からA1、一機、壊さずに捉えたい。フォロー」

「そう言う分けで、先頭は僕が持つ」

「A2、R2は後ろから他の対応を」

「あぁ、ルド。君の電撃が効くかも確認したい。一機やれ」


 言い、キャタピラの履帯を撃つ。

 その程度では止まらないが、嫌がらせとしては十分だ。避ける様に蛇行して速度が落ちた。

 後は戌号ニッパー申号リッパ―に手足と機銃を捥いで貰おう。

 後続を警戒しての再装弾。煽ったレバーが、がしょん、と鳴った。







あとがき

昨日は更新できずに、ごめんなさい

割烹に報告すらできぬと言うありさま、、、、すまぬぅ

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