誘拐
「仕事の話をしましょう、お義父さん」
「貴様にお父さんと呼ばれる義理は無いっ!」
「……まぁ、様式美、という奴ですよ」
僕だって別に呼びたくは無い。だが、一回はやっておきたかったのだ。
何のことは無い。ハワードさんとイービィーの様子がおかしかった裏にはしっかりと事情が有ったと言う分けだ。
イービィーは自分の選んだ男と父親の邂逅をニマニマ笑いながら眺めていて、ハワードさんは本来は友好的なトゥースの権力者相手に、親子問題が絡んで話がスムーズに進まない所に、僕が途中から喧嘩腰になって来たので、胃を痛めて居たと言う分けだ。
「もう、良いな? 自分は部屋に帰らせて貰うぞ?」
「えぇ、はい。仕事の話だと思うので、大丈夫ですが――」
受けて良いのですか?
胃を抑えるハワードさんに、視線で問いかけ。力強く頷かれた。良いらしい。ならば話を進めてしまおう。そしてハワードさんが増えた子供達に気が付く前に逃亡しよう。
「イービィー、公園に集まっている人が不安がっている。種明かしをしておいて下さい」
「えー? もう少しパパとトウジのぎこちないやり取りみてたい」
「話し難いので……」
さっさと行け。
二人を追い出し、何度目か忘れてしまったが、A.Bさんに言葉を投げる。
「仕事の話をしましょうか」
「それは構わないが……そっちの代表は良いのか?」
「こっち、ですか?」
何だろうか?
「あぁ、今回の仕事は誘拐事件に関してだろう? 最近、頻発している人間とトゥースの子供に関する」
「成程」
――あぁ、そうか。それで僕か。
僕はトゥースにそこまでの嫌悪感を持って居ない。利益と天秤にかけてトゥースの、リカン達の非道を『見なかったこと』にする程度のことは出来る。
例え人間の子供を助ける序にトゥースの子供を見つけたとしても、ちゃんと保護できる人材、と言う分けだ。
ポテトマンが僕を選ぶわけだ。
トゥースに抵抗が無い、程度ではこの仕事は任せられないだろう。
抵抗は無くとも、友好的とは言えない傭兵ならある程度の数はいる。だが、僕の様に、抵抗は無いし、自分に害が無いならどうでも良いと言う傭兵は少ない。
凄腕になれば成程に、だ。
理由は簡単。今も小競り合いをしているのが人間とトゥースと言う種であり、その前線で争っているのが傭兵と言う連中だからだ。
「……その事件すらも初耳ですが……多分、代表は僕ですね」
「……相手は人間の可能性が高い」
「はぁ」
「出来るのか?」
「あぁ、成程」
そう言うことか。
「出来ますし、やりますよ」
師匠にしっかりと仕込まれていますので、僕は人殺しも出来ます。……あぁ、この仕事、シンゾーも連れていけないのか。リカン……も駄目だ。仕方がない。一人で動こう。
「……同類すら愛せない様な奴に娘を任せるのは嫌なモノだな」
「でしたら、お嬢さんには同類と言うだけでクズを見逃す男を見繕ってあげて下さい」
「――」
眉間に皺を寄せて黙ってしまった。
そのまま、護衛を手招きすると、何やら耳打ち。護衛の一人が外に出たかと思うと、入り口に居た双子らしき男女の片割れ、女の方を連れて戻って来た。
A.Bさんが、今度は彼女に耳打ちをする。
「あー……俺は貴様をどう呼べば良い?」
「娘の婿風にトウジくん。仕事の相手として猟犬、ハウンド。おすすめでマイサン。好きなのを選んでください」
「馬鹿犬」
「……がうがう」
呼ばれた様なので、一応、返事はしておく。
「俺はどうにも貴様に対してフィルターがかかる。組織の長として情けないが、俺も娘の親だからな。可愛い娘を奪う相手となると――殺意が先に出る」
「……」
出さないで貰いたい。そんなもの。
「だから仕事はコイツに任せる――C.J」
A.Bさんの言葉に、スーツの女が前に出る。
「宜しくお願いします、猟犬様」
すっ、と一礼。顔を上げた彼女は、真っ直ぐにこちらを見る。
「因みにわたくし、同性愛者で、姫様の幼馴染で御座いますので――貴方のことが嫌いです」
「……」
取り敢えず。
取り敢えず無言で頷いてみた。どうして頷いたのかは分からない。特に何の効果も無かった。
ここまで衝撃的な自己紹介は初めてだぜぇー……。
まぁ、良い。
A.Bさんすらも知らなかったようで『今のマジ?』と驚いた様子で双子の片割れに確認を取っている声が
同性愛者でも、僕を嫌う相手でも、良い。正直、あまり興味も無い。
「先程、犯人が人間だとおっしゃいましたが……」
どう言うことでしょうか?
「何度か救助が間に合った際に、交戦しまして、その際の相手がロボットでした」
「成程?」
ロボット、と言う言い方に引っ掛かりを覚える。つまりは――
「モノズでは無い?」
「はい。こう、円柱形のモノで――あぁ、壊れてはいますが、これが写真です」
トゥースの端末は、端末カバーの代わりに謎の寄生生物が付いているから、正直、あまり触りたくない。だが、差し出されたのだから受け取るしか無い。手に取り、画面をのぞき込む。カメラの代わりなのか、端末上部に小さい蛇の様な目がある。「……」。目があった。怖い。
「……ん?」
おや? と、思う。
C.Jの言葉通り、写真の中の機械は壊れていた。壊れていたが、見覚えがあった。
「子号、今日の戦闘データ、記録しているだろうか?」
回答:映像データを所持。確認 → 敵のズーム画像を所望であるか?
「然り、だ。宜しく頼む」
言って、十秒も経たずに電子音。僕の端末が震える。
「壊れる前は、コレですか?」
C.Jに端末を返しながら、今度は僕の端末を見せる。
「――えぇ。はい。そうですね。これは?」
「丁度今日、ここへ戻る最中に交戦しました。タイミングが良い。一機、鹵獲してあります」
「確認することは?」
「ご案内しましょう」
こちらです、と僕は立ち上がった。
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