焼き肉

 割と命がけで入手したレア物は全部で三個あった。

 最初から強奪を目的としていない今回の様な警備任務の場合、会社に納品すれば、ポイントと交換してもらえるし、自分で使いたかったら使っても良いらしい。

 つまりは、これは僕の財産として扱って問題が無いと言うことだ。

 そういうわけで、すべてを換金しようとしたら、アレックスから待ったが入った。


 ――新しいモノズを持ってみては?


 そんな提案に、成程、と頷いた僕は今、ダブC技術班が誇るトレーラーラボに向かって歩いている。

 文字通り、トレーラーを改造したトレーラーラボは酷く巨大だ。片側二車線の道路をフルに使う程の幅がある。五百年前よりも『道路』がしっかりと整備されていないのと、交通量が少ないからこそ出来る荒業だ。

 精密機械を積んでいるので、きっと揺れも少ないのだろう。帰りはあっちに乗せて貰えたりしないだろうか? 無理か。

 兎も角。帰りのお尻の心配はともかくとして、トレーラーラボだ。新しいモノズの入手だ。

 僕は当然の様にワクワクしているのだが――


「……別に全員で行く必要は無いのでは?」

 ――ピッ!


 そんなことは無い。六機のモノズはそう言っていた。だが連れ立って歩くと結構邪魔だ。サッカーボール大の小型モノズ、子、巳、酉の三機は未だ良い。僕の腰に届きそうな申、戌の中型、更には胸に届く程の大きさである大型の丑。彼等が問題だ。正直、邪魔くさい。


「……」


 何とはなしに帽子を深く被りなおす。言葉を探すが、出て来ない。新しい兄弟を見に行きたいと言う気持ちは何となく分かる。僕にはもしかしたら弟か妹が居たのかもしれない。

 同じ様にコールドスリープでこの時代に来ていたりしないだろうか?

 もしそうだったら少し面白い。






 結論から言ってしまうと、僕はクリスタルの加工を頼まなかった。

 トレーラーラボは素晴らしい設備だった。

 だが、そこで働いている人の印象が良くなかった。


「新人が、芯材を持ってきた? どこで拾ったんだ? いや、盗んだのか?」


 こちらを胡散臭そうに見るスーツ姿の中年の男にアレックスの紹介状を見せた。


「ッ! ど、どうも、失礼しました、こちらへどうぞ」


 相手の立場で自分の意見を変える人物を信用できるか?


「……いえ、結構です」


 信用に値しないと判断した僕はそれだけ言って、もと来た道を引き返した。

 あんな場所で新しく子号達の兄弟を造る気は無い。

 行きに抱いていたどこかワクワクした感情は、何時の間にかイライラしたものに変わっていた。いけないな。狙撃手は冷静でいなくては行けない。

 僕は道を外れ、大きく深呼吸をした。

 砂っぽい空気は爽快さからは程遠いところにあったが、それでも大量に取り込んだ酸素は少しだけ僕を落ち着かせてくれた。






 職人組合の出店街に在るその店を、僕はバーベキュー小屋と呼んでいる。

 一食二千ポイントで、二時間の食べ放題。ご飯や、肉、野菜、それと水位は用意されているが、食器、調味料、そしてそれ以外の飲み物は自前で用意と言う飲み屋に近い店だ。


「……そう言う分けで、クリスタルの加工が出来る人を紹介して頂ければな、と」


 僕は買ったばかりの焼き肉のタレを小皿に注ぎ、言葉と共に目の前の人に差し出した。


「ほぉ~そう言うことなら、俺は構わないぜぇ、任しときな、兄ちゃん! この俺、自ら加工をしてや――」

「コマさん以外で、お願いします」


 言わせるものか。僕は生まれてくる子を死産にする気は無い。

 簡単に言うとコマさんの腕は信用していない。

 何やら不服そうなコマさんの更にトングで掴んだ食べ頃の謎の生き物のタン塩を入れていく。食え食え。


「……まぁ、そう言うことなら何件か腕の良い所を紹介するけどよぅ。……あ、兄ちゃん、レバー良いか? レバー?」


 言いながら店員を捕まえるコマさん。


「そうして頂けると、助かります。……ホルモンも行きましょう、ホルモンも」


 味噌ダレで。


「おっ、兄ちゃんいける口だねぇ! よし、俺が持ち込んだビー――」

「発泡麦ジュースですね。頂きます」


 僕は未成年なのでお酒は飲めない。飲めないが、発泡麦ジュースなら飲める。


「っかぁー! やっぱりレバーにはビールだよなぁ、兄ちゃん!」

「ですね」


 内臓系が平気な人との焼き肉はとても楽しい。

 ……例え食べている肉が人工培養された謎生物の謎肉だとしても、だ。

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