理性と獣性
「……」
モノズ達が何かを言いたげに僕を見ている。
リカン達は何やらにやにやしている。
エンドウさんは施設に爆弾を仕掛けるのに忙しそうだ。
つまりは誰も助けてくれない。そう言うことだ。
「――、」
溜息。吐き出し、それで諦め、僕は自分で問題に対処することにした。
振り返る。研究員から奪った服を着た少女が居た。長く、白い髪はユーリを思わせる。だが、青い瞳はイービィーを連想させ、褐色の肌は誰にも似ていなかった。
年の頃は恐らく十代前半。そんな彼女は、刷り込みをされた雛の様に僕の後を付いて歩いていた。
「何故、付いてくるのでしょうか?」
「記憶が無くて不安なの。不安だから強い人の傍に居るのだと思うわ」
「僕はあまり強くないのですが?」
「それは嘘。あっちのライオンさんと迷ったのだけれど……」リカンを指差す「多分だけど、あなたの方が強いわ。わたし、そういうの何となくわかるの」
「そうですか」
お褒めに授かり恐悦至極。
「だったら猶更、離れては貰えないだろうか? 君の言う通り、僕が強いと言うのなら僕の動きが鈍るのは良くないだろう? 何と言っても今は、まぁ、控え目に言って緊急事態だ」
「あら、そうなの?」
「えぇ、そうなんです」
だから少し離れて下さい。
何と言ってもこれからすることは少しばかり過激な尋問だ。
良い子には見せられない。
大きい組織に助けて貰う為にはどうしたら良いか?
研究者たちの立場に自分を置いて考えてみた。
簡単なことだ。組織にとって自分を助けるだけの価値があることを示してやれば良い。僕で有れば兵隊として、ならば彼らは? 当然、研究者としてだ。手土産はドール、それと、その根幹技術である肉ミミズもだろう。アレがモノズボディにも流用できるとなればそれなり程度に価値はありそうだ。
「何処へ売った? 正直に話せば殺さない。先着で三名だ」
僕はお集まり頂いた拘束済みの研究者の皆様を見渡し、そう言った。背後ではこう言ったことが『できる』寅号と申号が羽根の様に刃を生やしている。
「返答次第では、ミックスジュースだ」
ミートと衣服のな。僕がそう言うと二機が回転を始めた。ぃーん、と高い音が鳴る。それでも研究者連中は喋らない。『やれない』とでも思われているのだろうか? だったら心外だ。
「沈黙も返答と取りますが?」
「――」
それでも喋らない。そうか。それなら良い。僕は適当に一人を選び、髪を掴み引き摺り倒す。ズリズリと床を引き摺って向かった先には――
「寅号、即死はさせるな。丁寧に刻んでやれ」
回転する寅号。
「――、」
それでも、まだ、喋らない。それどころかニヤニヤ笑っている。何だろう、彼は?
「俺が何故笑っているかが不思議か?」
「……随分な小心者だと思っているだけですが?」
狂うの、早くないですか? と、僕。
「良いことを教えてやる。人質は無事だから人質なんだ。手を出した時点で、お前が約束を守るという保証はなくなるんだよ」
「成程。勉強になりますね。ですが僕は約束は守りますよ?」
「信用が大事だという話だ。自分に武器を突き付けている相手をどうやって信用する?」
「……」
「俺達は話さない。お前のことが信用できないからだ。信用できないお前を一番困らせるには喋らないことが一番だと理解しているからだ。あばよ、テロリスト。俺は、俺達は、理性でお前に勝つ」
「成程。理性で死の恐怖を捻じ伏せて、僕への反撃と言うわけですか……」
「そう言うことだ」
「随分と理性を信頼しているのですね?」
「ペンは剣よりも強し。獣に人は越えられない。理性は獣性にまさる」
「そうですか。では――十人十色」
「……は?」
何を言っているんだ? と言う目。それを受けて僕は笑う。笑って、彼と目線を合わせる。僕はしゃがみ、彼の髪を掴んだまま、引き上げる。
「君に送る言葉だ。十人十色。知っているか? 知っているだろう? 色々な人がいるぞ、この世にはな。理性で僕を殺し切れる君の様な奴から、僕に負けて『話させて下さい』と頼むような奴までな。……君の仲間はどうだろうな?」
「ッ! ――」
「君は仲間の理性を信じて死んで行け。――寅号、丁寧に刻んで鳴かせろ。何を話しても聞くな。もう彼は『アウト』だ。申号、君は巳号、酉号、戌号、亥号を呼んで来てくれ」
言うだけ言って、引き摺っていたソレを放り出す。程無く、寅号から出る音が重くなり、次第にソレに泣き声と叫びが混ざっていく。
残りの皆さんの顔色が変わる。
仲間の悲鳴を聞いて。或いは僕の笑顔を見て。
まぁ、どちらでもいい。丁度、申号が残りの『できる』連中を連れて返って来た。僕は、くるりと回れ右をする。モノズたちに向き直り、彼らに指示を出す。
「寅号を参考に頼む」
簡易的な指示、それだけを与えて再度の回れ右。研究者の皆様に向き直る。
「彼は君達の理性を信じているようだ」
「素晴らしい」
「だが、僕は君達の獣性を信じている」
「先着三名」
「早めに仲間を売れよ、ホワイトカラー」
「……まぁ、それでも一応の期待はしておこうか」
一息。息を吸う。そうして僕は――
「さぁ、理性が刻まれる中で、君達の理性の強さを見せてくれ」
歯を見せて嗤って見せた。
あとがき
申請すれば通るけど、トウジが頑なに申請しないスキル。
【脅迫】
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