ハウンドモデル
正しい行いの結果は幸せであるとは限らない。
悲しいが、世の中と言うのは、そう言うものだ。
何が言いたいかと言うと――お金がない。
だから引き取った子供達にも働いて貰うことにした。増えた食い扶持は六人、親でも兄弟でも無い僕が全員を養ってやる義理も無ければ実力も無い。
そんな分けで、今、イービィー試験官が適性を見ている。
一応、トゥースの狙撃班のリーダーを務める程には優秀なイービィー試験官は部下の指導もしたことがあると言うことなので任せてみた、の、だが……良く考えたら部下が全滅している時点で優秀でもない気がしてきた。更にその後、敵側に寝返っていることを考えると、優秀どころか最悪な気がしてきた。
「……」
まぁ、僕には真似事すらできないので、仕方が無い。
「おい、トウジー結果出たぞー」
こっちに来い! と呼ばれたので、のこのこと歩いて行く。
「こっちが戦士で、こっちはそうじゃない」
「成程」
向かって右の四人が戦士で、左の二人が戦士では無いらしい。ソウタが左側に居るのが酷く残念な様な気もするが、それ程意外でも無い様な気もする。
これまでは最年長の男と言うことで頑張っていたのだろうが、その座は僕にとって代わられたので、無理に兵隊の真似事をすることも無い。
「以前、何かの仕事に就いていたりする人は――」
戦士側の一人と、そうでない側の二人が手を挙げた。詳細を訊くと、掃除などの単なる雑用要因だった。手に職は無さそうだ。どうしよう? 考える。結論は出ない。仕方が無い。
「取り敢えず先ずはドギー・ハウスに行きましょう」
ドギー・ハウスにはパピー・ウォーカーと言う制度がある。
犬の内弟子がパピーで、そのパピーの候補として才能ある者を育てる制度だ。兵隊のイロハを学びながら、更に給料も貰える。
贈与型の奨学生みたいなものだ。
僕はこの制度を利用することにした。
「猟犬です。才能がある子供を連れて来たので、パピー・ウォーカー制度を使わせてください」
「……駄目だ」
ポテトマンにあっさり却下された。
「何故でしょうか?」
このちょび髭が、と僕。
「明らかに嘘だからだ。そいつ等にそこまでの実力と才能は無い」
わかったか駄犬、とポテトマン。
「……大人が子供に才能が無いとか言う世界はどうかと思いますが?」
「そう言う優しさが欲しけりゃ金を払え」
「では、五千Cを」
「……本当に払いやがった」
「これで七人分の昼食下さい」
「ただの昼飯代かよ。結構微妙な金額だな、おい」
口をへの字に曲げながらも、ポテトマンが調理に入る。僕は何時もの様にカウンターの隅に座っている野戦服の美女の下に向かった。
「……話は?」
「聞いてたわぁー」
「どうにか――」
「ならないわぁー」
「そうですか」
ポテトマンが駄目なら、と直接パピー・ウォーカーに話を持って行ったのだが、駄目だった。
くてん、とカウンターに頬を当てながらマリィさん。今日も良い感じ酔っぱらった年上のお姉さんは艶やかだ。酒精の混じった吐息を、はぁ、と吐き出し、とろぉんとした目でマリィさんは僕を見る。
「確かに努力で才能は越えられるけどねぇー、犬になるレベルだと流石には無理ぃー」
だってぇ――
「アナタ、自分がどうやって的に当ててるか説明できる?」
「? 狙って当てていますが?」
「ふふ、どういう風に狙ってぇー?」
どういう風? それは、当然――
「当てようと思って」
「アハハ、トウジくん」
「はい」
「ハウスぅ」
「……わん」
暗に帰れと言われた酷い話だ。
僕は頭をがりがり掻きながら、大人しくイービィーと子供達が待つ席に向かった。近づいていくと、期待の籠った視線が集まってくる。僕は今度は頬を掻いた。言葉を探すが、出て来ない。それだけで何となく結果を察したのだろう。
僕は無言で席に着くように言われた。
「一人位ならカミサワ重工で――と、言うか僕が面倒見るよ? 助手が欲しいし」
月給制で十三万Cでどうだい? とアキトが言ってきた。
渡りに船とはこのことだ。僕はスコープの中に自分を置いたまま、「よろしくお願いします」と言った。そして引き金を引く。肩に当たるバックストックからの衝撃が少ない。だから装弾作業がスムーズに行く。二発目を撃った。問題無く命中した。
核を撃ち抜かれた青と赤のバブルが弾けて死んだ。
子供達の就職活動は上手く行っていない。
死んでも良いのなら、ドギー・ハウスで傭兵登録をして、適当な仕事をやらせれば良いのだが、これには当の子供よりも、僕よりも、イービィーが反対した。曰く「戦士で無いのなら戦場に立つな! 立たせるな!」。まぁ、僕も最もだと思ったので、大人しくそれに従っている。
仕方が無いので、当面は僕が頑張るしかない。
今回受けたのは、バブルの間引きだ。
ドギー・ハウスがある職人組合所有の都市であるウラバからの依頼だ。
報酬は弾代込みで二十五万C、バブルを百個潰せばおしまいだ。
本来なら水鉄砲に薬品を入れてばら撒くか、爆風で吹き飛ばすかした方が効率が良いのだが――
「それで、どうかな? ハウンドモデルの調子は?」
「良いですよ。撃ち易い」
ムカデのテストも兼ねているので、そうも行かない。
結局、トリガーハッピーはアキトの方が採用された。今後のシリーズ化を見越し、トリガーハッピー・スナイパーモデルと言う商品名で売り出すとのことだが、この世に一つだけ、完全に僕専用にチューニングされたワンオフ機がある。
それがハウンドモデル。僕が今着ているムカデだ。
今やっているのは、実戦状況下での不具合の出し切りだ。スナイパーモデルのカスタム品なので、ここで得たデータはスナイパーモデルに流用されるらしい。
報酬として十万C貰えるそうなので、バブルには悪いが頑張って殺しながらデータを集めようと思う。
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