不機嫌な最大火力
閣下の実家からそれなり以上のボーナスが支払われた。
それでもモノズ十二機に僕の左足、あと一匹だけ何もなしだと可哀想だからとルドにチーズスティックを買い与えてみれば手元に残るのは大した額ではない。
モノズボディの負担が大きかった。彼らが戦争の要であることは間違いない。彼らの性能=戦力で有ることにも疑いはない。だから彼らにお金を掛けることは間違いではない。
それは分かる。
だが、思ってしまう。
「……アバカスで良いじゃないか」
キャンプ地の自室、ベッドの上に座りながら、思わず呟いた。
一番割引が利いていたじゃないか。
性能だって悪くなかったじゃないか。
何よりも発注を取りに来たスエンの表情の落差がとても可哀想だったじゃないか。
ウキウキとやって来たスエンは、肩を落として帰っていった。アバカスへの発注は一機だけだったのだ。
だが、それだって僕が無理矢理増やしたようなモノだ。
当初、モノズ達からアバカスを使用したいという意見は出なかったのだ。
今後の付き合いを考えると流石にこれはどうかと思ったのだ。
だから技能と相性の良さそうな機体があった子号、卯号、辰号にくじを引かせ、一機を生贄に捧げることにしたのだ。その結果――
「……子号、辰号は?」
アロウン社製の情報戦特化機体、メルクリウス。以前使っていたエススと同じ様にシリコン製の手触りの良い機体に身体を代えた子号に尋ねる。
――ピッ!
回答:未だ凹んでいる件
「……いや、そんなに嫌がることだろうか?」
回答:生存に直結する事柄であるが故、当然である
「性能は悪くないじゃないか」
僕は言う。
そう、性能は悪くない。光学兵器主体の辰号との相性も、だ。
アバカスはアロウン社以上にツリークリスタル影響下での通信に強い。
その強みを生かし、モノズボディには僚機とでも言うべき小型ドローンを使う機構が備わっている。卯号の小型のボールドローンなどがソレだ。RPGで言うなら召喚士辺りだろうか?
僕は先の仕事で学んだ。
戦いは数だ。
手の多い方が勝つ。手の数とは、単純に数であり、手段の多さだ。
そういう意味では小型ドローンは単純に数を増やせる手だった。だからそれ程、悪手とは思えないの……だ……が……
「一体、何が気に入らないというのだろう……」
辰号にとってはそうでもないらしい。
白いボディのアバカス製、大型モノズボディ、ミリア。
それに搭載して早くも三日。
その三日の間、辰号は抗議する様に僕に近づいてこなくなった。
今も部屋の入り口から半分だけ顔(?)を覗かせ、こちらを見ていた。
「……」
大型なので丸見えだ。
辰号は自分の大きさを自覚した方が良いと思う。
と、戌号が転がって来た。相も変わらず、黒塗りのドムスタイルなので、酉号、申号、含めて見た目の変化はないが、彼らも新しい機体へと変わっている。
――ピッ! と、電子音。端末にメッセージが来た。
疑問:友はアバカスを信用しているのか?
「当然だ」
提案:では、友の左足とムカデもアバカス製の物に変えてみては?
「相性の問題がある。アバカスのムカデはプリムラさんよりだ。ハウンドモデルの方が僕には合っているよ」
疑問:左足は?
「……」
疑問:左足はどうなのであるか?
「…………」
疑問(強):今はムカデ装着時に合わせてあるから裸足になると両足の高さが合わない我が友よ、左足はどうなのであるか?
追従:ムカデ装着時、裸足、ブーツと三段階の調整が可能なアバカスの義足はどうなのであるか?
追従:使いこなせないジェット噴射よりも幾分か使いやすそうな高性能スプリングが入ったアバカスの左足はどうなのであるか?
「……増えた」
酉号と申号が。
戌号と合わせて言葉によるジェットストリームアタックを仕掛けてくるのは止めて欲しいな。僕はそんなことを思いながら視線を逸らす。「……」。逸らした先で待ち構えて居た巳号と目があった。端末が震える。巳号からのメッセージ。どうなのであるか? 「……」。僕は無言で端末をブラックアウトさせる。
「……」
深呼吸を一回。それから顔を上げてみれば――部屋の中のモノズが全員こちらを見ていた。
僕の味方は居ないらしい。悲しいことだ。
「あまり……使う気がしない」
正直に言った。子号、卯号、巳号、酉号の小型四機が抗議する様に体当たりしてきた。替えたばかりの左足がガンガンと音を立てる。
五分くらい攻め立てられた後、僕は辰号の機嫌を直すことに終始した。
最終的に――
「νガンダムみたいで恰好が良いじゃないか」
の一言で何とか機嫌が直った。
どうして辰号がνガンダムを知っているかは知らない。
今更だ。
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