少年兵

 チーム桃太郎が今回の戦争相手に対する調査をしたいと言うので、送り出してみた。

 それが一週間前だ。

 十二機のモノズが九機に減ると言うのは結構怖いことだと気が付いた。それがエースチームなのだから、猶更だ。

 だが、日常生活であればそれ程問題は無い。

 リカンもこの期間は僕に仕事を回す気は無いとのことなので、僕は兵士らしく休める時に休んでいた。

 だが、流石に一週間も休んでいると暇になってくる。何と言ってもこの時代は、僕が好む部類の娯楽が少ない。

 そんな分けで『何かお仕事無いですか?』とぶらぶらしていたら、ムカデを纏った子供達が見えた。僕が保護している子供達だ。

 彼等はスリーパーだ。これから生きて行くために取り敢えずの武力は必要だ。そう言う理由があって、先日の大量購入の際、レオーネ氏族の資産を使って買っておいた。

 どうやらその今後の為に訓練をしようとしているらしい。

 二十三人、全員で大型モノズの周りに集まり、周囲の地形を確認している。


「……ふむ」


 付いて行った方が良いかもしれない。

 一応、彼等にもモノズを三機程与えているが、それだけでは不安だ。

 僕の就職試験の際に奪ったクリスタルをフォーマットして、再利用した物だ。クリスタルの破損状況から、三十六機程は再利用が出来たので、これまたレオーネマネーでボディを買った。

 流石に、大半は実戦を行う大人の部隊に回してしまった。

 先立つモノが無いと言うのはキツイ。大人達にも十分なモノズは渡っていない。


 ……まぁ、世知辛い話は一旦、置いておくとして、何が言いたいかと言うと、保護者がモノズ三機で子供達が荒野に繰り出すと言うのは拙くは無いだろうか? と、言うことだ。

 そんな分けで僕は彼等に近づいた。


「!」


 僕に気が付いた年長者が周囲を小突き、注意を喚起、全員が僕に気が付き――


「おはようございますっ!」

「「「おはようございますっ!」」」


 これ以上ない位に見事な敬礼で挨拶をされた。


「……」


 深く、呼吸。一回。

 その敬礼だけで彼らの人生が透けて見える。

 年頃の様に扱われなかった。そのことが分かる。――あぁ、分かっている。今の時代、ましてやスリーパー、そんな立場の彼等に僕の時代の『常識』を当て嵌めるのはナンセンスだ。

 それでも、その敬礼のサマに成り様は少しだけ、悲しくなった。


「おはよう。あぁ、楽に」


 僕の言葉に二十三人の子供達は職業軍人の様な乱れの無い動きで応える。


「訓練に行くのか?」

「はい、そうです!」

「そうか……では、僕も付いて行こう」


 そんな僕の提案に、彼等は一応、喜んで見せてくれた。









 万が一の際、直ぐに戻れる様にモノクが必要なので、午号は確定。運動させたいので、ルドも。通信要因として子号も連れて行く。「後は好きにして下さい」と言ったら新しいボディの慣らしに、卯号が、相方としてそれに付きあうつもりなのか、巳号が転がって来た。

 残るのは丑号、寅号、辰号、未号、亥号の五機。大型が多く、家の攻撃力トップ3が残ることになった。取り敢えずのまとめ役には未号を指名する。器用貧乏と言う言葉が似合ってしまう彼だが、こう言う場面では有難い。

 そんな分けで僕は子供二十三人とモノズ七機、犬一匹を引き連れてピクニックに出掛けた。

 訓練の内容は、言葉にしてみれば簡単だ。

 地図を読み、目的地に辿り着く。

 まぁ、言ってしまえば兵士の必須技能だ。

 現に、子供達も年長組は出来ている。今回は年少組の訓練だと言う。つまり、揃いのAKを持つ年長組は年少組の護衛と言うわけだ。

 忙しい時は無理だが、暇な時は僕のモノズを貸し出した方が良いかもしれない。


「あのっ、ラチェット……さん?」

「ん?」


 そんな中、リーダー格と思われる日焼けをした少年が僕に声を掛けて来た。

 年の頃は十二歳ほどだろうか? 以前、面倒をみていたソウタと同じ位の年頃だが、彼は随分とソウタとは印象が違う。体の造り方が戦う者用のソレだった。


「どうかしたか?」

「周囲に敵影はありません。言われたとおりに、モノズを前と後ろに配置して索敵をしてます」

「そうだな。三機だとソレが多分、限界だ。君は、あぁ、いや、君達は自分達のモノズの得意不得意を把握しているか?」

「モノズに得意不得意があるんですか!?」


 彼は驚いたように目をパチパチさせる。

 そう。そうなのだ。僕がユーリから初任務として与えられたモノズの性格把握は一般的では無かった。同じ会社で解凍されたはずのシンゾーですら知らなかったことだ。

 モノズ達は優秀だ。苦手なことでも練習をすれば出来る様になる。

 それでも好きなことをやらせた方が動きが良い。

 彼等はただの機械では無く、機械生命体なのだから。


「良く観察してみると良い。それと、名前を付ける時も考えた方が良い。モノズに寄ってはその名前通りのキャラ付けを行う個体も要る」

「そんなことがあるんですか?」

「あるんだ」


 な、巳号?

 足元を転がる黒い小型球体にそんな視線を向ける。巳号は『知りませんが?』みたいな雰囲気で転がっていた。


「今ある三機の内の一機は俺と契約してるんですよ。うー……索敵に出しちまったからなぁー。アイツ、索敵出来るのかなー?」


 そわそわとし出す彼の頭を乱暴に撫でて、注意を引く。


「気持ちはわかるが、今は訓練中で、この隊のリーダーは君だろう? 周囲に目を配れ」

「え? あ、やばっ! あ、また色々教えて下さいね!」


 そう言って彼はモノズの周りで半泣きで地図を見ている幼少組の下へ駆け寄って行く。

 僕も端末に映した地図と現在位置を照らし合わせる。

 少し、迷子になっていた。








 狙っていなかった。

 と、言ったら嘘になる。

 上手く行ったらいいな、と思ったので僕は子供達の目的地を戌号達の期間予想ルートに設定した。少しばかり子号と酉号を使ってズルをしたが、僕の目論見は上手く行き、無事に遠征を終えて帰って来た三機のモノズと合流が出来た。

 報告を受ける。

 リベレ氏族が強気なのは何やらスポンサーが付いたからだと言うこと。時間が無く、それ以上は調べられなかったそうだが、それだけで強気になるとはずいぶんと強いスポンサーが付いたようだ。

 十分な情報が得られなかった……。と俯く三機に僕は労いの言葉をかける。三機が擦り寄って来た。


 その後、僕の狙撃のデモンストレーションから、レクチャーに移った。

 師匠がそうだった様に、或いはユーリがそうだった様に、僕は人を教えることには向いていない。何時ぞやのマリィさんの言葉では無いが、教えられないのだ。

 元から在ったのか、冷凍と解凍の過程で脳の何処かが如何にかなった結果なのか、僕には狙撃の才能があった。非常に有り難いことだ。

 非常に有り難いことだが、感覚でやっている所が多い為、きちんと学んだ人と比べると言語化が上手く出来ないのだ。

 それでも子供達はそれなり程度に喜んでくれた。

 B型伍式狙撃銃を撃ちたがる子が集まってきたが、結構衝撃があるので、体格が良い子を選んで撃たせてやり、残りは拳銃の構え方を指導しておく。

 年長組の何人かは戦場での立ち回り、戦略などに興味があるようで、それに関しても質問されたが、これは余り参考に成らなかったようだ。

 そんな感じで僕は休日をそれなり程度には楽しんだ。

 空の色が変わる頃に、帰路に就く。

 夜間での索敵は難易度が高い。子供達のモノズを引っ込め、酉号、戌号、卯号で周囲を警戒しながらレオーネ氏族の集落へと戻る。


「――」


 燃え盛るテントが見えた。

 悲鳴が上がり、銃声が響いている。

 不意に、ふらふらと歩く人間の男が見えた。見覚えのある男だった。以前、僕の見舞いに来た黒天の騎士団の男だった。男には右腕が無く、その目には理性が無かった。

 そんな男と僕の目が合う。

 距離はかなりあった。だから何とか助かった。男はバネ仕掛けが作動する様に跳ね、一気にこちらに駆け寄って来た。

 子供達の悲鳴が上がるなか、狙撃銃を構える。立射だ。当てた。頭が吹き飛んだ。それだけだった。勢いが――止まらない。


「――申号、足」


 僕の指示を受け、申号が爆ぜた。加速。翼の様に広げた刃で男の両足を切り飛ばす。太ももからざっくりと、だ。――止まらない。這ってくる。

 子供達の悲鳴が一際大きくなる。


「――戌号、巳号、射撃」


 次に二機のモノズに指示を出す。十五メートルほど先からクロールするようにしながら地面をを進む物体に弾丸の雨を降らせる。穴だらけになる。手が千切れる。――止まらない。それでも進む。

 僕はソイツの胴体を踏みつけ、押し付け、動きを止めた。武器は無く、手も無く、歯も無い。それでもばたばたと進むソレは骨で僕を突き殺す気なのだろうか? 一向に止まらない。


 何だ、コレは?


 疑問符が頭に浮かぶ。


 ――不意に。


 不意に、ソレの傷口から、うじゅる、肉の虫が這い出た。のたうち、のたうち、平たいミミズが無数に這い出る。

 成程。コレが種か。


「ルド、雷撃」


 世界を染める白。

 僕はソレを背に受け――


「成程。僕は彼女の商売相手を勘違いしていたわけか」


 呟き。ちっ、と小さくない舌打ちをした。

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