戦場を歩く
僕等の小隊の内訳としては、僕、シンゾー、そして子供たちが一人づつそれぞれ分隊長を務めている。
今回の将校斥候の随伴としては、僕と、キリエ、それとトウカと言う女の子が付くことに成った。
トウカのことは僕も良く知らない。年の離れた異性と言う、どう接したら良いのかが分からない生命体と言うこともあるが、彼女が余り話さないと言うこともある。クールビューティと言う奴だ。まぁ、僕に付けられたことから分かる通り、彼女も僕の仔犬候補だったりする。
キリエの契約モノズ十二、トウカの契約モノズは十六、そこに閣下の四天王と僕のモノズが加われば割と大所帯だ。少しは作戦に幅を持たせられる。
「キリエ、ブラボー。トウカ、チャーリー、僕と閣下がアルファだ。モノズの指揮権は君たちに残すし、寅号、亥号も君たちに付けよう。左右に散開して進軍だ。――質問は?」
「モノクの使用は?」
「却下だ。慎重に行こう。跡は極力残すな」
「――」
僕のその注文に、トウカが無言で閣下を指さした。
――アレ、絶対に跡残すけど良いの?
アイスブルーの眼がそんなことを言っていた。
「良いか、トウカ。家は家で、他所は他所だ。――跡は付けるな。分かったな?」
「了解です、隊長」
「ヤァ」
はきはきとした返事と、気だるげな返事を受けて、回れ右。虎号と亥号に子守を任せて、僕は自分の受け持ちの子供に向かう。
「閣下、そろそろよろしいですか?」
「うむ! いつでも行けるぞ!」
とても良い返事だ。元気で言いな。そう思う。
「……」
だが……。
だが、何故、銃器を持っていないのだろうか? 背中に背負った二振りの刀は何のファッションなのだろうか? まさか、それで戦うつもりなのだろうか? ちゃんと戦えるのだろうか?
そんな疑問。
左手のクリスタルに感アリ。通信だ。端末に映す。軍曹殿から閣下のスキルが送られてきた。それによると――【モノズ指揮:1】――以上だった。
まぁ、十歳未満だとこんなものだろう。訓練中なのだから仕方が無い。家の子達もこんなものだ。逆に考えれば、こんなスキルでも戦場に立とうとする閣下は立派な様な気もしないでも無い。
一緒に仕事はしたくはないが。
「――戌号」
僕は閣下の周りに四天王に加えてA1、申号、酉号、戌号を配置することにした。
前回は待ち構えて情報を拾った。
だが、今回は移動して情報を拾いに行かなければならない。
つまりは前回の僕等の様に相手側が待ち伏せをしている可能性もある分けだ。
「……」
酷く、やり難い。
仕方が無いので、僕は人員を鏃の様に配置した。部隊を四つに分けて、戦闘に一つ。サイドに二つ、それらに守られる様に一つだ。
だが、それとは別に巳号とルドを先行させた。隠密行動が出来る一機と一匹に先に行ってもらい、雑ではあるが偵察をしてもらう。
それにルドは偵察部隊としては優秀だ。言語化が出来ないのがネックだが、下手をすれば卯号以上に索敵は上手い。
僕は注意して歩く。
ここはインセクトゥム側の領地だ。それほどホットな戦場ではないとは言え、適地は敵地。僕等の方が不利なのだ。それに目的が偵察で有る以上、本部への道を辿れる状況はよろしくない。
「随分と、ゆっくりだな」
「索敵しながらですから。それに、跡を残さないためです」
「跡?」
言いながら、閣下が一歩。ツリークリスタルの群生地である以上、道とは言え、木の根の様に足元にはツリークリスタルが奔っている。
閣下の一歩で、そんなクリスタルが割れた。
僕は無言でソレを指さした。
「! す、すまない!」
慌てて後退る。更に踏む。割れる音。
「……落ち着いて下さい、閣下」
「う、うむ」
いえいえ。言いながら時計を見る。歩き始めてから三十分ほどたっていた。僕、キリエ、トウカはまだまだ歩ける。だが、休んでも良いかもしれない。
「アルファから、ブラボー、チャーリー。小休止、十分だ。
『ブラボー、了解です』
『チャーリー、了解』
「十分休みましょう、閣下。――あぁ、でも座らないで下さい」
「わ、わかった。……随分と、慎重なのだな」
「これが普通――いや、少し雑な位ですよ」
E.Bとか凄い。本当に慎重に、その割に音も無く、蛇の様にするすると進んで行く。
僕はまぁ、比較的雑だ。それでも一応、これでも傭兵業でメシを食っている以上、閣下よりはかなりマシだった。
「……どうして参謀を連れて来なかったのかが分かったぞ」
「……閣下の手前、オブラートに包みますけど、無能参謀ですからね」
「オブラート、破れてないか?」
「破りましょうか?」
と、僕。
いや、別に良い、と閣下は首を横に振った。
「……先生はアバカス付属の大学に通っている」
「頭は良いんでしょうね。だが、馬鹿だ。机上の空論、理想論、現場に寄り添っていない」
「……経験が足りないだけだ」
「それを補う気が無い。だから馬鹿だ」
「……アバカス付属大学は名門だ」
「でしょうね。でも全員が全員、優秀と言う分けではないですよ」
「……お前よりも先生を信じる」
「そうですか、残念です。――ですが、今は僕の言うことを信じてください」
「ん?」
不思議そうな閣下に僕は笑顔を向ける。既に銃声が響き、戦闘が発生していた。
「
待ち伏せを、されて居た。
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