ギョロ目

 次のステージはなんだろうか?

 命を懸けてのゲームチャレンジと言うと、救いが無いデスゲームの様に思えもするが、相手に殺意が無ければただのぬるゲーも良い所だ。

 そんな分けで、僕は減らしたメンバーで気楽な気持ちで次のステージ――開いたばかりのシャッターの奥を目指した。

 子号が暗視した結果を左目で見る。瓦礫が少ない。

 室内なので、狭いことに変わりはないが、それでもここであの戦車を出されたら障害物が少なく。僕らは隠れられずに、相手には走るスペースが与えられてそれなりに厄介だっただろうが……待っていたのは一機の機兵だった。暗視では色までは判別がつかないが、何やら旗を持って居る。

 何だろう?

 そう思うと同時、部屋に明かりがついた。

 白い光。

 人工の光だ。

 子号からの暗視映像が切られる。

 それでも暗闇に慣れていた僕の目は一瞬、痛んだ。

 致命的な隙だ。だが、相手はソレを生かすことなく、呑気にきゅらきゅらとキャタピラで歩み寄って? 来た。旗の色は白だった。僕の価値観が今も通用するならば、これは『降参』の合図だろう。

 何やらモニターを持って居る。

 次の瞬間、そこには主食をサプリで済ませて良そうな、痩せて、猫背の男が映って居た。


『―――――――ぅひっ』


 多分、コミュ障気味なのだろう。

 声をだそうとしたら、笑いが零れ、可哀想なことに、その笑いがキモ怖かった。多分、子供には嫌われる。異性にもだ。「……」。僕は少しだけ優しくしてやっても良いかもな? と思った。

 四角い眼鏡の奥には疲労を塗りたくった様な隈に、やけにぎょろぎょろと動く大きな目があった。予想通りと言うか何というか……暴力の匂いからは遠い。

 だが、代わりに狂気に近い。そう言う男だと言う印象を受けた。


『や、やぁ、こんにちはっ!』

「……はい、こんにちは」


 挨拶は大事だ。古事記にも書いてある。ドーモ。マッドサイエンティスト=サン、猟犬です。僕はモニターに向かってオジギをした。


『きっ! きみのっ! 性能を見させて貰ったよ! 戦車もモノともしないとは……ぼかぁ、驚いてしまったよっ!』

「……はぁ、」


 どこか興奮した様子のギョロ目に対し、僕の方は冷めたものだ。

 そうですか。

 あの戦車のテストだと、家のキャンプ地の初等部――は、少しきついが、中等部の戦闘班なら対処できると思う。勿論、モノズ有りきだが。


「それで? 貴方がここの責任者でしょうか? 誘拐の主犯と捉えても?」

『フヒッ! イ、イエスだっ! イエスだよ、トウジぃ! 僕がここの責任者で、誘拐の主犯で、君の敵だぁぁぁぁ!』

「成程」


 僕の名前は知っているのか。

 だが僕は彼のことを知らない。目的が分からないので、戦闘の『終わり』をどこに持って行ったら良いかが分からない。

 今のところの落とし所としては『殺して終わり』だ。


「対話をする気は?」

『ないっ! ……と言ったらぁ?』

死ねファック・ユー


 中指、びしっ、とお空に向けて。


『ヒィッ、ウヒヒ! なぁぃっ! Nothingだっ!』

「それはそれは――」


 残念至極。

 肩を竦め、溜息を一つ。ヘッドセットのゴーグルで視線を隠したまま、足元の子号に視線を落とす。子号の目が点滅する。色は赤。逆探は無理か。場所が分からないと殺せない。困ったものだ。


『きっ、きっ、きき君に僕は殺せないよ、トウジぃ?』

「そうですか」

『そうなのさぁっ! 君は僕に測られ、そして僕のモノになるっ! コレは君が生まれた時からの運命なのさぁっ!』

「……」


 僕は心底嫌そうな顔をした。

 僕にそっちの趣味は無いのだ。勘弁して欲しい。


『さ、ささささぁ、次だ!』


 言葉同時に、宣言通りに次がやって来た。

 ソレは、だらーん、と両腕を力なく下げ、足を引きずる様にして入って来た。

 人型だ。ムカデが強化『外骨格』であり、外側に殻を纏っているのに対し、全身にぴっちりと張り付くスーツ型。頭部のみ、ヘルメットの様にごつい装甲があり、そこからはケーブルが伸び、動力を供給されていた。

 凡庸の人型決戦兵器に見えなくもないが、鎖につながれた犬の様にも見える。「……」。足元のルドを見る。ドッグアーマーは兎も角、首輪も碌にしたことが無いルドに親近感はなさそうだ。

 だが、何かを警戒する様に耳をピン、と立てている。


「撃て」


 野性の勘を馬鹿にする気はさらさらない。

 相手が飛び道具を持って居ないのだから、さっさとその優位を使う。子号と寅号が僕の指示に従い、射撃。響くのはSMGの連続した発砲音。命中は――ゼロ。


「?」


 僕も撃つ。自動拳銃。ヒップホルスターから抜き、撃つ。腹を狙った。奴の足元の床に孔が空いた。ヴルル――、唸り。見ればルドが牙を剥き、怒っていた。

 周囲に紫電。

 それは、まるで、同種に力を見せつけているようで――


「成程」


 視線を人型に戻し、納得した。

 同種、同類、或いは同族。

 人型の周囲にも――紫電。


『ヒ、ヒィッ! ど、どうだい? 今の時代ではコレは出来ないだろう? やらないだろう? だが、僕は、僕らはできるっ! 犬猫にヤれた、出来た! ならば人間にだってヤれるし、出来るのが道理だろう!? 弾丸を曲げる程の電気能力者だぁ!』


 ウエルッシュコーギー・ペンブローグ・サンダーボルト。

 では無く、ホモ・サピエンス・サピエンス・サンダーボルト。


「……彼は、攫った子供達と関係が?」

『ンんっ!? ……あぁ、そういうことかぃ? 無いっ! アレはここに眠っていたモノを起こして、弄ったモノだよぅ! 彼等は次だ・・っ!』

「そうか」


 そうなのか。ならば――さっさと終わらせよう。

 歩き、近づき、三発撃った。

 眉間、喉、腹、上から順に、だ。

 逸れて、逸れて、当たった。

 それで終わりだ。バイタルに当たった弾で、動きが鈍り、能力の制御が効かなくなったので、残りの弾は狙い通りに吸い込まれ、室内でのスイカ割りと言う中々にやんちゃなイベントを開催することになった。

 掃除が大変そうだが、知ったことではない。


『なっ、何故だっ!?』

「似た防御機構と最近、やりあいましたので」


 だから対策は考えている。

 一つは特殊弾の使用。アキト作成の弾丸はコスト度外視の為、数が造れず、狙撃用が一ダース。だからソレは使わない。

 二つ目。距離を詰めれば良い。曲げても当たる距離まで行けば良い。単純なことだ。

 この距離では大魔神のフォークでも当たる。


「さて、ミスター。先程の言葉に訂正は?」

『? 先程の?』

「次に攫った子供を使うと言うアレだ。……訂正は、あるだろうか?」

『ヒッ、無しだっ! 無しだよぅ、トウジぃ!!』

「……」


 そうか。


「では――」


 ジェスチャー。

 首を掻っ切り、舌を出し、親指でゴートゥヘル。


「殺してやるよ、マッドサイエンティスト」

『ヒヒ、ウヒヘ、ま、待っているよぅ、トウジぃー?』


 応える様に嗤って、モニターからギョロ目の姿が消えた。

 役目を終えたモニターを掲げる機兵だけが残った。不機嫌を表す様にルドが飛びかかる。機兵の内側が焼き切られ、黒煙が上がる。電気能力者としてはルドの方がスイカ氏よりも幾分か上だったようだ。

 頭の無い死体を見た。


「……」


 彼もまた、犠牲者だろう。

 玩具の様に造られて、玩具の様に捨てられた。

 取り敢えず僕の前に出した。

 それだけだ。戦う力を与えられながらの、この扱い。

 敵の無能は歓迎すべきだ。許容しよう。だが――不快には思っておこう。








あとがき

そう言えばレビューにいいねが出来る様になったらしい。

これまで、レビューを貰っても、どこでお礼を言えば良いか分からなかったので、助かる。

今更ながらレビューくれた方、ありがとうございます!

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