事後処理

 柔らかい動きだった。

 鋼の虎はまるで生き物の様に主人に付きしたがい歩く。

 そこに一機の大型モノズがやって来た。

 藍色のボディのモノズだ。

 ころころと転がって来たそのモノズとぶつかりそうに成った為、虎はひょぃと避けた。

 そう、避けたのだ。

 だが、グラついたのか、藍色のモノズが、コツン、と軽く虎とぶつかった。本当に軽くだった。だが、何故かその藍色のモノズは吹っ飛んで行った。

 壁にぶつかるモノズ。

 何が起こったのか? と前足上げて固まる虎。

 壁にぶつかったモノズの仲間と思われる三機のモノズが『大丈夫か?』と駆け寄る。藍色のモノズの目が弱々しく、チカ……チカ……、と点滅し、ふっ、と明かりが消える。

 ソレを見て三機のモノズが鋼の虎を囲み、小突き回す。『何してくれとんねん、ワレェ!』『兄貴、死んでもうたやんけワレェ!』『慰謝料や、慰謝料払えやワレェ!』。そんな感じだ。


 まぁ、僕が言えるのはただ一つだ。


「当り屋やめろ」


 ハイライトが消えたモノズ。死んだふりをしている寅号を軽く蹴ってやると、あっさりと目に光が戻った。鋼の虎を小突き回していた巳号、申号、亥号もしれっと戻って来た。


「すいません」


 上司として部下の不始末を詫びる。


「いや、気にしないでくれ」


 虎の飼い主である赤い髪の男は面白そうに笑ってそう言った。

 彼は僕を知らないが、僕は彼をしっている。エンドウ。名字の様な名前を持つ”あたり”のスリーパーだ。

 技術者でも、兵士でもある彼。

 そんな彼の技術者の部分を刺激したのだろうか?

 彼は当り屋の真似事をするモノズを珍しそうに見ていた。それに関して彼は僕ともう少し話しがしたそうだったが、青い髪の少女に引き摺られて雑踏の中に消えて行った。


「……僕が、何が言いたいかわかるか?」


 四機のモノズはこっちを見ようとしない。

 ……まぁ、反省の色は見えないが、やってはいけないことをやったと言う自覚があるのなら、良いか。

 僕は腕時計で時間を確認する。午後二時、十三分前。

 待ち合わせの時間まで後、十三分だ。相手に余り変なところを見られたくない。

 そう、待ち合わせだ。

 僕はタンクとポテトマンに頼み込み、今回の仕事に関する依頼者への報告を代わって貰った。見覚えのあるあの技術に関して色々と尋ねたい。

 まぁ、掴んだ尻尾の先に本命が居る可能性はほぼ無いだろう。

 僕にはそんな予感があった。








 三時間が経った。

 モノズと並んで、ぼー、と壁に体重を預けて突っ立っていた僕だが、空が少しづつ色を変えて居たので、流石に動くことにした。

 周りを見渡す。

 公衆電話を見つけた。

 街中にもモノズ、ツリークリスタルは溢れている。端末の通信では確実性が無いので、この時代、公衆電話は現役に復活していた。

 硬化を入れて、ダイヤル、コール。


『はいよ、こちらドギー・ハウス』

「シーフードミックス、Mサイズで一つ」


 切られた。

 再度、硬化を入れて、ダイヤル、コール。


「冗談だ、ポテトマン」

『お前の冗談は笑えない猟犬。……会えなかったか?』

「はい。僕が待ち合わせ場所を間違えて居なければ……ですが」

『つまりは――五分五分じゃねーか』


 うへぇ、とポテトマン。失礼な。


「子号が案内人だ」

『それじゃすっぽかされたな。後金の料金の振り込みはあったぞ』

「……そうですか」


 ならばポテトマンはこれ以上、追わないだろう。

 傭兵稼業には汚い仕事もある。金が貰えたのなら、問題は無い。そこまで依頼人を深く探る必要は無い。


「探査犬は?」

『愚痴ってる。酒が抜けなくて辛いとさ』

「……」


 成程。酒に弱い癖に、酒が好きだと色々大変だ。

 でも、とてもどうでも良い。


「……それで?」

『未だ、だそうだ』


 そうか。ならば待つとしよう。

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