烏丸麗子の御遣い㊵
かなめは両手で耳を押さえてぎゅっと目を閉じた。
頭の中で鳴る卜部の声に縋るようにぎゅっと。
すると異様なほどの無音の世界が訪れる。
怖くなって耳を押さえる手を離そうかと思ったその時だった。
どーん……
轟音が鳴り地響きがした。
恐る恐る片目を開くと辺りは砂埃に覆われていて何も見えない。
かなめは火薬の臭いで爆発があったことを悟った。
「せ……」
卜部を呼ぼうとしたかなめの口を誰かが塞いだ。
恐怖に引きつりながら背後に目をやると砂にまみれた卜部が人差し指を口に当ててこちらを睨んでいる。
黙ったままコクコクと頷くと卜部が手に込めていた力を緩めた。
声を出さずにへんてこな身振りで合図する卜部にかなめは頷き付いて行く。
どうやら息を止めて付いて来いということらしい……
姿勢を低くして小走りで付いていく内に息が苦しくなってくる。
限界が来そうになった時、二人はちょうど壁にできた割れ目にたどり着いた。
奥には大畑の姿も見える。
「もう息をしてもいいぞ」
卜部はかなめを穴の奥に押し込んで言う。
「ぷはぁぁぁあぁあ……」
かなめは肩で息をしながら卜部に尋ねた。
「わたし……一体どうなったんですか……?」
「引っ張られたんだ。おおかた奴らに共鳴するような何かを考えてたんだろう……」
「うっ……」
じっとりと睨む卜部にかなめは言葉を詰まらせた。
「だから言わんこっちゃない……!! 奴らに付け入る隙を与えるなといつも散々……!!」
「すみませんんん……だって可哀想じゃないですか……それに……」
「それになんだ?」
かなめは遠慮がちにおずおずと口を開く。
「自分があまりにも日常を当たり前なものにしていたので……その……命懸けで……自分の人生を投げ売ってまで日本を想ってた兵隊さん達に申し訳なくて……」
先程の兵隊達の澄んだ瞳を、盆地で人としての死を望んだ中村の最後を思い出し、かなめの目が潤んだ。
それを見た卜部は頭を掻きむしって目を逸らす。
「そう思うなら今は何としても生き残ることを考えろ……!! 生き残らねば懸命に生きることも叶わん……」
行くぞ。そう言って卜部は洞窟の奥へと進んでいった。
かなめは目をこすって卜部の後を追う。
「例の難所まではそう遠くないです……気を抜かないでください……」
大畑は緊張した様子でそう言った。
先程のゴタゴタで怪我をしたのか、脇腹を庇っているように見える。
「大畑さん怪我したんですか……!?」
目ざとく気付いたかなめが声をかけると、大畑は慌てて首を横に振った。
「いやいや……!! 俺ももう歳だから、慌てて走ったのが横腹に響いちまって……」
卜部はそんな大畑に黙って目を細めていた。
「それにしても……どうしてこっちの姿が見えたんでしょう……?」
ライトで前方の暗闇を照らしながらかなめがつぶやいた。
「俺は声なんて出してませんよ……!?」
大畑が慌てて振り向いた。
「いえ……大畑さんを疑ってるわけでは……」
二人は答えを求めて同時に卜部の方を見た。
卜部はやれやれとため息をついてから、重苦しい声でつぶやく。
「奴らには見えてない。見えてた奴が叫んだんだ……」
「見えてた奴……? 誰だよ……それは……?」
大畑が不安げに尋ねるとかなめがぽつりとつぶやいた。
「霊じゃない……人間……?」
「そうだ。おそらく……」
「青木さん……」
かなめの言葉を聞いて大畑が何か口にしようとした瞬間、前方の闇から水の滴る音がした。
それを皮切りに、ばりばりと何かが破ける音が暗闇に木霊し、三人に緊張が走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます