烏丸麗子の御遣い65
「
その声でメル・ゼブブは卜部の方へと振り向いた。
にやりと嗤う卜部と目が合い、メル・ゼブブは怒りの咆哮を上げた。
しかしメル・ゼブブの咆哮を掻き消すように風に乗ってがちゃがちゃと地鳴りが響き始めた。
がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ
がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ
がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ
がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ
卜部に襲いかかろうとするメル・ゼブブを生ぬるい風と共に現れた日本兵の濁流が攫っていく。
怒号を上げながら銃剣を構える日本兵の濁流が、日本の敵を滅ぼすべく死をも恐れずに向かっていく。
中にはあの軍刀男の姿もあった。
彼もまたやり方を間違えながらも仇敵を打倒せんと命を投げ売った一人なのだ。
その忠義が討つべき敵に向けられて
「彼らは日本の敵を赦しはしない……!! 散っていった数多の英霊たちの力を舐めるなぁぁぁああああああ……!!」
「馬鹿な……!?
その光景を見て頭を抱えた青木が苦しそうに叫ぶと、串刺しにされた卜部が吠え返す。
「俺はこんなところで絶対に死なん……!! 地獄ならとうに見た……!! それでもこの生地獄を往くと決めている……!! 今更苦痛と苦悩ごときで頭を垂れるくらいなら……俺の膝はあの時とっくに折れている……!!」
「さあ……お前にも会いたがってる奴がいるぞ……!! ヨーゼフ・メンゲレ……!!」
血みどろで嗤う卜部に青木は思わず戦慄する。
「なぜ私の名を……」
「彼らの名を書いたのが失策だったな……!! お前の正体も、死者の手を借りるこの策も……お前が結界を穢した方法から辿り着いた!! ……俺達は似たもの同士なんだろ?」
いつの間にか卜部の口元から笑みが消えている。
真顔でメンゲレを睨みつけて卜部が叫んだ。
「青木から出ていけ……!!」
「ふん……!! 馬鹿なこと……」
「出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇえ……!!」
満身創痍とは思えないほどを圧を放ちながら卜部が叫ぶ。
その言霊に神殿の空気が震えた。
気が付くと青木の身体を無数の人影が取り囲んでいる。
「先生の強さを甘く見たあなたの負けです……!! 青木さんの身体を返しなさい……!!」
「黙れ……!! 私は死の天使と恐れられたあのヨーゼフ・メンゲレだぞ!? 次は日本人の遺伝子を用いて、偉大なる研究を成し遂げるのだ……!!」
亡者達の影を振り払いながらメンゲレは叫んだ。
そんなメンゲレを睨みつけてかなめも叫び返す。
「あなたは……人の命を何だと思ってるんですか……!? あなたは死の天使なんかじゃない……!! ただの狂った人間です……!! 青木さんから出ていけ……!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ……!! まだ手駒は残ってる……!! 榎本ぉおおおおおおおおお……!!」
メンゲレが叫ぶと左手の蛆の一匹がむくむくと膨らみだした。
やがてそれは見覚えのある顔をした一匹の人面蛆となる。
「榎本さん……」
つぶやくかなめの顔が引き攣った。
榎本の顔をした人面蛆には醜い手足が生えており、背中には皺だらけの未熟な翅が付いている。
他の人面蛆とは明らかに異なる奇怪な姿は、メンゲレの手が入っていることを物語っていた。
「これこれこれこれこれこれで……!! けけけけけけ……形勢ががががが逆逆逆逆転……だなななななな!?」
針の飛んだレコードのようにメンゲレが言う。
「もう一度カレー粉をかけろ……!!青木を引っ張り出せ…!!」
なんとか串刺しから脱しようとしながら卜部が叫ぶ。
かなめは頷いてカレー粉の缶を強く握りしめる。
そんなかなめの前に虚ろな目をした榎本が立ち塞がった。
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