烏丸麗子の御遣い⑩


 蓋を開けた途端、酢のいい香りが広がり食欲を刺激する。


 綺麗に並べられた酢締めのアジは、一口大に美しく切られており、ツンと立った刺し身の端に包丁の鋭さが伺えた。


 細く切りそろえられた生姜が中央に盛られ、その直ぐ側には緑が美しいワサビがちょこんと置かれている。


 容器の隅にはレモンも入っており、色味も美しい上に風味を変えられて一石二鳥だ。


 アジの下に隠れたご飯達もちらりと顔を出して食べられる瞬間を待っている!



 かなめは醤油をかけると、弁当の隅に箸を入れた。



「……!! 先生……!! これは!?」


「ああ……どうやらまだを持っていたらしい!!」



 アジの下にはさらなる薬味が隠されていた。


 塩漬けにされたが顔を出す。

 

「大葉でしょうか……?」

 

「どうかな……」

 

 二人は同時に箸を口へと運んだ。

 

 

「「!!」」


 口に含んだ瞬間二人は目を見開く。 


「桜ですね……!?」

 

「桜葉か……!?」


 卜部とかなめは顔を見合わせニヤリと笑う。

 

「次はワサビと頂こう……」

 

「わたしはレモンです!!」

 

 卜部はワサビの先を箸でつまむと、次なる標的アジの上にそれを据えた。

 

「……!! 美味い……これはただのワサビじゃない……」

 

「先生……!! どうやら伊豆天城の生ワサビみたいです……!!」


 付属した小さなパンフレット片手にかなめが言った。

 

「どうやらとんでもない駅弁を引き当てたらしいな……」

 

 卜部が前髪をかき上げて言う。

 

どょうがんでふ同感です

 

 アジ寿司を頬張りながらかなめも頷いた。

 

 二人は夢中でアジ寿司に食らいついた。

 

 食べ終わった卜部がペットボトルのお茶を飲んでいると、烏賊飯を頬張りながらかなめが尋ねる。

 


「ところで先生……!! って何ですか……?」

 

「教えてやってもいいが……」


 卜部はすっと指を差す。 


「その烏賊飯と交換だ……」

 

「二切れ……」

 

 かなめはぐっと唾を飲み込み、震える手で烏賊飯を差し出した。

 

 卜部は満足げに烏賊飯を平らげると、真顔に戻って話しを始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る