烏丸麗子の御遣い⑪

 

は封印術の一種だ……」

 

「封印術……ですか……」

 

「ああ……厳密には封印術だ」

 

「それってどういう……?」

 

 かなめは顔をしかめながら尋ねた。

 

「お前、知ってる都市伝説をいくつか挙げてみろ」

 

 かなめは顎に指を添えて空を眺める。

 

「そうですね……口裂け女、カシマさん……くだんは妖怪ですか?」

 

「いや。そいつも含めて問題ない。こいつらの特徴はがあることだ……だが決して祓われたり、消えることはない……あるのは追い払う方法だけだ」


「なるほど……」


 不安そうに頷くかなめに卜部は目を細めて言った。


「不思議に思わんか? どうしてこんな都市伝説が出来る? いったい誰が噂を流す?」

 

「そりゃ……誰かが怪異に遭遇して、たまたま生き残って……それを噂に……」

 

「今は対策の噂が広まってるからな。助かる方法もあるだろう。だが最初の被害者はどうだ? ポマードだの呪文だの思い付くわけが無い……」

 

「じゃあ、都市伝説はやっぱり作り話ってことですよね……? 最初の被害者が死んで、次の被害者も死んで……それを繰り返してたら噂になんてなりませんよ……?」




「そうだとも言えるし、違うとも言える……」


「どういう意味ですか……?」


「都市伝説は作り話だが、怪異は作り話じゃないってことだ……!!」


 卜部は不吉な微笑をたたえて言った。




「都市伝説とは、そもそも怪異と対処法のセットで創る……」

 

「封印することも、祓うことも困難な、強力な悪霊や呪いを、噂で流して……結果、日本中に呪いは広がり、全国どこでも目撃情報が現れる……!!」

 

「その時に必要になってくるのが……」

 


「対処法……」

 

 かなめはぼそりとつぶやいた。


 卜部はそれにコクリと頷く。


 これから何をしなければならないのかが薄っすらと見え始め、かなめは思わず青ざめた。

 

 

「つまり、都市伝説創りっていうのは……祓えないほど強力な悪霊を……」

 

「そうだ……手探りの状態から有効な対処法を見つけたうえで、噂に封じ込め全国に流す……それがだ……」



 重たい沈黙が訪れた。


 まばらな乗客たちはこちらには見向きもせずにそれぞれの世界に没頭している。



 ふと窓の外に目をやると、いつの間にか田園風景は消えて、茜色と紫に染まった街が後方に流れていくのが見えた。


 車窓から夕焼けに染まった見慣れぬ街を見ていると、どこか異次元に迷い込んだような奇妙な感覚が湧いてくる。


 強烈な郷愁が鼻を突き、かなめの脳内に否が応でも不気味な都市伝説の内容が蘇った。

 


 存在しないはずの見知らぬ駅に取り残される話だ。


 

 かなめは思わず隣に座った卜部の袖を握った。


「おいかめ!! 何してる!?」


 そんな一喝が入ることを覚悟したが、卜部からは何の反応も返ってこなかった。



「先生……?」



 そう言ってかなめが目をやると、卜部はいつの間にか眠ってしまっていた。


 

 珍しく人前で眠る卜部を見てかなめは思わずひとりごちる。



「そっか……わたしが起きるまで、ずっと付いててくれたんだ……」

 

 

 かなめは袖を握ったまま、ほんの少しだけ卜部の近くに腰掛け直した。

 

 薄っすらと触れる肩の温もりは、かなめが安心して眠るのに充分だった。

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