烏丸麗子の御遣い⑨
「あら……?」
よろけた烏丸に慌てて
「
「ふふふ……邪道は使えまいと、まことちゃんを甘く見たわね……ますます素敵になっちゃって……!!」
嬉しそうに口走る烏丸の鼻から血が滴り落ちた。
「あのような者……いつでも
「あらあら……それって焼き餅かしら? ふふふ……あなたの手に負えるかしらねぇ……? それに、今はまだ泳がせておけばいいのよ。彼はまだまだ醜く美味しくなっていく……待つのも恋の楽しみの一つだわ……!!」
そう言い終えると、烏丸は窓の外を眺めて目を細めた。
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「先生……!! この服もらって来ちゃって良かったんですかね?」
かなめはアオザイの入った袋を抱えて卜部に尋ねた。
「バカタレ……!! お前のニオイが残った服をあそこに置いていくつもりか!?」
「なっ……!? ちゃ、ちゃんとシャワーしてから着たから大丈夫ですよ!!」
じっとりとした目でかなめを睨んで卜部が言った。
「ニオイってのはお前の情報のことだ……まったく……」
タクシーの中で見た伊豆の美しい景色と違って、駅の付近は人の営みの気配が色濃い。
それを見たかなめは、あの盆地から無事に抜け出して来たのだと改めて実感し、すぅと肩の荷が降りるような心地がした。
それを目ざとく察知したかなめの腹の虫が大きな声で鳴いた。
ぐうぅぅぅ……
「先生……お腹空きました……」
卜部はおもむろに立ち上がって窓の外を眺めた。
「……!!」
「急げかめ……!! 降りるぞ……!!」
卜部が慌てて電車を降りる準備を初めたので、かなめも急いでそれに従った。
「まだ間に合うはずだ……!!」
卜部は構内のある場所に向かって駆け出した。
それが何か理解して、かなめもスピードを上げる。
「先生……!! 駅弁ですね!?」
「そうだ……!! 買うなら特急待ちの今しかない!!」
卜部は売店に着くなり売り子に尋ねた。
「おい!! ここでしか食えない弁当はあるか!?」
「それでしたら、こちらのアジ寿司がおすすめですよ?」
売り子のおばさんが優しい笑顔で答えた。
「それを二つくれ!!」
「烏賊飯も一つお願いします!! あとお茶を二つ!!」
かなめは卜部の前に身を乗り出して指を三本立てて言った。
「かしこまりました」
くすりと笑って売り子のおばさんはお弁当の包を三つ袋に入れて手渡した。
急いで電車に戻ると、程なくして特急電車がやってくる。
電車は乗客達を飲み込むと、出発のアナウンスと共に去っていった。
そのすぐ後に普通電車の出発を告げるアナウンスが鳴り響く。
「間一髪だったな……」
「はい……危ないところでした……」
額の汗を拭って二人は包を膝の上に置き手を合わせた。
「いただきます……」
そう言って開いた蓋の中には美しい世界が広がっていた。
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