袴田教授の依頼㊷
しばらくすると気まずそうな表情のかなめが引き戸の隙間から顔を出した。
「気分はどうだ?」
かなめの方は見ずに卜部が言った。
「ノーコメントです……」
そう言って小屋から出てきたかなめに卜部は小さな包を投げて寄越す。
「食える時に食っとけ。軍用レーションだ……」
かなめが包を開けると中にはアメリカンクッキーのような物が入っていた。
「へぇ……なかなか美味しそうですね!!」
かなめはそう言ってレーションを頬張った。
その瞬間、かなめの口内に腐った臓物のような味が広がる。
「うっ……!? おぇぇぇぇえ……」
かなめは思わずレーションを吐き出した。
「おい……!! どうした!?」
「せ……先生!? これ腐ってませんか!?」
かなめは目に涙を溜めてレーションを卜部に手渡した。
卜部はそれを受け取り一口齧ってつぶやいた。
「……いや……腐っていない……」
かなめは血の気が引くのを感じた。
「じゃあ……これは……」
「おそらく呪詛の影響だ……これは飲めるか?」
そう言って卜部は水を差し出した。
おそるおそる口をつけるとそれは普通の水の味がした。
「大丈夫みたいです……」
かなめは水筒を卜部に返しながら言う。
「何か条件があるのかもしれん……食いたいものはあるか?」
かなめはそう言われて食べ物を思い浮かべる。
すると頭の中にいつか卜部と食べた蕎麦が思い浮かんだ。
「お蕎麦が食べたいですね……」
そうつぶやいた瞬間に頭の中で声がした。
血肉を寄越せ…… 体液を啜らせろ……
「え……?」
脳裏に浮かぶヌメヌメとした生肉の映像と、鼻の奥に感じた様々な体液の臭いにかなめは鳥肌がたった。
「どうかしたのか……?」
「い、いえ……!! なんでもないです……!!」
「帰ったら蕎麦だ。すぐにこの仕事を片付けて帰るぞ!!」
かなめは静かに頷いた。
「日本兵を避けつつ工場へ向かう。袴田が入れなかった扉の奥に目的のものがあるはずだ……身体に何か異変が起きたらすぐに報告しろ」
卜部は大きな荷物は小屋に残してウエストポーチに必要な荷を詰め込んだ。
ブーツの紐を念入りに締めなおすと二人は工場へと向かって進み始めた。
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