袴田教授の依頼㊸ side:泉谷張
寂れた雑居ビルに入るなり泉谷は守衛室に直行した。
太った守衛の男はいつもどおり椅子に腰掛け、新聞を頭に被って居眠りをしている。
「おい……起きろ!! 警察のもんだ!!」
泉谷は新聞を剥ぎ取ってバッジを見せた。
守衛は驚き目を見開く。
「心霊解決センターの鍵を寄越せ。事件の捜査だ」
泉谷がそう言うと守衛は何度も頷き鍵を手渡した。
泉谷はそれを受け取るとエレベーターには向かわず階段に直行した。
どうせエレベーターは故障中だ。
息を切らして五階にたどり着くと、泉谷は心霊解決センターのドアノブに鍵を差し込んだ。
鍵をひねってドアを開けようとするがドアが開かない。
「あああん!?」
泉谷はもう一度鍵をひねった。
するとすんなりドアが開いた。
「卜部のやつ鍵もかけずに出ていったのか!?」
そう言って中に入るとそこには見知らぬ男がいた。
黒いスーツに身を包んだ男は端正な顔立ちをしている。
男はこちらに気付いたようだが少し口元を歪めた程度でたいして驚いた様子はない。
「誰だお前は? 卜部はどうした……?」
泉谷は警戒心を剥き出しにして男を睨んだ。
泉谷の持つ刑事の勘が告げる。
この男は
それどころか血の臭いまでする……
男は両手を上げて言った。
「刑事とどうこうするつもりはない……」
「何ぃ……!?」
「卜部から留守を預かってる。ついでにあんたが来た時の伝言も預かってる。どうやら奴はこうなることもお見通しだったみたいだな」
「卜部の知り合いか……?」
「俺は
そう言って李偉はメモを取り出した。
「卜部の伝言だ。刑事が来たら渡せと言われてる」
メモには十三桁の番号が書かれていた。
「何だこれは?」
泉谷が顔をしかめる。
「衛星電話の番号だ。そこにかければ卜部に繋がる」
「何で俺が奴に電話を?」
泉谷は目を細めて言った。
「卜部は今、袴田という男の依頼で、失踪した新井とかいう男の捜索に行ってるらしい。そのうち警察が袴田のことで動くはずだと言っていた。そうなれば泉谷という刑事が事務所に訪ねてくるだろうから、袴田と新井の事を伝えろ。これが俺の預かった伝言だ」
そう言って李偉は出口に向かって歩き出した。
「俺の仕事はとりあえずここまでだ。後は警察にお任せする」
李偉を呼び止めようとした時に、泉谷の携帯が鳴り響いた。
泉谷が慌てて電話を取っている隙に李偉は姿を消していた。
「あっ……!! あの野郎!! おい!! 戻ってこい!!」
泉谷の怒鳴り声に返事は返ってこなかった。
「泉谷警部……!! 遺体の身元が判明しました……!! 遺体は……」
携帯から聞こえた名に泉谷は驚愕の表情で目を見開く。
「何だと……!? どういうことだ……!? すぐそっちに戻る!!」
泉谷はそう言って電話を切ると急いで事務所を後にした。
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