袴田教授の依頼㊶
「ふっ……ひぃん……んっ……」
薄暗い小屋に押し殺したようなかなめの声が響く。
かなめは白い肌と華奢な背中を露わにして顔を上気させながら、焦れったいような刺激に身をくねらせていた。
「せ……先生……もう……もう我慢できません!!」
荒い呼吸をしながらかなめが口走った。
「馬鹿!! 動くな!! 筆が乱れる……!!」
卜部はかなめの肩と背中に見たことのない複雑な文様と文字を書きながら怒鳴りかえした。
胸を上着と両手で覆い壁を向いたかなめが悲鳴を上げる。
「でもでもでも……!! これはこそばすぎです!! ぎゃははっはははっはは!!」
「こら!! 笑うな!! 我慢しろ!!」
どうしてこうなった……
かなめは恥ずかしさとくすぐったさに顔を赤くしながら先程のやりとりを思い出す。
「ぬ……ぬ……脱ぐって!? ふふふふ……服をですか……!?」
「そうだ……」
「なななな……何でですか!? 一体何するつもりですか!? まさか……
かなめは自分の身体を抱きしめながら尻すぼみにごにょごにょとつぶやく。
「ば、馬鹿を言うな!! お前の身体に呪詛封じの印を書くために決まってるだろ!!」
卜部も耳を赤くして叫んだ。
卜部は咳払いをして呼吸を整えてから出来るだけ冷静に言葉を紡ぐ。
「いいか……? 落ち着いてよく聞け……お前の中にはおそらく呪詛の子種が注入されてる……そいつがお前の子宮に到達してそこで成長すれば、お前は何かしらの怪異を産むことになる……」
卜部の言葉にかなめは一瞬で青ざめた。
「これは科学と呪術を用いた禁術の類だ……呪術だけなら俺でも解呪できるが、科学の方が邪魔して俺にも取り除くことができない……」
「そ……そんな……」
かなめは力なく床にへたり込んだ。
「これから兵器工場に侵入し、解毒剤ないし研究資料を手に入れる。それが手に入るまでの間、呪術の進行を遅らせるために俺の血を混ぜた墨でお前の身体に印を書く」
かなめは半泣きになりながら卜部の顔を見上げた。
「俺が絶対にお前を助ける。必ずだ……!!」
今度は卜部が屈んでかなめに視線を合わせる番だった。
かなめはこぼれそうになる涙を隠すために俯いてこくこくと頷いた。
「解ったら脱げ……」
こういうわけでかなめは壁を向いて上着を脱ぎ、かれこれ小一時間ほどくすぐったさと羞恥に耐えている。
色々と限界が来そうだという時にピタリと筆の動きが止まった。
「よし……終わったぞ。俺は外にいるから服を着たら出てこい……」
卜部はそう言い残して小屋を出た。
小屋を出る間際にかなめのカバンからタバコを一箱つまみ上げる。
外に出ると卜部は壁にもたれてタバコに火をつけた。
少々感覚が鈍っても、落ち着くために吸わずにはいられない……
卜部は深く深く吸い込んだ紫煙を空に向かって大きく吐き出した。
見上げ空は相変わらず雲一つ無いどす黒い青空だった。
そして死んだような日差しに透けて、ぶんぶんと唸りを上げて舞い飛ぶ霊蝿が蔓延っていた。
卜部はかなめにあえて言わなかった言葉を黙想しながら、独りつぶやいた。
「お前を怪異にはさせん……たとえどんな手を使ってもだ……」
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