袴田教授の依頼59
「おい!! 李偉!! 聞こえるか!?」
「あ……あ」
「最悪の結果になった!! すぐに動いてくれ!!」
「わ……った」
背中越しにかなめが尋ねる。
「先生……今のは……?」
「李偉には予め最悪のケースを想定して保険になってもらっていた……使いたくなかった手だが仕方がない……いったいどれだけぼったくられるか……」
そう言って小屋に入るなり卜部は通信機器から伸びるケーブルを辿り、何かを調べ始めた。
やがて外に伸びるケーブルを見つけると、それに繋がる機械の電源を入れる。
「くそ……どれが内線のスイッチだ……?」
機械に触りながら卜部は泉谷に電話をかけた。
二回目の呼び出し音で泉谷が電話をとる。
「張さん!! さっき言った物は準備できてるか!?」
「あ……あ……!! こ……れを……一体……どうす……る?」
「俺がいいと言ったらそっちで再生してくれ!! それを受話器で拾って俺に送ってくれればいい!!」
「あ……あ……わか……った……!!」
卜部は機械に付いた小さなレバーを倒した。
すると緑のランプが点灯し、盆地中のスピーカーから凄まじいハウリングノイズが響いた。
「よし!! 始めてくれ!!」
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「よ……し……!! はじ……めて……れ……!!」
泉谷は受話器から聞こえた合図で若い刑事に指示を出す。
「おい!! 始めろ!!」
若い刑事は静かに再生ボタンを押した。
ジーーー――という音に続いて、泉谷達の控える狭い部屋に朗々と声が響き渡った。
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「ち……ふ……かく……せか……い……大勢……」
ノイズに続いてスピーカーからは謎の声が流れてきた。
奇妙な抑揚を孕んだ男の声に、兵隊達は眉間に皺を寄せながら囁きあう。
「一体なんだ? この声は……?」
「何て言ってるんだ?」
「さぁ……俺にはさっぱり……」
「狼狽えるな……!! 敵の居場所が分かった!! 奴は通信室にいる……!! 急いで通信室に向かうぞ……!! 続け……!!」
佐々木は手に持ったタバコを放りだすと、倉本をその場に捨て置き馬に跨った。
「そいつは放っておけ……!! どうせ逃げられん……!! お前たちも私に続けぇぇえええ!!」
そう叫ぶなり、佐々木は通信室に向かって馬を走らせた。
通信室に向かう間も、電柱のスピーカーからは意味不明の言葉が放送されている。
「し……に……こ……う戦……既……し……歳を……閲し……」
「忌々しいスパイめ……!! 一体何を企んでいる……!?」
佐々木は吐き捨てるようにそう叫ぶと馬を強く蹴った。
佐々木を乗せた馬は速度を上げて通信室への道を疾走した。
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「くそ……電波が悪いのか……? これでは内容が伝わらない……」
卜部は窓の外に目をやった。
そこには天に伸びる矢倉が立っていた。
卜部は部屋の中にあったケーブルを放送用のマイクに繋ぎなおすとそれを背中のかなめにくくりつけた。
「……かめ。今からここを登る……お前は電話とマイクを持ってろ……」
「登るって……!? わたしを背負ったままですか……!? そんなの無茶です……ここで待ってます……」
「なめるな……!! 修行時代は四〇キロの荷物を背負って崖を登ってた……!!」
その言葉にかなめは内心どきりとする。
四〇キロの方が軽いです……
「迷ってる暇はない……!! ここも安全じゃないんだ……!! 急ぐぞ……!!」
そう言って出口に振り返ると、そこには青木と袴田が立っていた。
「やあ。約束通り経過を見に来たよ?」
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