烏丸麗子の御遣い54

 

「大方の事情は分かった……だが……まだ不可解な点が残ってる……」


 卜部は右手で髪を掻き上げつぶやいた。


「どういう意味ですか?」


 かなめがそんな卜部の顔を覗き込む。


 卜部はちらりとかなめに目をやった。


「経緯を整理してみろ」


「榎本さんに裏切られた喜美子さんが……じ」


 かなめははっとして言葉を呑み込んだ。


「喜美子さんがお亡くなりになって……榎本さんが遺体を開かずの扉の中に隠した。青木さんがここに侵入するために封印を解いた隙に、喜美子さんは榎本さんに会おうとして外に出た……ってことですよね?」

 

「大筋はそうだ。だがこの話にはがある……」


 

「あ……」


 かなめは卜部の言わんとしている事を理解してつぶやいた。


「喜美子さんはどうやってメル・ゼブブの捕まらずにいたのか……?」





「そのとおり。それも相当長い期間だ……」



「俺みたいに隠れてたんじゃないのか?」

 

 大畑が口を挟んで言った。

 

「それはあり得ない。榎本は開かずの扉から伸びてきた白い手にと言っていた。奴に捕まってから脱出するなど不可能だ」

 

「じゃあ一体どうやって……?」 


 小首を傾げたかなめの方を向いて卜部が口を開く。


「考えられるのは……」

 

 

 ドーン……

 

 

 その時どこかで巨大ながぶつかる音がした。

 

 天井からパラパラと砂が落ちてくる。

 

 三人は身を固くして様子を窺っていた。

 

 しかしそれ以上は何も起こらない。ただただ静寂があたりを覆っていた。

 


「爆発……ですか?」

 

「わからん……わからんが……風向きが変わった……」


 

 かなめは首を伸ばして風を探したがそんなものは感じられなかった。


「風なんて吹いてませんけど……」


 そうつぶやくかなめを卜部は呆れた顔で眺めて腰に手をつく。


「その風じゃない……今ので何かのが変わったんだ……!!」



「良いようにですか……?」

 

 かなめが恐る恐る尋ねると卜部は荷物を背負って振り返った。

 


「そう願う……恐らく今のはメル・ゼブブにも青木にとってもだ。この機を逃せば状況はどんどん悪化する……!! 出発するぞ……不確定要素が気掛かりだが、腹を括る時が来たようだ……」

 

「何処に行くんですか!?」

 

「まずはがいる……!! 行くぞかめ……!! 奴らに一泡吹かせてやる……」

 

「はいっ……!! それと、亀じゃありません……!! かなめです……!!」

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