烏丸麗子の御遣い⑤
「まことちゃん!! あなたもお食べなさいな……」
笑う目の奥で異論は認めないとでも言うように、紫の光が揺れている。
卜部は何も言わずに差し出されたスコーンに手を伸ばした。
「どうかしら?」
卜部の目を覗き込みながら烏丸が尋ねる。
「……
「それはよかったわ!!」
顔の横で両手を合わせて烏丸は満面の笑みを浮かべた。
かなめは最後のスコーンの欠片を紅茶で流し込むと、ふぅと息を付いて口火を切った。
「ご馳走様です!! とっても美味しかったです!!」
かなめは烏丸を見てにっこり微笑んだ。
「ふふふ……それは良かったわ。身体の方はもうすっかり良いみたいね?」
烏丸は目を細めてかなめを見つめる。
その瞬間電気が走ったような感覚がかなめの背筋を襲った。
「烏丸先生……そろそろ本題のほうを……」
卜部は烏丸の視線を遮るように身を乗り出しながら言った。
「麗子ちゃん……!! それにしても……随分そちらのお嬢さんが大事みたいね? 妬けちゃうわぁ……ねぇ? 私もかめちゃんって呼んでも?」
「はぁ……」
突然の提案にかなめは思わず間抜けな声で返事をする。
烏丸はそれを聞いてよく解らない笑みを浮かべた。
「さてさてさて……本題だったわね……? もちろん解呪の報酬のお話よ? その前に質問してもいいかしら?」
烏丸は突然真顔になって卜部を見つめながら、穏やかな口調で言った。
「あなた……どうして私が教えた邪道を使わなかったの? 使えばあの程度の解呪訳無かったはずでしょ?」
卜部は黙ったまま烏丸の目を睨み返していた。
「今回に限った話じゃないわ? 邪神や旅館の呪物にしたってそう……邪道を使えばもっと楽に立ち回れたのに、どうして正道しか使わないの? お陰であなたの身体はボロボロじゃない……?」
それを聞いてかなめは耳を疑った。
どうして過去に取り扱った事件の内容を知っているのか……?
そしてあれほど苦戦した怪異相手に楽に立ち回れるという邪道の存在に……
かなめは卜部の言葉を思い出す。
「最悪の場合、陰の気を使う……」
陰の気と邪道という言葉に共通する不穏な響き。
誰からも漏れるはずがない情報を知り、卜部が頑なに使おうとしないその
「あなたには関係のない話です。それより何を支払えばよろしいですか……?」
卜部は感情の籠もらない声で静かにそう言った。
それを聞いた烏丸の目がさっと冷たい色を帯びた。
「あらそう……よく理解ったわ。そちらのお嬢さんには聞かれたくなかったかしら? 本当になんにも話してないのね……」
そう言ってちらりとかなめを見る烏丸の目は、まるで蛇のように尖っている。
それでいて小馬鹿にしたような嘲笑の色が口元に滲んでいた。
上品で人の良さそうなオーラを身に纏いながら、内側には見たことのないほど禍々しい闇を秘めている……
かなめはそのことをはっきりと理解し、同時に卜部の言葉の意味も理解した。
この
そう心に決めた時、烏丸が再び口を開いた。
「それにしても……あなたは少し観察力が足りてないわね……? 何で私がスコーンを食べなかったのか考えなかったの?」
「そうなんです!! 不思議に思ってたんです!! どうして吐き出したんですか?」
かなめの質問返しに烏丸は目を丸くした。
「毒ならうちの先生が止めてくれます。それに……烏丸先生はさっきから先生に対して意地悪です!! でも先生を嫌ってる訳じゃなさそうだし……わたしの何かが気に入らないなら、はっきり言ってください!!」
烏丸の目を真っ直ぐ見つめてかなめは言った。
烏丸は鼻から大きく息を吸い込み目を丸くしていたが、やがて高笑いを始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます