烏丸麗子の御遣い④
「すみません……烏丸先生……」
「麗子ちゃん!!」
目を閉じ頭を下げる卜部に烏丸は拗ねたような口調で言い放つ。
そんな卜部と烏丸のやり取りを見てかなめは驚きを隠せない。
「もう……!! いっつもこうなのよ?? わざとよそよそしい呼び方をするの!!」
烏丸はそう言ってかなめにいたずらっぽく目配せしてみせた。
かなめは卜部の言葉を思い出し、返事をしそうになるのをぐっと堪える。
「まっ……!? まことちゃんったら、あなたに何か吹き込んだのね?」
妖しく目を細めて口角を上げる烏丸は、茶目っ気たっぷりのチャーミングな老婦に見える。
しかしそんな印象とは裏腹にかなめの胸中はそわそわと落ち着かなかった。
無数の目に周囲をぐるりと取り囲まれているかのような居心地の悪さと、言葉の端々に見え隠れする邪悪な何か。
見えない目が舐め回すように自分を観察している姿を想像してかなめは鳥肌が立った。
「またお仕置きが必要かしらねぇ……どう? まことちゃん?」
烏丸は卜部を見て目を輝かせた。
しかし卜部は何も答えず黙ってその目を見据えるだけだった。
「あらあらあら……随分強気になったものねぇ……? やっぱり可愛いらしいお嬢さんの前だと男の子は格好をつけてしまうものかしらねぇ……?」
烏丸は目を丸くして感慨深そうに首を上下に動かした。
「まあいいわ!! お茶にしましょう!!」
そう言って烏丸は二度手を打った。
すると何処からともなく長身の美しい男が現れて机とティーセットを用意した。
「私の
「さ……! こっちにいっらしゃい。このスコーンは私の自慢の逸品なのよ?」
スコーンを一口齧って烏丸はそれを床に吐き捨てた。
「えっ…!?」
その様子に戸惑うかなめに烏丸はにっこり微笑んで言った。
「気にしないでね? こういうものなのよ」
卜部が静かに机に向かったので、かなめもそれに従った。
かなめがテーブルに並んだ高級そうなカップとソーサーに視線を落とした時だった。
ぐぅううううう……
紅茶とスコーンのいい香りが鼻をくすぐり、何日かぶりの食事に思わずかなめの腹の虫が声をあげた。
卜部がじろりとかなめを睨む。
それを見て烏丸は手を叩いて笑った。
「うふふふふ……!! 何日かぶりの食事ですものね? 無理もないわ!! 遠慮しないで食べてちょうだい?」
ちらりと卜部に目をやるとこくりと頷いたので、かなめはスコーンに手を伸ばした。
「いただきます……」
かなめは目を見開き顔を上げた。
「すっごく美味しいです……!!」
「たんと召し上がれ」
頬杖を付いて烏丸は微笑を浮かべる。
思うところは多々あったが、腹が減ってはなんとやら……
かなめはとりあえず腹ごしらえを済ませることにした。
そんなかなめの隣で、卜部はふぅ……と細いため息を吐くのだった。
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