かなめの事件ファイル

  

 長かった一連の事件の概要をここに記す。


 なおこの資料は事件後に判明した事実などを統合し、出来得る限り正確に事件を記録することを目的としている。



 【袴田事件の経緯】


 ことの発端は袴田が当心霊解決センターを訪ねてきたことによる。


 当初の依頼内容はK県県境の山奥に存在する【旧帝国陸軍の化学兵器工場】にて、行方不明となった【新井輝雄】を捜索して欲しいというものだった。


 しかしこの時を名乗った人物は、袴田のを被った新井であったことが後に判明する。


 詳しくは後述するが、新井は袴田に帝国陸軍の秘密工場の情報を流した時点で、霊体に憑依されており、袴田教授に地下室への入り口を開けさせようと目論んでいた。


 この憑依霊こそが今回の一連の事件の黒幕とでも言うべき存在で、名をと言う。



 ※以下メンゲレと表記


 ※【依頼人=袴田の皮を被った新井=メンゲレ】このような関係が成り立つ。


 

 【青木とメンゲレ】

 

 当初、先生はこの依頼を引き受けるつもりはなかったが、師である【烏丸麗子】の紹介であることが判明し渋々依頼を受理することとなる。

 

 安全策を講じるべく、先生はによる契約を用いて、依頼人の肉体に制約を設けた。

 

 これによって、契約書の内容を破ることが出来なくなったメンゲレは、袴田ゼミの学生【青木将也】を捜査に同行させる。

 

 メンゲレは青木の中にある陸軍研究への執着に目をつけ、憑依するための波長が合うことを確信していた(先生談)


 憑依するタイミングを計っていたメンゲレは、わたしたちが盆地に泊まった翌朝にし、青木に憑依する準備を整えた。


 

 【血判書とメンゲレ】

 

 青木も安全策の一環で先生と血判書による契約を交わしていた。


 この血判書の効果で、精神を錯乱し、わたしを襲おうとした青木(メンゲレに憑依されかけの状態)は左手に酷い障害を負った。


 しかし青木の肉体を完全に掌握したメンゲレには血判書は効果を発揮しなかった。


 これにより、血判書による制約は、契約者の魂が別人であれば効果を発揮しないことがわかった。

 

 

 【呪胎一号】

 

 旧帝国陸軍の秘密計画の被験者。

 

 不死の兵士を量産することを目的とした一三七三部隊イザナミぶたいを率いる【正木大佐】が、様々な呪物に耐性のあった男性に呪物を埋め込み造り出した。

 

 死後もその姿を保持し、盆地周辺の森を徘徊しながら日本兵に復讐する機会を狙っていた。

 

 先生の祓いによって昇天する。



 【正木大佐】


 敗戦色濃い状況で、軍上層部から不死身の兵隊をつくるよう指示された医学博士。


 極限状態の中、非人道的な実験を繰り返し、成果が上がっていると信じ込もうとした。


 彼による残酷な実験の結果、兵器工場跡を含む盆地は呪われたと言っても過言ではない。



 【丸太】


 反戦思想を持つを捕らえ、彼らを伊邪那美計画の被験者として用いる際に使われた呼称。


 かつて支那にあった関東軍の化学兵器工場でも同様の呼称が用いられた。


 

 【呪胎告知】

 

 呪胎一号の遺伝子から造られた呪物を注入することで発症する呪い。

 

 男は異形に変化し、女は怪異を身ごもる。


 女は幻聴、幻覚、食性の変化、つわり、を経て出産に至るという…… 


 (わたしもこの呪物を注入されたが、先生の封印と烏丸先生の解呪により難を逃れる……なお解呪の方法はとのこと……)

 

 

 【本物の袴田教授】

 

 新井(メンゲレ)と廃工場を訪れた際に罠にはめられ捕らえられた。

 

 生きたまま生皮を剥がされ、監禁される。


 その後日本兵に捕らえられ、丸太として地下に収容されることとなる。

 

 袴田の真の目的は、亡くした妻の復活。

 

 しかし警察による後の捜査で、袴田の妻は殺害された可能性が極めて高い事が判明している。

 

 

 【霊蝿】

 

 霊蝿れいようは人の大量死があったような場所に発生する無念や怨嗟の表出。

 

 後述するが放つ蝿とは異質のものである(先生談)

 

 

 【ヨーゼフ・メンゲレ】

 

 ナチスの強制収容所で人体実験を繰り返した使の異名を持つ人物。

 

 人間の遺伝子に関する研究に異常な執着を持っている。

 

 ナチス崩壊後南米で逃走生活の果てに死亡したが、死後も強力な霊としてこの世に存在していた。


 日本人の遺伝子と呪物に興味を持ったメンゲレは、死者の依頼も受けるという烏丸麗子の事を知り、烏丸麗子に依頼を持ちかける。

 


 【メンゲレの依頼内容①】


 陸軍の秘密工場に侵入するために波長の合う人物を寄越すように依頼したと考えられる(先生談)


 結果、新井に白刃の矢が当たり、メンゲレは新井に憑依して肉体を得ることとなる。


 その依頼の報酬として帝国陸軍の研究資料を要求されるが、地下に続く扉の暗号が理解らず再び烏丸麗子に依頼をすることとなる。

 


 【メンゲレの依頼内容②】

 

 地下の暗号を解読できる凄腕の霊媒師を紹介するよう求めたメンゲレに、烏丸麗子は心霊解決センターのを紹介する。

 

 しかしその報酬はメンゲレの脳の半分という恐ろしいものだった。

 

 メンゲレは秘密の研究資料の内容を用いて自身の分身を作る予定だった(先生談)

 

 しかし当てが外れたメンゲレは、烏丸麗子を恐れて地下鉄の奥深くに封印されたの奥に逃げ込むことになる。

 

 

 【烏丸麗子】

 

 先生の師匠でどうやらそれ以上の関係……? (要確認……時期を見て問い詰めるべし)

 

 国家レベルの権力を有する様子……

 

 地下鉄で起きた連続投身自殺ももみ消されていた(烏丸先生の影響か?)

 

 先生曰く「俺はあの人が恐ろしい……」そんな先生をわたしが守った! 偉い!

 

 

 【開かずの扉】

 

 地下鉄の奥深くにある謎の扉。

 

 旧陸軍の秘密の坑道を【国守】が封印したものらしい(先生談)

 

 地下で投身自殺が起きると現れるという。

 

 

 【糞山の君ウメルケト・ゼブブ

 

 全ての蝿と蛆の母の異名を持つ邪神。  

 

 腐敗と疫病を司るという。

 

 有名な悪魔【蝿の王バアル・ゼブブ】の后。

 

 GHQによって開かずの坑道の奥深くに安置された。

 

 ※以下メルゼブブ

 

 メルゼブブの影響で日本人の精神性は著しく穢されたという。

 

 メンゲレが国守の結界を穢してからは、その影響力が地下鉄構内に漏れ出した。


 それによって人々の精神を腐敗させ強制的に自殺に導き開かずの扉を完全に開こうとした(先生談)

 

 

 【大畑喜美子】

 

 駅員の【榎本敏彦】に利用された挙げ句、精神を病み投身自殺した女性。


 榎本の運転する電車に飛び込み死亡した。 


 本来ならばメル・ゼブブに魂も肉体も支配されるはずだったが、榎本からの贈り物である【赤い靴】に魂(念)が残ったことで、メル・ゼブブの手を逃れた(先生談)

 

 事故を起こし錯乱した榎本が、頭部をボストンバッグに詰めて持ち帰った(先生曰くおそらく大畑喜美子の呪いによるという)ことも、メル・ゼブブの手から逃れることが出来た大きな要因と推察される。


 その後、赤い靴を探す幽霊として駅で度々姿が目撃されている。




 【都市伝説創り】

 

 祓うことの出来ない強力な霊を封印する術。


 封印を成立させるには以下の条件が必要である。 


 ①事実に即したストーリーであること。


 ②怪異に遭遇した場合の解決策が用意されていること。


 ③封印対象に創った都市伝説を聞かせること。

 

 これにより、先生は強力なメンゲレの霊体を都市伝説に封印した。

 

 都市伝説は各地にばら撒かれ霊の力を希釈してしまう。

 

 ただしメル・ゼブブのような邪神を都市伝説にするとその影響力が国全体に広がるだけというデメリットも存在するので注意が必要である。

 

 

 

 以上、断片的ではあるが事件の要点となる内容をここに記録した。

 

 この記録の制作者は助手のかなめである。

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邪祓師の腹痛さん【呪孕告知・都市伝説創り】 深川我無 @mumusha

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