袴田教授の依頼⑦
袴田が去った後の事務所でかなめは卜部に詰め寄った。事務所には袴田が運んできた不穏な空気が今なお残っていた。
「先生!! 聞きたいことが山ほどあります!!」
卜部は面倒臭そうにかなめを一瞥してから明後日の方を向いてしまった。
どうやら無視を決め込んだらしい。
しかしかなめも引かなかった。
「先生!! どうして依頼受けちゃったんですか!? まずい案件なんでしょ!? それに……烏丸麗子って誰ですか!?」
「お前には関係ない……」
卜部はかなめの顔は見ずにぼそりとつぶやいた。
「関係なくありません!! わたしは先生の助手です!! おもいっきり当事者じゃないですか!!」
かなめは卜部の視線に割り込んでいって言った。
「ええい……やかましい奴だ!! 何が聞きたい!?」
卜部は苦虫を噛み潰したような表情でかなめを見た。
「だから言ってるじゃないですか!! 烏丸麗子です!!」
卜部は頭を掻きむしってから自身の両膝に肘を乗せ、合わせた両手の上に額を当てて唸るように言った。
「あまりその名を口にするな……」
「何でですか!? 一体誰なんですか!?」
「俺の師匠だ……」
卜部は観念したように短く一言だけつぶやいた。
「え……?」
「言っておくが……まったくもって善人じゃない……邪悪極まりない危険人物だ……にも関わらずこの国の重鎮達も一目置いてる。出来ることならもう関わりたくなかった」
卜部はそう言うと唇を噛み締めて黙ってしまった。見るとグレーのシャツの両脇には大きな汗染みが出来ている。
名前だけで卜部をこれほどまでに緊張させる人物が存在するなど、かなめは想像だにしなかった。
それだけでことの重大さが嫌でも身にしみる。
例え卜部であっても、烏丸麗子の名前を出されればその依頼を無下にすることが出来ないのだ。
例えそれがどれほど危険で恐ろしい依頼であったとしても……
かなめはいつの間にかこぶしを固く握りしめていた。
それに気づいた卜部は小さくため息をついてから口を開く。
「この話はここまでだ……これ以上話しても詮無い。それより今はこの依頼をどう片付けるか……だ。行くぞ亀。できる限り準備を整える」
「何処に行くんですか?」
「決まってるだろ?」
卜部は呆れたような顔でかなめを見て言う。
「まずは腹ごしらえだ」
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