烏丸麗子の御遣い72


 

 ガタンゴトンガタンゴトン……

 ガタンゴトンガタンゴトン……

 

 列車の走る音がする。

 

 遠くに小さな明かりが見えた。

 

 光は少しづつ大きくなっていく。

 


「んっ……で……電車……!?」

 

 かなめは慌てて起き上がった。

 

「電車が来ます……!! みんな起きてください……!! 電車です……!! 早く起きて……!!」

 

 かなめの声で気がついた一行が起き上がると、電車がこちらに走ってくるのが見えた。

 

「青木さん……!! 手伝って……!!」

 

 かなめの呼びかけで青木は慌てて卜部を持ち上げ線路の脇へと運ぶ。

 

 どうやら間に合った……

 

 かなめが安堵すると、線路の上に立つ大畑と目があった。

 

 大畑は穏やかな表情で微笑んでいる。

 


「かなめちゃん……短い間だったが世話になったね……本当にありがとう……」

 

「どういう意味ですか!? 大畑さん早くこっちに……!! 電車が来ます……!!」

 

 

 大畑はゆっくりと首を横に振り視線を横に向ける。

 

 そこには赤い靴を履いた大畑喜美子が立っていた。

 

 

「娘も無事に見つかった……俺はこれ以上長くここにはいられない……思い残すことも……もう何もない……」

 

「駄目です……!! 死んじゃ駄目……!! 生きてください……!! 娘さんのためにも生きて幸せになって……!!」

 


 今にも飛び出そうとするかなめを青木が後ろから掴んで離さない。

 

「離してください……!! 今ならまだ間に合う……!!」

 

 

「いや……彼の判断は正しい……娘と逝かせてやれ……」


 気が付いた卜部が小さな声でつぶやいた。


「先生まで……何言ってるんですか……!? そんなの……また悲劇の繰り返しじゃないですか……!? 生きていればきっと……きっと……」




「彼は……」


「え……?」



 かなめは思わず卜部の方を振り向いた。


 それと同時に列車の警笛が暗い地下に鳴り響く。



 かなめが慌てて大畑の方に振り返ると、喜美子と並んで立つ笑顔の大畑と再び目が合った。


 二人の姿は走り去る列車に掻き消されてしまう。



「あんなところで人が十年も二十年も生きられる訳がないだろ……地下の何処かで彼は息を引き取ったんだ……それでもずっと孤独に娘を探し続けていた……もう休ませてやれ……」

 



 かなめが言葉を失っていると、近くでガチャリと音がした。

 

 見ると点検用か何かのよくわからないドアが開いて、中から暖かな光が漏れている。

 

 

 その光の中から真っ黒なスーツに身を包んだ男が現れた。

 

 

のお出ましか……」

 

「寛大な主様ぬしさまが迎えを寄越してくださったことに感謝するんだな……」

 

 そう言っては踵を返して付いてくるように合図した。

 

 呆気にとられて目を丸くするかなめに卜部が言う。

 

 

「行くぞかめ……青木お前も来い……」

 

 かなめと青木は目を見合わせた。

 

 かなめは卜部の元に駆け戻ると思い出したように口にする。

 


「亀じゃありません……!! かなめです……!!」

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