烏丸麗子の御遣い⑬
「どうやら都市伝説創りと回収作業には密接な関わりがあるようだな……」
卜部が苦々しげに口にする。
それと同時にかなめの中には恐ろしい想像が広がった。
口にするのを数秒ためらってから、かなめは意を決したように口を開く。
「それって……青木さんの脳を回収するってことですか……?」
その言葉に無表情だった守衛の顔がぴくりと動く。
厄介事は御免とばかりに、守衛は元いた椅子に座って何個目かのコロッケを取り出し口に運んだ。
嫌な沈黙の後に卜部が重々しい声で言う。
「まだわからん……しかしあの人の御遣いなら……最悪そういう事態になる可能性もある……」
卜部はタバコに火を付けて続けた。
「あの人の御遣いは大抵が嫌がらせ或いは何らかの事情で自分が手を出せない案件だ……今回も青木の絡みが面倒と見てこっちに振ってきた可能性はある……」
吐き出した紫煙が狭い守衛室に充満する。
迷惑そうに卜部を睨む守衛を見て、かなめは卜部を連れて守衛室を後にした。
「ビデオデッキありがとうございました!」
そう言ってかなめがぺこりと頭を下げると、守衛は無表情のままコロッケを掲げて見せた。
二人は事務所に戻り、烏丸から受け取った封筒の中身をローテブルに広げる。
中には資料とともに、美しい文字で書かれた烏丸からの手紙が入っていた。
拝啓まことちゃん
前略
本当なら私が直々に取り立てに行ったほうが早いのだけれど……
彼ってば中々に勘が鋭くて私が行くとすぐに逃げてしまいそうなの。
逃亡生活が長かった賜物かしらね?
地の果てまで追い詰めるのも一興ではあるのだけれど、歳は取りたくないものよ?
もう長い旅を楽しめるほど今の私は若くないわ……!!
それにどうやら、あなた達のお友達が、彼ととっても仲良くやってるみたいだから
最後に友人四人で集まって、水入らずの時を過ごさせてあげようと思ってね。
だってそうでしょ?
脳の半分を失ったら次に会う時には、もう誰だか理解らなくなってるかも知れないもの!!
最後に忠告。
甘さは捨てることよ?
さもないと、大事な助手のお嬢さんを失うことになるかも知れないわ?
その時は。私がお嬢さんに代わって、あなたを慰めてあげますからね。
愛を込めて。烏丸麗子
卜部はその手紙を握りつぶしてゴミ箱に放り投げた。
「ほれ見たことか……嫌がらせと手が出せない……その両方だったがな……!!」
「でも先生? 肝心の封印する怪異の事はわからないままですね……謎の論文? みたいなものは入ってますけど……」
「ああ……いつもこうだ。肝心なことは自分で調べるしか無い……かと思えば重要なヒントが紛れ込んでいたりする……」
かなめは無言で二回頷いた後にぼそりとつぶやいた。
「性格が悪いんですね……」
卜部は目を見開いてかなめを見やった。
それに気が付いてかなめが卜部の方を振り向くと、互いの視線がぶつかる。
そのまま黙って視線を重ねていると、卜部がゆっくりと頷いた。
「とりあえず、この紹介状とやらを持って、明日の朝、
卜部は忌々しげに封筒を摘み上げるとそれを自分の机に置きにいった。
「何だと……!?」
卜部が突然大声を出す。
「どうかしたんですか!?」
かなめも慌てて卜部の元に駆け寄った。
机を見ると一枚の紙切れが置かれている。
紙切れには印刷された無機質な文字でこう書かれていた。
請求書
ヘリコプターチャーター料金として
金額を目で追ってかなめは血の気が引いた。
ちらりと卜部を見るとわなわなと震えているのが分かった。
「先生……? これどうするんですか……?」
「どうするもこうするもない……」
「この仕事が済んだら、次は
まるで自分に言い聞かせるようにそう言うと、卜部はソファに深く腰掛け天井に向けてふぅと煙を吐き出した。
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