第47話 増えた家族との新しい暮らし

集落に帰ってきた。


我が家が急に賑やかになったのだが、ご近所さんの対応は、爺さんがすぐに子供を保護して帰ってきた時期があるからだろうか、意外に薄く、そして打ち解けるまでが早かった。


ミロおじさんとレオおじさんはサーラスちゃんを姪の様に可愛がり、


「サーラスは5歳ぐらいなのに、身体強化が上手だな!」


と二人してナタチョップを伝授している。


サーラスの刃こぼれしたナイフを見て、


「新しいのをベントの所で買ってやろうか?」


とミロおじさんがサーラスちゃんに聞いたら、


本人は、「仲間、大事」と言ってナイフを抱きしめたらしく、レオおじさんが、


「仲間か…よし、明日ベントに修理を頼むから、それまでおじちゃんの『友達』を貸してやるゾ。」


とナタ貸し出した流れで、ナタチョップの伝授が始まったのだ。


狩人のリントさんは、カトル君七歳を気に入り、


「カトル君は手先が器用だし、集中力も有る。

おまけに『集中』のスキル持ちなんて、狩人になるのに持ってこいだな!」


と、現在は弓の手ほどきを受けている。


この二人は、僕がアンジェルお姉さんの集めた大工さんに風呂の作り方の説明をしている間に、教会で祝福を受けて、年齢とスキルが判明したのだ。


カトルは『集中』というあらゆる作業の効率や制度を微妙に上昇させる能力で、


サーラスは、獣人の基本スキルの『身体強化』と、『索敵』という魔物や人を感知する能力であった。


その能力で、ひったくりの制度を上げていたカトルに、下水道の中でもネズミを見つけては、追い込んで倒し、食べて過ごしていたサーラスだが、折角のスキルをもっと良い方に伸ばしてやりたい。


ちなみにナナちゃんは、4歳だと自分で言っていたお利口さんで、祝福は5歳を越えてからの予定である。


現在まで歩けずに丸裸で町の外に捨てられていたのを、食べれる野草を探していたカトルに拾われて約2ヶ月、熱等にうなされ確りと栄養も取れなかったので、まだ体力が戻らずエリーさんがニコニコしながら、


「リリーが子供の時みたい!」


と、楽しげに世話を焼いてくれている。


ついでに騎士団長から聞いたのだが、丸裸で捨てられた子供は、『所有権を手放したので、ご自由に。』みたいな意味らしいが、実際にやる外道はあまり居ないのだとか…

僕もされていたらしいですけど…


ナナが頑張って話してくれた内容だと、父親だけの家で病気と解るや否や、すぐに捨てられたらしく、其を聞いた騎士団長が、


「腐れ外道が!!」


と憤慨していたぐらいである。


しかし、ナナはしっかり者で、


「あんな家に居るより、カトルお兄ちゃんやサーラスお姉ちゃんに会える様に神様が病気にしてくれたんだよ。」


と言って、騎士団長を泣かしていた。


僕も勿論泣いたが、泣き崩れる騎士団長を見て少し冷めてしまった自分もいたのだった。


そんなこんながあり、現在我が家はアルのベッドでカトルが寝起きして、ダント兄さんのベッドでサーラスと、ナナが、寝起きするという配置になっている。


もう少し大きくなったらベッドを追加だな…爺さんのベッドが倉庫にあるが、あれを配置すると我が家は窮屈に成ってしまうのが問題だけど…

あと、カトルとサーラスは僕を「ケン兄ぃ」と呼んでいるが、ナナちゃんだけは、捨てた父親を上書きするかの様に僕を「とーちゃん」と呼びはじめたので、セクシー・マンドラゴラ姉さんではないが、たまに『母乳が出そう』という感覚が理解出来そうな自分がいる…前世の娘がチラつき、少し胸が苦しくなる瞬間もあるが、ナナが立ち直るきっかけになれば構わない。


これから冬に向けての準備に入るので、おじさんチームと狩りを頑張って肉を溜め込まないとな…と思いながら、我が家の食卓では爺さんが生きていた時以来久しぶりに四人分の食器が並び、ぎこちなさも残るが、家族の団欒が始まった。


集落に戻って3日経ち、隣村へ帰還の報告を兼ねて新たな家族を紹介に行った。


ミロおじさんと、レオおじさんがベントさんにサーラスの『仲間』の修理を依頼する為に馬車を出してくれたからだ。


先ずはマチ婆ちゃんから挨拶に回り、新しい家族の三人を紹介したのだが、婆ちゃんは、少し驚いた後に、


「アボットの奴の息子だから仕方ないか…」


と、少し呆れた様に呟き三人に飴玉渡して、頭を一人ずつ撫でていた。


ナナちゃんはあちこち連れ回すのが可哀想だと、マチ婆ちゃんに預かって貰うと、


「とーちゃんいってらっしゃい。

ばーちゃんお話して。」


と、マチ婆ちゃんに可愛いおねだりをしていた。


病気だったとは言え、あんな可愛い子を捨てるなんて… と悔しくなる自分を抑え、


「いってきまぁ~す。」


と明るく手を振り、カトルとサーラスを連れて、いいもの製作所のメンバーに会いに行った。


といっても、ミロおじさんと、レオおじさんが鍛治屋のベントさんにサーラスのナイフの修理を頼むついでである。


ベントさんは、『仲間』と呼ばれるナイフを見て、


「う~ん、コイツ中までヒビが入ってるな…打ち直した方が良いぜ。」


と言った。


僕は、サーラスに、


「仲間は大怪我してるから、打ち直さないとダメみたいなんだ。」


と伝えると、


「うちなおす?ナナ、なおった、仲間、なおらない?」


と悲しそうにすると、カトルが、


「サーラス、打ち直しって、確か、仲間に家族がくっついて強くなるんだよ、俺達みたいに…」


と優しくサーラスに説明すると、ベントさんは、カトルに「おっ、坊主、よく知ってるな鍛治師になるか?」とうちの弟を勧誘していた。


そしてサーラスは少し考えた後、ベントさんに、


「仲間、かぞく、お願い。」


と、頭をさげた。


ベントさんは、


「任せとけ!」


と言って、ジャラリと素材をサーラスの前に並べると、「どいつを仲間の家族にしてやるんだ?」と言ってサーラスに決めさせる。


サーラスは、金属の板を選んで、


「これ、ケンにぃ、これカトル、これナナで家族」


と言ったあと、端に転がっていた割れた金属のかけらを拾い上げ、


「これ、せくしーねえ、これしんでぃ、これチュチュ、一緒。」


と言ってベントさんに渡す。


ベントさんは、


「かなりデカいナイフになるぜ、大丈夫か?」


と、素材を減らす提案をするが、サーラスは、


「家族!」


と言って、フンスっと鼻を鳴らして、『これで』とアピールしたので、ミロおじさんが


「すまねぇ、可愛いサーラスが言ってるんだ一つ頼まれてくれや。」


とお願いし、レオおじさんも、


「少々でかくても、サーラスなら使いこなせるからさ。」


と後押しすると、ベントさんは、


「わかったよ、これ以上ゴネたらミロとレオの分の素材まで加わりそうだ。

そんな事したら大剣になっちまうよ。」


と言ってサーラスに、


「一週間時間をくれるかい?」


と聞くとサーラスは、


「だいじょぶ、友達、ある」


と腰のナタを体をひねり見せていた。


そうこうしていると、鍛治屋の前に止まっている馬車を見つけて、タクトさんとプギーさんもやってきて、


「おっ、帰ったか?」


と、入ってきたのだが、知らない子供を見つけたプギーさんが、


「村の子じゃないね、村の子には一通り竹トンボを作ったからわかるよ。」


と言っていた。


二人にも事情を話すと、


「珍しくない話だが、許せないな…」


と言ってくれた。


その後タクトさんが、


「おい、ケン君、村長に早く会ってやってくれ、小さい村で暴動が起きても知らないぞ。」


と言ってくれて、


「あぁ、そんな約束有りましたね…」


と、戻ったら会議をする約束を思います出した。


ミロおじさん達に、


「僕、村長さんに会ってから弟子の家庭教師をして夕方には戻ります。」


というと、


「カトル達の晩飯は、俺達と焼き肉パーティーするからユックリしてこい!」


とおじさん達は言ってくれ、


「にく、肉っ」


と楽しそうに踊るサーラスを見てカトルも、


「ナナの面倒も任せて。」


と、皆で送り出してくれた。


よし、村長さんと会議…といっても、エリーさんが先にアクションを起こしたから、もう村としての儲け話ではなく、エリー商会の工房職員の住む村の村長としての話し合いになりそうではあるが、まぁ、村長さんも嫌がってたから、まぁ、いいよね。

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