第128話 頼まれたお使い
スタンピードから生き延びたのだが、お祭り騒ぎをする気にもならない原因が目の前にいる…
シェリーさんがクリーンを見つけてすぐにかけてくれたので、よく解らない効果の呪いも奴隷紋も消えて自由になった女性と、男性の二人なのだが、実はもう一人いた男性は、取り押さえて直ぐに苦しみ出して死に、近くにあった馬車には十数名の死体が乗っていたらしいのだ。
生き残った二人に話を聞くと、彼らは子売りのマーカスの事件で取り潰されたショタ大好き変態貴族家の嫁と使用人との話で、使用人の男は馬車の運転手としてあのスタンピードと並走する役目で、元貴族の嫁はあの二足歩行の肉食恐竜のような魔物に魂を飛ばして操る魔道具を使っていた遠隔操作のパイロットだったそうだ。
バリスタで恐竜が殺される前に恐竜が身につけていた腕輪が砕かれてリンクが解除され、嫁は気絶をしていたそうなのだが、他の遠隔操作していた家族や家臣達は魂のリンクが切れないままに恐竜と運命を共にしてしまっていたらしい。
三台の馬車でここまで並走してきたのだけど、次々と死んでゆく主人の家族に恐怖して逃げ出した運転手の一人は、スタンピードから解放され野生に戻った魔物に引き裂かれ、恐怖で動けなかった運転手の二人のうちの一人は、チュチュさんに取り押さえられて、『もうおしまいだ…』と観念した瞬間に、全てを告白しようとすれば死ぬ呪いがかかっていたらしく、前に井戸に毒を撒いた奴らの話をチュチュさん達から聞いていたシェリーさんが、機転を利かしてクリーンを使ってなければ、残りの二人も死んでいただろう。
そして、おまけに、あの異形のデカブツの三体は、刑場で死んだ筈の黒幕の変態貴族と、手下の貴族、それに奴隷商の三人ご本人だったそうだ。
マンモスだった奴隷商のオッサンは、次男坊に活きのいいオッサンや、鉱山の町に付き物の娼館に女性を売り、違法奴隷の男の子は鉄地竜だった男爵がマーカスから受け取り、マンモス経由でライオンという流れだったらしい。
といっても、あの魔物が化けていた訳では無くて、元は普通の変態貴族達だったのだが、あのワシっ子のロリ賢者が魂をリンクさせる魔道具の上位盤である魂を交換していまう魔道具で変態貴族は空飛ぶライオンになり、空飛ぶライオンは変態貴族へと魂を交換して、言葉をしゃべらなくなり、暴れるだけの気が触れた変態貴族として、無実の合成魔物の空飛ぶライオン君は刑場で首を跳ねられて、空飛ぶライオンに生まれ変わった変態貴族は今朝方バリスタにハリネズミにされて処刑されたという何ともややこしい状態なのである。
領地を追われた変態貴族の家の者は、東の獣人の集落を経由して辺境伯領に入らずに次男坊の町シルバに入ったのだが、次男坊に騙され、無理やり実験動物的な恐竜のパイロットにされていたとの話には少し同情するが、ナビス騎士団を罠にはめたのは少年大好きな変態貴族の魂が入った空飛ぶライオンとその嫁であるのは確かなのだ。
もうややこし過ぎて嫌になってくるので、アルに言って念話スキル持ちのパーカーさんを呼んでもらい、事が事だけに辺境伯は勿論、関係者全員に連絡を入れてもらう事にした。
勿論、ナビス伯爵様も、死刑執行をミスしていた国王陛下も例外なく連絡してもらい次男坊の処遇を決めて貰うのだが、もう一組連絡を入れる所があり、シェリーさんと教会に赴いた。
そうである、賢者がバリバリ関わっているので、神々にチクるしか無いのだ。
神官のノートンさんに簡単な説明をすると、慌てて、祝福の家の四人の聖歌隊を呼びに行き、神々に祈りを捧げる準備が始まった。
『歌って必要なのかな?』
と思うのだが、教会の常識としては絶対必要な様で、ノートンさんがやる気に満ちているので任せる事にした。
教会に歌声が流れ出して、ノートンさんの祈りの言葉が唱えられて、神々の像の前で僕とシェリーさんが祈りを捧げると、いつものフワッとした感覚では無くて、ストンと10センチほど落ちた感覚で神々の前に移動した。
昼と太陽の神バーニス様が、
「ノートン君はまだまだだね…58点かな?」
と、祈りの儀式の採点をしながら僕達を迎えてくれて、武の神ジルベスター様が、僕達を見るなり、
「ケン、お主の弟の町の住人はなかなかやりおるなっ!感心したぞ!!」
と、ご機嫌である。
しかし、運と商業の女神エミリーゼ様は大変ご立腹で、
「あの酒…あと数年寝かせれば更に旨くなったのに…おい!ノックスの爺さんがあんな賢者を技術の神に育てるって言い出したからだぞ!!」
と、たぶん大昔のそもそも論をもちだして怒っているし、知識の女神ラミアンヌ様は、地上で賢者がこっそりと作った魔道具の中で回収が出来た恐竜がしていた腕輪と、操縦者の腕輪を指パッチンで再現して、色々と調べながら、
「あらあら、賢者君、ミスリルを銀から生成出来るまでになってるわね…粗悪だけどちゃんとミスリルよコレ…どうします?」
と腕輪を突っつきながら、チラリとノックス様を見ると、ノックス様は、イライラしながら、
「はい、はい、ワシが悪かった!
あやつの、魂とスキルの理に近づく事が出来た技術を買って神々の国に誘ったのも、あやつの涙の演技に騙され地上に下ろしたのもワシだよ!!」
と、いじけている。
すると、バーニス様まで、
「他人の体を奪う転生術や、その副産物であり、魂を交換する技術や、他者の体に己の魂をネジ込み奪う魔道具…あまり誉められた技術では無い…人には契約魔法は許したが、呪いをベースにした制約魔法の技術を教えたり、魂をいじる術を許した覚えはない…もしかしたら厄介な奴が出てくるかも知れんぞ…どうするノックス?」
と、ノックス様を追い込んでいた。
ノックス様は、
「兄上までワシを責めるのか?」
と半泣きで訴えているのだが、時折チラリと僕達の方を見ても、どうとも言ってあげられない…
結局なんだかウーン、ウーンっと唸ったノックス様は、
「解ったよっ!神罰でアソコら辺の生物を全部砂にかえればいいんだろ?!」
とヤケクソな提案をしてしまう。
思わず僕は、
「ちょ、ちょっとノックス様、そんな極端な…アホな次男坊の圧政の中でも懸命に生きてる人もいるんですから…」
と、神様に意見をしてしまってから、『あっ、いけない!』と、思ったのだが、ノックス様はシメシメとばかりに僕に向かい、
「では、ケンちゃんにワシの代役を頼もうかなぁ?」
と、イタズラっ子みたいに笑うのだが、もう既に、面倒臭い香りがプンプンする。
ノックス様は、
「駄目かなぁ…手伝って欲しいのだが…」
と今度は拗ねてみせると、シェリーさんが
「ケンちゃん、何だか可哀想だから手伝ってあげようよぉ。」
と提案すると、ノックス様は、
「優しい良い子じゃのう。もう、加護あげちゃう!」
と言った後に、僕に向かい、
「可愛い奥さんもこう言ってるし…ねっ!」
と、改めてお願いするので仕方なく了承したのだが、何をさせられるのか不安しかない。
『幼女賢者に神様からの伝言を伝える役目』という簡単そうなミッションなのだが、問題なのは正式に神の使徒としてのお仕事となる為に、教会に知らされてしまい大事になるのは仕方ないらしく、今回の事を教会経由で公にして僕が自由に動ける様にする為だと説明されたので納得して帰ってきたのだが、昨晩からのバタバタもあり、一旦自宅に帰りぐっすりと休み、起きたのが夕方だったので、家族皆でご飯をたべながら、
「とーちゃん、明日、中央の広場でお肉の丸焼き祭りするから、アルお兄ちゃんが朝一番で御屋敷裏に獲物を持って来て下さいだって。」
と、ナナちゃんからの伝言を聞きながら、
「解体してから焼くのか?なら、今から届て軽く解体も手伝うかな…」
と呟くと、シェリーさんが、
「じゃあ私も一緒に行くね。」
というので、僕が、
「シェリーさんはゆっくりしてくれて、いいんだよ。」
と言ったのだが、彼女は、
「少し寝たからか、何だか夜なのに元気がみなぎっているのよね…体を動かしたくなったついでに解体を手伝いたいの!」
と、やる気満々である。
一瞬、夜と月の神ノックス様がシェリーさんに言った、
「もう、加護あげちゃう!」
のセリフを思いだして、『まさか、シェリーさんが夜行性の猫耳女性になっちゃったかな?』などと思いながらも、シェリーさんとお散歩がてらにアルの御屋敷に向かい、明日、住民に振る舞われるお肉分を解体したのだが、遺伝子組み換えっぽい異形の魔物は食べて良いのか解らないので、大きな町のギルドか何処かで調べてから解体する事にした。
解体を騎士団の方々と行っていると、アルが、
「ケン兄ぃ、明日一緒に旅に出れる?」
と聞いてくるので、
「どうしたの?」
と聞くと、アルは、
「うん、ココの町に、例の証人の引渡しと…あとケン兄ぃが神様の使徒になったでしょ…なんだか集まれって辺境伯様が…」
と、法事が有るから実家に帰って来なさい…みたいなテンションで、サラリと凄い発表をしてしまった。
ノックス様…動きやすくなる為に、大事になるのは仕方ないと仰ってましたが、『使徒』って、物凄く身動き取りにくくなりませんか?
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