第127話 町を守る人々
バリスタがマンモスを狙い撃ちしている中で、『蝶』の三人は大壁の上から鉄地竜に向かいフォーメーションを取る。
セクシー・マンドラゴラ姉さんが先頭で腰を落として踏ん張り、その後ろからシンディーさんが、セクシー・マンドラゴラ姉さんの胸を揉むかの様に手を添えて、チュチュさんがセクシー・マンドラゴラ姉さんの太ももにしがみつくという、見ていられない状態になるが、アレからどの様に攻撃するのか全く解らない。
チュチュさんが、
「目標、340、330…」
と索敵スキルで敵との距離を報告すると、セクシー・マンドラゴラ姉さんは、胸を鷲掴みにされながら、
「シンディー!もっとよ、もっと強く!!」
と…聞いていられない指示を出しながら何かを高めている。
シンディーさんが、上ずる声で、
「スキルブーストふるぱわぁぁぁぁぁ!」
とセクシー・マンドラゴラ姉さんにしがみつく様に叫ぶと、セクシー・マンドラゴラ姉さんはドスの効いた声で、
「逝けやゴォラァァァァァァ!!!」
と、鉄地竜に向かい叫ぶ。
花火の様に下っ腹に響く声は、鉄地竜に向けて飛ばされ、敵がビクンとその場で跳ね上がると、「ドーン!!」とワンテンポずれた爆発音が聞こえ、ズシンと大地に沈む様に鉄地竜が倒れた。
たぶんだが、姉さんの音魔法をシンディーさんが強くして、効果が最大となる距離で叩き込んだのだろう…セクシー・マンドラゴラ姉さんとシンディーさんは魔力切れなのか、ヘナヘナと腰から砕けながらもサムズアップで笑っていた…サーラスとギースが大壁にやってきて、身体強化で二人を回収してくれたのを確認しながら、大壁からライオン目掛けて僕は移動を開始したのだが、何か凄い物を見せられて一周回って凄く冷静な気持ちになれていた事を少し感謝していた。
ライオンは狡猾なのかビビりなのか解らないが、虫の息のマンモスも、顔の穴という穴から血液混じりの何かしらの汁を流してノビている鉄地竜にも余り興味が無い様にバリスタの射程外の辺りをウロウロしている。
バリスタの矢が品切れになるのでも待っているのだろうか?…だとしたら本当にただの魔物なのかすら怪しいが、そんな事は今はどうでもいい…僕の仕事は魔力タンクと思われる樽の破壊と、可能であれば、あの銀色の羽根の片方だけでも何とか出来ればあとはアルが何とかしてくれるだろう…とアルに期待しながら、足の筋肉一つ一つに気力を纏わせ、空飛ぶライオンに向かいフルスピードで走り出し、魔物の死体を踏み台にして飛び上がりライオンの樽を狙うのだが、首元など易々と攻撃を受ける筈もなく、空振りのまま地面へと堕ちてしまう。
今回は足をビリビリさせている場合では無いので、ジャンプの時よりも注意を払い、着地して再び走り出す。
すると、次の瞬間に、一秒前に立っていた場所にライオンの爪から放たれた斬撃が撃ち込まれ、
「危ねぇぇぇぇぇ!」
と肝を冷やしながら逃げ回りつつ、バリスタの射程内へとライオンを引き込む作戦に出た。
現在、鉄地竜の方角から「ゴツン、ゴツン」と鈍い音が響いているのでバリスタパンチでタコ殴りされているのだろう。
「僕も自分の仕事を頑張るか…何でも屋は逃げ出した犬や猫を何とかするのも仕事のうちだからね!」
と、アレも一応、猫の親戚だと自分に言い聞かせて再び空中に舞い上がると、今まで右前足のみで斬撃を飛ばしていたライオンがここに来て左前足を振り抜き斬撃を飛ばそうとした時に、町の方がキラリと光りライオンの瞳に西の方角から朝日が差し込み狙いがそれて、不意打ちの左前足の軌道が僕の横をかすめる。
腕や頬を切り裂かれたが、命に関わるものでは無い…痛みを感じるのを一旦先送りにした僕は、ここが踏ん張りどころと、聖水に魔力を纏わせ、まだ魔力に馴染んでないがここまで近寄れば何とかなると確信して、こちらも斬撃を飛ばして樽を切り裂くと、ついでにタテガミを切り裂き奴の首を肉を切りつけた斬撃は軽い血飛沫と共にボロボロと魔石がこぼれ落ちた。
地面に落てゆく首輪状の魔力タンクを失ったライオンは、斬撃を飛ばせなくなったのだが、普通に爪で切り裂く事が出来る事を失念していた僕は、『やった!』と思った瞬間に手痛い一撃を食らってしまったのだった。
空中で回避が出来ない状態で、奴は僕の上半身と下半身を真っ二つにしようと腕を振り抜いたらしい…僕は、一瞬死を覚悟したのだが何故かはね飛ばされた様に焼けた林の中に墜落したのだった。
一瞬気を失っていたらしいが、全身に痛みが走り目が覚める。
熱く焼けた大地で体を起こして、現状を確認すると、僕にトドメ刺そうとしたライオンに向かいバリスタがの矢が頭の上を飛んで行き、とりあえずマジックバッグから虎の子のエクストラポーションを取り出して飲み干しながら、『なぜ、攻撃されてこれぐらいで済んだのか?』を考える。
フッと爪が直撃した筈のマジックバッグに目をやると、傷1つついていない…
「流石、異世界の神様の作品だな…壊れないし汚れない機能って…こんなの最強の盾じゃないか…」
と、神様クオリティの鞄に驚きながらも、墜落の衝撃で食らった骨折等も治ったのか、痛みがスッと引いていくのだが、違和感に気がつく…右足が途中から無いのである。
「持っていかれたか…」
とガッカリしながら呟く僕に、シェリーさんが
「ケンちゃん!!」
泣きながら駆け寄り、僕を抱き締めた後で、
「死んだかと思ったんだから!」
と少し叱られてしまったのだが、なぜか嬉しかった…こんなに心配してくれる女性がいる幸せを感じながら、愛する女性にお姫様抱っこをされて帰還するという、少し恥ずかしい終わり方になってしまったのだが、無事にライオンもバリスタでハリネズミにされ、スタンピードは大木の魔物の倒れ込みの巻き添えになった数名の軽傷者以外は僕がボロ雑巾にされただけで耐え抜く事が出来た。
シェリーさんにお姫様抱っこされたままコステロ地区に入ると子供達が鏡を持ちながら出迎えてくれて、
「ケン兄ちゃん、お日様のピカピカでエリマキ猫の邪魔してやったんだよ。」
と誇らし気に語る。
『エリマキ猫って…あれはタテガミライオンだよ。』と思いつつも、一撃目は祝福の家の子供達に助けられた事を知り、子供達の頭を撫でながら、
「ありがとうね、皆のおかげで助かったよ。」
と言っているのだが、シェリーさんはお姫様抱っこを止めてくれない…少し晒し者感があり、シェリーさんに、
「アルの所に行ってこれからの事を話そうか。」
と、シェリーさんに移動を促す。
アルの指揮する大壁の上に戻り、シェリーさんに、
「流石に抱っこは…」
と懇願して下ろしてもらっていると、アルが僕を見つけて飛び付いてきた。
「ケン兄ぃ!無茶して…死んだかと思ったじゃないか!!」
と泣かれてしまい、凄く申し訳ない気持ちになったのだが、次の瞬間にブラウン騎士団長さんが駆け寄ってきて、
「ご命令通りお持ちしました。」
と言ったその勢いのままアルに、
「はい、飲んで!」
と、小瓶を口に突っ込まれた。
ガチッっと前歯をこじ開ける様に差し込まれた小瓶から出てきた液体を飲み干すと、無くなった筈の右足が装備も何も無い状態でニョキっと生えてきた。
アルに、
「前歯が折れちゃうよ…」
と僕が不満を漏らすと、アルは、
「前歯もフルポーションで治るだろ…お疲れ様ケン兄ぃ…」
と改めて抱きついてきた。
僕は、
「良かったのかい?大事なフルポーションを使って…」
とアルに聞くと、アルは笑いながら、
「卵鳥農家のヒョードルさんに使ったケン兄ぃのセリフとは思えないよ…あったから使うし、無かったら作ってでも使うよ。」
と言ったあとでアルは、
「では、ケン兄ぃ、足も生えたから、壁の下の獲物を集めに行くよ。魔石も手に入るしウハウハだね。」
と言って魔物の回収に向かったのだった。
チュチュさんと、サーラスが索敵をしながら散り散りになった魔物が帰って来ないかをチェックしつつマジックバッグに手当たり次第に詰め込んで行く。
少し困ったのはカトルが、
「ケン兄ぃ…どうしよう…コレ?」
と、僕の切り落とされた足を見つけて持って来たのだが、そんな事を僕に聞かれても、こっちまで困ってしまう。
とりあえず、マジックバッグにしまって、後でアボット爺さんの近くに埋めて石でも乗せておくかな?と、思っているとチュチュさんが、
「東の方角に馬と人間の反応が有るわ!」
と報告してくれ、騎士団と共にそちらに向かって行ったのだが、彼らが帰って来たときに、改めて頭が痛くなる事になったのだった。
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