第109話 王都でのおつかい
ココの町で数日過ごし、フルポーションが仕上がりしだい王都に向けて出発した。
老師から地竜狩りの分け前と、ウチの地竜の肉はポルト辺境伯様が少し色を付けて買い取ってくれたので、懐は暖かくなり、冒険者ランクがBにランクアップし目標は達成したのだが、王都にいる辺境伯家の長男さんのライアス様に会ってから、エリーさんのパパのナビス伯爵様にフルポーションを届けるついでに、エリーさん一家の話をするという依頼を受けてしまったのだ…正直知らない土地で知らない人に会いに行くなんて楽しくも何とも無い…しかし、シェリーさんは知り合いがいるらしく王都に行くのを楽しみにしているので、僕は、解体後に売らずに取っておいた地竜の皮や鱗などで何を作ってもらうか考えながら北へと続く街道をギンカの引く幌馬車で進んでいる。
ココの町の鍛治師ギルドの魔物素材の店で、いいもの製作所に装備の製作を依頼する為の良さそうな素材を探していると、素材屋の店長さんが話しかけてくれたので、地竜の素材と相性の良い素材を聞くと、
「量が少ない上に高価だが、メタルワイバーンの羽根や鱗を鋳造したワイバーンメタルに地竜の牙を混ぜて鍛えた武器は魔力を纏わせる事が出来る特別な装備になるよ。」
と教えてくれた。
ちなみにだが、この世界はミスリルというファンタジー素材がある事はあるが、滅んだ魔法文明の技術でしか採掘や精錬が出来ないので国宝級のアイテムが各地に残っている程度なのだとか…ゲームで見るアダマンタイトやオリハルコンなども無いが、その代わり鉄分を含んだ魔物の素材から作ったメタルインゴットで、武器などを作ると、そのインゴットと混ぜ合わせる素材の組み合わせで追加性能が付いた物が出来上がる。
本当ならばとっとと村に帰りクランを立ち上げたり、カレーの試作に取り掛かりたいのだが、お仕事なので仕方ない…せめて珍しい素材が集まる王都でレアな魔物メタルを購入して、凄い武器を作るかな?と考えながら、日差しの照り返す夏の道を進む事二週間、かなり頑張って進んだのでギンカがこの旅でふっくらボディーからバッキバキの仕上がったボディーに変わったころ、王都に到着した。
王都の門をくぐり、おのぼりさん状態の僕と違いシェリーさんは王都の武術大会に参加した時に数ヶ月寝泊まりしていたそうで、道案内をしてくれるのだが、流石に貴族街には出入りしたことはない様で、何とかたどり着いた貴族街の入り口の衛兵さんに
「ポルト辺境伯様のお屋敷に行きたいのですが」
と言って、辺境伯様から預かった書類を見せて道案内をしてもらいお屋敷に到着した。
はじめてニック様のお兄ちゃんであるライアス様にごあいさつをしたのだが、感想はアゴヒゲの生えたニック様って感じだったが、隣に立つ奥様とお嬢様はビックリする程の美人さんだった。
『こりゃあ、次男坊がこだわるだけは有るな…』
と思っていると何故かシェリーさんにツネられてしまった…引くほど痛かったので身体強化を使ったのかも知れないが、挨拶の途中でリアクションをしては失礼にあたるので我慢したのだが、露骨にシェリーさんのご機嫌が悪く成ってしまった。
ライアス様からは、
「母上達の仲を取り持ってくれて感謝する…」
と、丁寧なお礼をしていただいて、合わせて、
「我々の兄弟のイザコザに巻き込み、申し訳ない…弟のボーラスがニックの出世に嫉妬して町に毒を撒いたと聞く…愚かな事だ…」
と寂しそうに語った。
しかし、次男坊はかなりヤバい奴で、ライアス様一家が、王都に籠り最近は辺境伯領のパーティーにすら帰って来ないのは、数年前の辺境伯家のパーティーで兄弟が揃った時に、次男坊が、
「兄上の娘は兄上に似ずに、あの女に似て顔だけは美しい…変な悪知恵がついてあの女の様になる前に俺がもらってやろうか?」
と言っていたのを聞いた奥様が、長年次男坊の事を色々と辛抱して来たが、娘にまで手を出そうとしている事を知り、王都から少しでも次男坊に近づく事を拒否したためらしい。
『次男坊終わってんな…』
と呆れていると、ライアス様は、
「今回のドットの町で起きた襲撃の件で、カトリーヌ母上から長い手紙が届いたのだよ…
『腹を痛めた子供可愛さに、はじめの時に厳しい躾をしなかった私の罪です…』
と、所々涙で滲んだ手紙を呼んで私も逃げてばかりではイケないと思い直したんだ。」
と言って、現在はライアス様が中央貴族の中での味方を集めているのだと話してくれた。
今回の件も辺境伯様は純粋にナビス伯爵様を助けたい気持ちもあるだろうが、将来ライアス様の味方に成ってくれたら…と考えての援助だと思う。
ライアス様ご一家との挨拶も終わり、いよいよ今回のメインであるナビス伯爵様の王都の屋敷に向かった。
普段であればナビス伯爵様は、自分の領地で過ごしているらしいが、エリーさんの弟にあたる跡取り息子がライアス様のように王都での留守を預かっていたのだが病に倒れ、腕利きの治癒師が居る王都で現在は過ごしているらしい。
そして、到着したお屋敷は、さながら病院の様な状態で、手足が無い騎士や目を潰された騎士がメイドさんの介助で何とか生活していた。
その中で挨拶してくれたナビス伯爵様は、心労からか、印象としては、顔色の悪いお爺ちゃんとしか言えない姿で貴族としてのオーラは全く感じられず。
「辺境伯領からワザワザすまない…」
と言って涙を流すお爺ちゃんに、辺境伯様からの手紙を渡してから、
「早速フルポーションを状態の厳しい方から飲ませて下さい。
全部で五本あります…この状態を知っていたら無理してでも、もっと地竜を倒したのですが…」
と伝えると、騎士の方々が、
「騎士団長から飲ませて下さい!
俺たちを庇い、両腕と片足と片眼を失い…俺達があの未知の魔物に突っ込んで行かなければ…」
と懇願するので、騎士団長と呼ばれる人に近づくと、
「若い奴から頼む…」
と力無く訴える男性に、今まで静かにしていたシェリーさんが、
「団長さん、地竜って、狩れる自信がある?」
と聞くと、男性は、
「手足が有れば…」
と言うのを聞いたシェリーさんは、僕に手のひらを見せて、フルポーションをよこせと言わんばかりにクイックイっと手を動かすので、マジックバッグからフルポーション取り出して渡すと、シェリーさんは瓶の蓋を開けて、騎士団長さんの口に乱暴にネジ込みながら、
「ウダウダ言わずに飲んで、来年の夏、地竜のシーズンに人数分のフルポーションを作れる様にするのよ。」
と喝をいれた。
その後もシェリーさんは、
「さぁ決めなさい、あと四人、命の危険が有る者からでも何でも構わないけど、このフルポーションを飲んだ者は残りの仲間の一年間の不自由な生活の代わりに自由になる体を取り戻せます。
絶対に来年の夏にフルポーションを作る素材を手に入れてやる!!
という心を構えで頑張って下さい。」
というと、ナビス伯爵様の前にフルポーションを出すように僕に目で合図を出す。
そして、並んだ4つの瓶を前にしたナビス伯爵様に僕が、
「今回のフルポーションの代金は、ポルト辺境伯様とエリー商会…そう、エリザベート会長から支払われました。
来年の夏にドットの町の西の奥地にいる地竜とマンドラゴラを手に入れれば、人数分のフルポーションも夢ではありません。」
と告げると、騎士団員の数名から、
「えっ、お嬢様?」
等との声があがる。
それからは、あれほど暗く沈んでいた屋敷の中で、騎士団員達の活気のある会議が始まり、ナビス伯爵様は、騎士団員達の体では無く、心が息を吹き替えした事に、また涙をしながら、僕達…まぁ、特にシェリーさんに感謝していた。
そして、
「体を起こす事も儘ならなくなった息子に、せめて姉の話をしていただけませんか?」
と言われたので、エリーさんの弟さんの部屋に御見舞いに行く事にした。
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