第108話 知らないけど知ってる
地竜討伐から約二週間かけてココの町到着し、冒険者ギルドで手続きをしてから今回の依頼主である創薬ギルドに向かい、地竜の血の納入を行うのだが、これが大仕事だった。
創薬ギルドの職員総出で、地竜に鋼の杭の様な針を打ち込みトクトクと流れ出る血を集めて何かしらの加工を錬金ギルドの倉庫の様な場所で始めた。
時間がかかるみたいだが、地竜は血抜きが終われば再び冒険者ギルドに運び解体依頼をする必要があるので、忙しなく作業する創薬ギルド職員さんを眺めながら血抜きの終了を待つしか無かった。
すると、ココの町の錬金ギルドマスターというウサギ耳の男性が現れ、
「いゃ~、急ぎの依頼だったので助かりました。」
と、暑さ凌ぎに創薬ギルド前のドリンクスタンドのサイダーを僕達に出してくれた。
夏の日差しの中で少し独特な香りのサイダーを飲みながら錬金ギルドマスターと話していると、今回の依頼は何処かの貴族が息子の病を治す為に騎士団を出して、どんな病にも効くと言われる果実を取りに行ったらしいが、ほぼ壊滅状態で帰ってきた騎士団の主要メンバーが手足を失くしたそうで、一本でも多くのフルポーションを求めているとのことだった。
その貴族さんは息子の病気も治らず、騎士団も総崩れだが、全財産をはたいてでも、騎士団員を助けようとしている話を聞いた僕は、シェリーさんと相談した結果、
「もう一匹地竜持ってますし、マンドラゴラも30程保管してますので、それでその貴族さんにフルポーションを作ってくれますか?
出来れば原材料費が掛からなかった分お安くしてあげてくれると嬉しいです。」
と伝えると、錬金ギルドマスターは、
「ちょっと創薬の責任者に聞いてくるよ。」
と言って走って行った。
ちなみにウサギ耳のマスターは魔道具が専門らしく、今の作業もよく解らないのだそうだ…そして、暫くして、戻ってきたギルドマスターは、
「可能ですが、今日を入れて3日程お時間を頂きたいそうです。」
と言っていたので、シェリーさんと相談の上、『領都まで来たのだからユックリしよう。』となり、数日滞在する事が決定した。
確かに、一匹の地竜の血抜きで数時間かかり、そこから加工して錬金素材をつくるらしく、ほぼ一日仕事だし、それがもう一匹に、マンドラゴラの加工まで…3日はかかるか…と考えていると、一匹目の血抜きが終了し、明日の朝もう一匹を届ける約束をして、血抜きの終了した地竜を持って老師達と冒険者ギルドに向かい解体の依頼済ませると、解体に丸々2日かかるらしい。
まぁ結局、精算まで町に居ないとお金もギルドポイントも入らないので、どの道、滞在する事が決定したから前回と同じ宿を取り、一旦銀の拳のメンバーと別れて、面倒臭い手続きの為に城に向かい、門兵さんに、
「どうも、ポルト辺境伯様に、セント村のケンが数日、町に滞在しますとだけお伝え下さい。」
と伝言を頼んで帰ろうとすると、何故か城の中までドナドナされて、現在、辺境伯様と二人の奥様の座る広いテーブルのある部屋で午後のティータイムに強制参加させられている。
お菓子巡りの企画が好調で旅人が各町で増加している報告を
『そんなのはアルに言ってあげてよ…』
と思いながら聞き、奥様方かワクワクしながら僕とシェリーさんの新婚生活を聞いてきて、貴族のお茶会などはじめてのシェリーさんが興奮してしまい、洗いざらい夫婦生活を報告するという辱しめを受け、
「いいわねぇ~若いって…」
などと冷やかされるという苦行を乗り越えた後に、辺境伯様から、
「もしやと思うがケン殿は地竜狩りに関わっておらんか?」
と聞かれたので、
「シェリーさんのお師匠さん達の冒険者パーティーの助っ人として参加しましたが?」
と答えると辺境伯様は、
「冒険者ギルドから討伐パーティーが帰還した報告があり、その後で、錬金ギルドより、冒険者からの申し出で追加でフルポーションが手に入る上に、貴重な素材を無償で提供してくれるらしいとの報告が入った数時間後に2人の到着を聞いて、まさかと思っておったが…」
と言って色々な事を話してくれた。
今回の地竜討伐依頼を頼んだ『さる貴族』とはポルト辺境伯様の第一夫人サフィア様の親戚筋の伯爵家で、中央の貴族の中でもそれなりに力のある家だったのだが、跡取り息子は一年ほど前から治癒師も匙を投げる原因不明の病にかかり、その病気を治せるという『治癒の果実』という怪しげな噂に飛び付き騎士団を派遣したのだが、多くの有能な騎士達を失い、生き残った者も手足を失ったらしく一人でも多くの騎士を回復させる為に全てを売り払う決意をしたらしいのだ。
何とか力になりたいと、ポルト辺境伯様がこの時期に辺境伯領内に移動する地竜の討伐依頼を出して、フルポーションの生成を錬金ギルドに指示していたらしく、背後の関係を知らない筈の僕からの支援の提案と知った辺境伯様は、驚きながらも、
「やはり、神に選ばれる人間は損得ではなく慈愛の精神で動くのだな…」
と感心された。
困っていそうだし、たまたま持っていたので放出しただけだが、なんとも世間は狭い…と思っていると、サフィア様が、
「伯父様は本当に運が無いのですよ…
奥様を早くに亡くし、長女は平民と駆け落ちして、長男は原因不明の病に…治癒の実などという噂に踊らされて騎士団は壊滅状態で、治療の為のフルポーションを購入する為に先祖から受け継いだ宝物も手放すと…」
と寂しく語るのだが、僕は、聞き捨てならないフレーズに頭を悩ませていた。
『王国に伯爵様って何人いるんだろう…その内に平民と駆け落ちした令嬢は何人?
あぁ、気付きたく無かったけど一人知ってるなぁ~、狩人に恋をして集落に駆け落ちしてきた方を…
ある意味、兄の奥さんの実家だし…』
などと考えながらも、僕は、
「あの~、質問ですがその駆け落ちした令嬢のお名前は?」
と聞くと、サフィア様は、
「えっ?確かエリザベートですわ…パーティーで数回見た程度ですが、伯父様が溺愛していて何かにつけてエリーと…」
と言っているのを聞いて、
『ビンゴやないかい!…』
と、思いながらも同時に、
『何とか話題を変えなければ!』
と僕が焦っていると、シェリーさんが、
「貴族のお嬢様が大恋愛の末に駆け落ちって、ご近所のリントさん家のエリーさんみたいな話しだね。」
とバラしてしまったのだ。
僕が思わず、
「シェリーさん?!」
と遮ったのだが、時既に遅しで、質問責めにあってしまったのだが、話をすり合わせるとバッチリ100%、エリーさん = エリザベート伯爵令嬢であると確定してしまい、辺境伯様は即効で通信部隊の念話網でドットの町のニック様に確認の連絡を入れると、別荘の念話使いの配下に確認させるまでも無く、
「いゃ~、バレました?」
と、ニック様…というか、奥様のエリステラ様や娘のミリアローゼお嬢様まで知っていたらしく、石鹸の時にアンジェルお姉さんから全てを聞いていて、ニック様は母方の親戚筋のエリーさんに援助する事を僕への褒美という名目で、こっそりと行いウチの集落の整備とエリー商会の立ち上げに、いっちょ噛みして連れ戻されなくても立派に生活していると伯爵家を突っぱねる事が出来る様にしていたと告白したのだった。
その後で、エリーさんの実家の一大事を伝えると、ドットの町まではその話が届いて無かったらしく、すぐにエリーさんに連絡を入れるらしい。
ニック様との念話での通信を終えたポルト辺境伯様は、渋い顔で、
「う~ん、王都のライアスにどう報告したものか…
エリザベート嬢とやらを私は知らないし…近況をナビス伯爵に聞かれても…」
と頭を痛めていたので、なんか厄介な事を頼まれる前に帰りたいな…と思っていたら案の定、
「ケン殿、フルポーションを王都にいるナビス伯爵まで届てくれぬか?」
と、お使いクエストを何でも屋ケンちゃんとして依頼されてしまった。
多分、業務内容には、娘の話を伝える業務も入っていると思われるが、シェリーさんが王都と聞いて行きたがったので、
『まぁ、一生に一度ぐらいは、この王国の都に行ってみるか?!』
と決めて、辺境伯様に
「アルや家の者に、遅くなると連絡はお願いしますよ。」
と頼むと、辺境伯様は笑いながら、
「まかせろ、『蝶』が家事でも諜報でも全部こなしてくれるから安心して旅に出るといい。」
と言ってくれたが、八割程の安心と、得体の知れない二割程度の不安がつきまとってしまう言葉を聞きながら、政略結婚とかで親類だらけな狭い貴族世界を少し恨んだ。
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