第107話 地竜退治と反省会

ベースキャンプに馬車の見張りとして姉弟子2名を残して、岩場を巡り、狩りやすいエリアを縄張りにしている地竜を探していると、山からの新鮮な水が涌き出る泉の近くに2tトラック程の大きさの地竜が、等間隔を保ちのんびりと暮らしているエリアに到着した。


今回の狩りは、フルポーションの材料としての新鮮な地竜の血液の納入なので、流血させるのは勿論、毒を使う事も駄目というかなりの縛りの中で、地竜を倒さなければならない…空を飛ぶ本家のドラゴンさんの血液ならば少々古くても、洗面器一杯も有ればフルポーションが一本できるらしいが、地竜は丸々一匹で一本~二本分の薬効成分しか取れないのだとか…だから、一滴の血も無駄に出来ない上に不純物も混ぜてはイケないらしい。


そこで、撲殺と老師の水魔法で溺れさせる予定だったので、泉の近くを縄張りにしてくれているのは好都合である。


老師が、


「地竜は縄張り意識が強いので仲間が襲われていても自分の縄張りに近づかない限りは襲って来ないからできるだけ広がらずに泉の手前の個体を狙ってイッキに仕留めるぞ。

なに、ケン殿も水操作が出来ると踏んで誘ったのだが、シェリーまで水操作が出来る様になっていたので三人がかりで溺れさせるからあっという間じゃろう。」


と言って皆に指示を出し、


「では!」


という老師の合図で、兄弟子四人が散らばり、僕とシェリーさんは老師に続いて地竜の横をすり抜けて泉を目指す。


僕はステータス補正とシェリーさんは身体強化で地竜を迂回する様に泉を目指したのだが、老師は兄弟子に取り囲まれイライラしている地竜の足元を流れゆく水の様にスルりと走り抜けていた。


『達人とは凄いな…』


と感心しながら泉に到着して水に魔力を流していると、少し遅れて到着した老師は、


「年には勝てんな…」


とボヤきながら泉の水を支配下に置く作業に入った。


すると老師はあっという間に水を空中に持ち上げて、


「先に行くぞい。」


と、行ってしまった。


流石は長年水魔法を使っている老師の手際には勝てなかったが、ステータス補正で魔力も強い僕は、老師より大きな水の玉を空中に浮かせて、戦場へと向かうと、兄弟子達が地竜の気を引いている隙に老師が、3つの触手の様に変化させた水を地竜の両鼻と口に押し込んでいた。


老師は、悔しそうに、


「しもうた、半分程飲み込まれた…ケン殿、泉に戻るから暫く頼む。」


と言って、バトンタッチされた僕は、空中に浮かべた水を一匹の蛇の様に変えると、兄弟子さん達が、


「おっ、師匠より雑だが、ひとまわりデカいな!

頼むぜケンちゃん!!」


と、シェリーさんがケンちゃんと呼ぶので兄弟子さん達も最近僕をケンちゃんと呼んでいる。


そんな軽口を話せる程に地竜を前にしても余裕の兄弟子達を心強く感じ、


「アニさん方、行きます!」


と、言って水蛇を地竜の鼻に滑り込ませる。


「ゴボリ」と音が聞こえ動きが鈍る地竜だがまだ尻尾を振り回し、兄弟子達を噛み殺そうと暴れていると、遠くから、


「ケンちゃ~ん、ど、どうしよう?!」


と言いながらフヨフヨと危うい感じで球体の形も維持できないシェリーさんが戦場に現れたのだが、遠近感がおかしく感じるのは、僕の持ってきた水よりも遥かにデッカい水をシェリーさんが支配下に置いているからだった。


シェリーさんの横で老師が、


「お、おっ、落ち着けシェリー、集中じゃ!」


と、シェリーさん以上に慌てながらアドバイスをしつつ、こちらに向かってきている。


『いや、老師が先ず落ち着けよ…』


と思いながらも、無尽蔵の魔力を魔石から取り出せるシェリーさんは手袋に任せてバカみたいに水を操作するからだよ…と呆れてしまった。


老師もシェリーさんの水に魔力を纏わせはじめ、


「シェリー、球体じゃ!集中して球体をイメージしてゆっくり動くのじゃよ。

ケン殿も頼む、この量はワシ一人では!!」


と僕に助っ人を求めたので2人の元に駆けつけて、三人がかりで水を操作しようと試みる。


普通は何度も練習しないと出来ないらしいが、老師の指示が的確だったので何とか水を球体に保てたのを確認した老師は、


「よし、水が落ち着いたぞい。

よいか、シェリーこの水の主導権はシェリーが持っておる…ヤツに水をねじ込むイメージはしなくて良いからこの水を頭に纏わせて圧力を掛けて水の玉が小さくなるイメージをしろ。

ケン殿はワシとサポートを頼む。」


と指示を出して少し弱り、動きの鈍った地竜に向かう。


兄弟子さん達も、地竜の攻撃をかわしながら、


「シェリー、お前何だよその馬鹿デカいのは…」


と呆れる程の水の玉はトプンと地竜の上半身を飲み込むと、苦しさに暴れる地竜に合わせてシェリーさんがアワアワしながら水の玉を操作する事、十数分…やっと地竜が静かに成った途端にシェリーさんの水がバシャリと崩れた。


シェリーさんが、


「ケンちゃん、魔石無くなっちゃったみたい…」


と残念そうに話しているが、上出来である。


サポートだけでこっちは魔力をかなり使い、マジックバッグに地竜をしまったついでにマジックポーションを二本とりだして、老師に一本差し出しながら、


「ギリギリでしたね…」


と僕がいうと老師は、苦笑いしながら


「気を抜いたら寝てしまいそうだわい…魔力切れ間近だな…」


と言ってマジックポーションを飲み始めた時に、兄弟子の一人が、


「師匠!ヤバい、あいつツガイの地竜だった!!」


との声に振り向くと、食事の為に外出でもしていたのか帰宅した一匹が、縄張りに入った僕らを排除しようと怒りの表情でドッシン、ドッシンと走り込んでくるのが見えた。


マジックポーションは飲んだが、老師はまだ魔力が戻っていない様で、このまま戦うのは危険だし、兄弟子達は避け続けただけとはいえ30分近く戦った後で疲労している…


皆を逃がす為に戦えるのはシェリーさんと、やや魔力不足で気だるい僕だけだったので、


「アニさん達は師匠を連れて縄張りにから離れて下さい、僕とシェリーさんで足止めします。」


と言ってシェリーさんと地竜に向かうのだが、シェリーさんが撲殺天使を握りしめ、身体強化で飛び上がり、地竜のコメカミに一撃叩き込むと、地竜はグラリとヨロケてダメージが入った事を物語っている。


この一撃で僕もシェリーさんも、


『あれ?これ倒せるかも!』


となり、僕は、


「シェリーさん、気力を吸い取るから、撹乱ヨロシク」


と言って、地竜に接近して気力を吸い出しはじめる。


連続は無理でも小まめに触りながらたまに新たな相棒の器用貧乏という名前の片手剣で斬りつけてみるが、鱗を剥がすのがやっとだった。


これは駄目だと、ニチャ棍Gに持ち替えていると、その隙をつかれたのか、シェリーさんが地竜の尻尾の一撃を食らいぶっ飛ばされてしまった。


木にぶつかり止まったシェリーさんに、


「シェリーさん!!」


と呼び掛けると、軽く手を振り答えるシェリーさんだが、声が出せない程のダメージを受けたのだろう。


ダメージを受けたシェリーさんに狙いを絞った地竜が、ノッシノッシとウチの可愛い嫁に近寄る。


僕は気力の吸収を諦めて、愛する奥さんを虐めようとする地竜の背中を身体強化マックスで駆け上がり、フルスピード & フルパワー の渾身の一撃をヤツの首筋辺りに打ち込んだ。


怒りの一撃は地竜の首をへし折ったのだが、同時に僕のフルパワーに耐えられなかったのか、ニチャ棍Gは芯の金属部分を残して粉砕してしまった…しかし、今はそれを気にしている場合ではない!

僕は、シェリーさんに駆け寄りザイッチの町で購入した骨折も治せるエクストラポーションをシェリーさんに飲ませ、暫くシェリーさんを見つめていると、シェリーさんは、


「ケンちゃん、ありがとう…チューしてあげたいけど師匠達が滅茶苦茶見てるから後でね…」


と言いながら立ち上がるので、僕は、ゆっくり後ろを振り向くと、マジックポーションが効いて魔力が少し戻った老師が、地竜の脳ミソを干物にしたらしく、乾いた地竜の頭に乗っかり、老師や兄弟子達がこちらを覗き込んでいた。


老師は、


「なんじゃ、生きてる喜びを分かち合って、ブチューっといかんのか?」


と僕らを茶化した後で、


「もう、眠むたいから帰るぞい…」


と行ってベースキャンプに戻った。


その夜、魔力切れ間近で休んでいた老師が夜更けに目覚めたらしく、焚き火の側で見張りをしていた僕の元にやって来て、


「シェリーを守ってくれてありがとう。

あやつは初めの一撃で変に自信をつけて、注意が疎かに成っておった…ワシの教育が足りなかった証拠じゃな…」


と、残念そうに語る。


僕は、


「いえ、僕もイケると思って武器の持ち替える時に気を抜いて、目を離してしまいました…」


と、老師に白状すると、老師は、


「いや、ワシなんぞ魔力不足でフラフラじゃった。

ケン殿のくれたマジックポーションが無ければ首を折られてなお二人に迫る地竜を倒せなんだよ。

美味しい所を横取りしたみたいで悪いのぉ…二匹目の地竜はケン殿が自由にして欲しい、壊れた武器の代わりに地竜の素材で装備を整えると良い。」


と言ったあと、老師は、


「さぁ、小便でもして、もう一度寝るかの…」


と言って去って行った。


その後兄弟子さんが見張りを交代してくれて、幌馬車に戻ると、シェリーさんが起きて待っていた様で、少しイチャイチャしながら今日の反省会をしてから眠りについた。

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