第110話 御見舞いしよう
エリーさんの弟であるリチャードさんが休む部屋へと僕とシェリーさんは案内されたのだが、ベッドにいる男性は、エリーさんの弟なので、最高でも三十代半ばの筈だが、痩せこけて疲れ果て、ベッドサイドにいるナビス伯爵様と同じぐらいに感じた。
「おや?お客さんかい…」
と力無く呟き、体を起こそうとするリチャードさんに、僕は、
「どうかそのままで。」
と、お願いすると、リチャードさんは、
「では、失礼するよ…はて?…君たちは…」
と僕とシェリーさんに問いかけるリチャードさんに、エリーさんのご近所に住んでいる者であることを告げると、涙を流して姉の無事を喜び、ナビス伯爵様と一緒にエリーさんの生活の話を楽しそうに聞いていた。
僕の兄とエリーさんの娘のリリー姉さんが結婚して、リンちゃんという女の子が産まれた話をすると、リチャードさんが、
「ハハッ、姪っ子や甥っ子が居るとは思っていたが…」
と楽しそうに小さく笑い、ナビス伯爵様は、
「孫どころか、ひ孫だぞ…リチャードよ、早く元気になって一緒に見に行くぞ!」
と泣きそうな顔でリチャードさんに笑いかけると、リチャードさんは少し諦めた表情で、
「会いたいなぁ…」
と言ったのを聞いた僕は、
「すぐでは無くても会いに来て下さい。
それにはまずは、栄養をつけて元気になって下さい。」
というと、リチャードさんは少し寂しそうに、
「あまり食欲もなく、食べてもすぐにもどしてしまうので…」
と答えるので僕は、マジックバッグから御見舞いとして持ってきたココの町のお菓子であるプリンを取り出して、
「これならば、冷たくてツルンとしているので召し上がれるかと思いますよ。」
というと、リチャードさんはゆっくりと体を起こしてくれたので、プリンをリチャードさんの手を取り手のひらの上にソッとのせながら、僕は、
『ガンみたいな内部からの病気に効くか解らないが、外部からの要因の病気であればあるいは… 頼む!何とかなれ!!』
と願いつつクリーンをかけてみた。
リチャードさんに見た目の変化は無かったが、
「冷たいな…少し食べてみたい…こんな気分は久しぶりだ…」
と言ったので、何かしらの変化が有ったと思う。
その後、プリンを2つ平らげたリチャードさんに、
「食欲が出たのか?…リチャードよ…」
と、涙を流して喜ぶナビス伯爵様に、エリー商会のメイン商品であるマダム・マチルダシリーズの石鹸を渡して、二人にエリーさん達の話を続けた。
シェリーさんも最近のエリーさんとの話を二人に話し、旦那さんリントさんが家の女性陣が増えて家での肩身が狭い話をすると、二人は
「昔からお転婆だったからな…気の毒な…」
と、駆け落ちしたリントさんに怒りなど無く、
「多分、娘が無理を言ったのだろう…」
と、ナビス伯爵様が同情していた。
それからはリントさんの話もまじえて話をしているとあっという間に数時間経ち、リチャードさんは、
「不思議だ…こんなに起きていたのに…目眩も吐き気も無い…」
と言ったので、僕は、
『よし、クリーンが効いてくれた。』
と確信し、
「プリンで体が元気になって、エリーさんの無事を聞いて心が元気になったのでしょう。
少しずつ栄養をとって、焦らないで構いませんから体調を戻して、是非一度ウチの村に遊びに来て下さい。」
と伝えて御見舞いを終了した。
ライアス様のご好意で、貴族街のポルト辺境伯様の屋敷の客間に泊めてもらい、翌朝早くに町を巡って、買い物を楽しんだのだが、物価が高くて、魔物メタルなどは手が出せずに、何の魔物の素材を何の魔物の金属に混ぜるとどんな効果が出るかをまとめた図鑑を買っただけで、あとは、シェリーさんに案内されて、知り合いの料理屋を巡り女将さんや大将に、
「結婚したんだ。」
と僕を紹介するシェリーさんは、とても嬉しそうだった。
丸一日デートを楽しんだのだが、ただ一点、街角で配られた『旅劇団、渡り鳥の公演!来月はじめより中央公園特設劇場にて…』というビラのおかげで楽しさが帳消しになった翌日、
『パンツ聖人の舞台が始まる前に一刻も早くここから立ち去らねば!』
と、思いつつ再びナビス伯爵様に軽く挨拶に向かうと、五人の騎士に出迎えられ、伯爵様に、
「聖人様…癒しの御業で我が息子を救っていただき誠にありがとうございます。
ポルト辺境伯殿よりの手紙でケン殿の事を知り、我が息子に触れた瞬間に仄かに光ったあの輝きの意味を理解いたしました。
まだ立ち上がるまでには至りませんが、見違える様に回復しております。」
と言って深々と頭を下げてくれた。
心なしか、伯爵様の顔色も良さそうで、ホッとしながら僕は、
「いえ、きっとプリンが効いたのでしょう…御礼はプリンの生産地、ココの町の辺境伯様にでも伝えて下さい。
来年の夏にはリチャード様も元気になると思いますので、騎士団の方々が地竜を倒しに来るついでに、セント村にお越しください。
あっ、あと私達夫婦は、マンドラゴラの断末魔が効きませんので作物の様に収穫できますので、マンドラゴラ狩りのお供にお声がけ下さいね。」
と答え、来年の再会を騎士団の方々と約束してから王都を後にした。
ナビス伯爵様からポルト辺境伯様宛の手紙を託され、幌馬車に揺られながらシェリーさんは、
「結局、何もお土産買わなかったね。」
と言っているので、僕は、
「お金は地竜で結構入ったけど、何でもかんでも高くって…どうしても欲しい物が有ればだけど、ワイバーンメタルも王国北部が原産らしいし、むしろ、ジャガイモ男爵として北部の貴族に顔が利くニック様に相談した方が安く手に入りそうだしね…」
と答える。
帰りも二週間近く掛かるので、シェリーさんと帰ってから何をするかを話していると、
「クランハウスが要るね。」
という話しになった。
孤児院という立ち位置の祝福の家には卒業が有るし、卒業後の家としてクランハウスと、冒険者に向かない子供も生きて行ける様にしたいという事でシェリーさんと話し合った末に、大きなクランハウス兼、牧場を作り、牛魔物やギンカのお嫁さんを飼う事にした。
まぁ、牛達はミルクを絞られた後に僕に気力を毎日軽く吸いとられるという、ミルク & 気力牧場への永久就職となるのだが、村でチーズが作れる様にでもなれば、保護した子供達の将来の選択肢が広がるし、生きていく収入にも繋がる。
ちゃっちゃと辺境伯様へのお手紙の配達を済ませ、挨拶や報告もそこそこに、ドットの町に向かい、ガーランドとラックスに声をかけて、牛とメス馬の買い付けの下調べをお願いした。
ガーランドもラックスも町の牧場からの魔物撃退依頼を受けていて顔が利く上にラックスは意志疎通まで可能で、性格の大人しい牛や馬を探す事などお手のものだからだ。
村に戻り、まだ手付かずの空き地の開拓権利をアルから激安で買い取り、
『去年なら無料だったのに…』
と思いながらも集落の入り口付近からセント村の方向に建設ラッシュで使われた木材の為に切り開かれた場所の切り株を家族総出で撤去して、果樹園の様に石垣で囲って牧場を作り初め、クランハウスは未だだが、いいもの製作所の大工チームが頑張ってくれて、大きな厩舎が完成した頃にはすっかり秋になってしまっていた。
作業の合間に料理長のマイクさんとパン職人のアイナさんと一緒に研究を重ねてようやく完成したカレーと、やっと安定して生産が出来る様になり、食糧として備蓄に回せる様になった米を使い、ケンちゃん牧場という少しコントの設定みたいな名前の牧場の完成パーティーという形でカレーライスを
「僕の大好物です。」
と紹介して振る舞ったのだが、カレーを見つめながら誰もスプーンをつけようとしない…
そして、あろうことか、シェリーさんが複雑な表情を浮かべながら、
「ウン…コ…」
と呟いていた。
多分彼女の頭の中では、「私と大好物どっちが好き?」の場面が繰り返し流れているのだろう…しかし、カレーは美味しいのだ!
何とか味のカレーでもカレー味の何とかでも、更にカレーのルーをかければ美味しく食べれる自信が有る!!…やらないけど…
などと思いながら、少しヤケクソ気味に、カレーライスをモリモリ食べはじめてやると、ようやく皆も、
『うん…この食べ物って、食べて大丈夫なんだ。』
といった感じで、皆が安心して口に運びはじめる。
一口、更に一口と食べ進め、スパイスの旨味を御見舞いされ、カレーの偉大さに気が付きはじめた村人達に
『カレーの神に、先程の非礼を詫びるがいい!』
と思いつつ、おかわりを盛り付けながら、カレーの魅力に溺れていく村人達を見ていた。
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