第111話 新たなパートナー

実りの秋が村にやってきた。


それは何も作物だけの話ではない…仮のクランハウスとして旧我が家を使い、僕がリーダーでシェリーさんがサブリーダーとなる冒険者クラン『何でも屋』が発足した。


メインメンバーは12歳になったギースともうすぐ12歳になるカトルに、10歳になったサーラスの三人と、祝福の家の男子三名で作るGランク冒険者パーティーのチーム『残留』である。


一応シータちゃんとナナちゃんもGランク冒険者として入っているが、二人は冒険の前にエリー商会の調香師であるので出動はあまり無いであろう。


それとキキには、クランハウスの受付嬢をお願いしてある。


お抱えの装備職人は、いいもの製作所を丸々指定したのだが、何故か正式装備に指定した覚えは無いのだが、漏れなく胸部装備にニチャニチャコーティングの革鎧が採用されている。


因みにだが、地竜の鱗や皮の多くはアルのいざという時の鎧とアントメタルと地竜の爪を使った弓や片手剣に変わり納品され、ついでに、角を一本使ったミリアローゼ様に送る魔法使いの杖と、それでも余った地竜の皮はシェリーさんの装備に変わった。


勿論、材料費はバッチリ、アルの家の防衛費から頂いたので、加工賃に回せば実質無料で装備が作れる。


シェリーさんの為に、トトリさんが中心となり、いいもの製作所と共同で作った地竜の革短パンに胸部にニチャニチャコーティングのある地竜革のビスチェに、地竜革のブーツ、これには僕のアイデアで爪先にアントメタルの鉄板入りの安全ブーツで、シェリーさんのキックの威力をブーストする効果もある。

ついでに、今までは素手だった左手には右手のライダーグローブ風の魔力手袋に似せた上に拳部分の手の甲にだけニチャニチャコーティングが部分的に施してある手袋と、最後に、撲殺天使のホルダーベルトも地竜の革の物と交換して防御力と壊れにくさをアップしてある。


オシャレな地竜装備のシェリーさんが完成し、続いて僕の番であるが、芯だけになったニチャ棍Gをいいもの製作所に返すと、


「強度不足だったか…すまない…」


とベントさん達の初期メンバーが凹んでしまい、


「もっと強い武器を作るぜ!!」


と言って作ってくれたのが、何故かニチャニチャ棍棒シリーズだった。


「もう一度、リベンジさせてくれ!」


と言う初期メンバーの三人に、


『いや、ニチャ棍どんだけ好きなんだよ!!』


と、心の中でツッコミみつつ、新たに仕上がったパートナーのニチャニチャ棍棒を確かめる…

作りとしては、ニチャニチャ棍棒グレートを地竜の尻尾の先の皮の形状に作り、ソフトクリームのコーンを包む紙の様に、尻尾の皮にスポッと入れてコーティング材を染み込ませて完成したのが、ニチャニチャ棍棒デラックス、略してニチャ棍DXである。


ウサギ耳錬金術師のタクトさんは、


「前作より変形に強く、持ち手のアントメタル部分にも地竜の革を編み込みグリップ力を高めてみた。」


と言われたのだが、


『いや、角も牙も爪も有っただろ…何故、棍棒に…』


と思ってしまうのだが、しかし仕上がったニチャニチャ棍棒デラックスを握ると、しっくりきてしまう自分がいた。


「ありがとう」


とだけ伝えて、ニチャ棍DXをマジックバッグにしまっていると、木工職人のプギーさんが、


「ケン君、今、こんなの作ってるんだ。」


と言って僕に土台付きのボウガンを見せてきた。


『あれ?確か、クロスボウの説明の時に少し話した事が有るような、無いような…』


と思いつつ、


「これって…もしかして。」


と聞く僕に、プギーさんは、


「そう、前にチラッと言ってた『バリスタ』の模型を作ってみたんだ。

地竜の骨で試作の矢は完成したんだけど、本体はこの冬の手仕事で作るつもりだよ。」


と楽しそうに言っていた。


彼らは村を難攻不落の要塞にでもするつもりだろうか…しかし、アルの年期の入った騎士団の戦力アップは大事なので、見守る事にした。


さて、準備も整い、何でも屋としての新しい出発である…と、言ってもやることは、ほぼ同じで、薬草採集をして届ける先がマチ婆ちゃんから冒険ギルドの窓口に変わるだけで、しかもマチ婆ちゃんは今まで少し高く買ってくれていたのが正規の値段となり出費が減り、採集した方は、収入が少し減る代わりに冒険者ポイントが加算されるので問題ない。


マチ婆ちゃんの相手はナナちゃん達と、リンちゃんが居るから納品に来る子供が減っても寂しくは無いだろう。


勿論、草引きや溝掃除のお手伝いクエストも、常連さんを中心に今まで通りの値段で、一部冒険者ギルドに引かれるが、角ウサギなどの小遣い稼ぎの選択肢が増えたので問題は無い。


クランのメンバーとして頑張るチーム残留の三人の働きを見た祝福の家のお姉ちゃん組が何でも屋に参加してくれる日も近いだろう…まぁ、既に何でも屋の繁忙期は済んだので来年の春頃の畑の準備まであまり何でも屋としての仕事は無い…しかし、その代わりに、冬支度の季節がやってくるその前に、ウチとして急いでやらなければならない事があるのだ。


それは牛魔物の買い付けと、ギンカのお見合いである。


本当ならば、家畜の買い付けはダント兄さんにお願いしてあったのだが、村の方針が石鹸と酒に傾いた時に、急遽無理を言って果物の苗木と、オリーブの苗木を大量購入に切り替えてもらったので、一度牧場計画がストップしていたのだ。


今回は僕一人でドットの町にギンカの幌馬車で移動して、ガーランドとラックスを誘いドットの町の牧場をめぐる。


お目当ては先ずギンカのお嫁さん候補とギンカを会わせて、お互いが気に入るかどうかである。


司会進行はラックスに任せ、1つ目の牧場に到着し、ラックスが予め選んでくれたメス馬を牧場主に連れて来てもらい、お見合いが開始されたのだが、


「好きな馬が居るので…と言ってるッス…」


と、牧場を作っていたこの二ヶ月程に、お相手のメスにはパートナーが出来ていたらしい。


牧場主には、


「すみません、ウチの馬がフラれたみたいで…」


というと、


「惚れてるオスごと買ってくれよ!」


と頼まれたが、今回は見送る事にした。


しかし、牧場主は諦めずに、


「雲羊はどうだ?来年の夏まで毛は取れないが、モコモコシープの倍の毛が刈れるぜ!」


と売り込むので、ラックスに面接を頼むと、


「人間好きの気の良い夫婦ッス。」


と言っていたので、大銀貨1枚で購入した。


雲羊の夫婦は、ラックスの荷馬車に乗せられて次の牧場を目指す。


次の牧場は、トラベルホースという商人などの長距離移動をする方々の御用達の馬のみを育てる牧場だったのだが、ラックスが、


「ダメッス、前に話した時は感じが良かったんッスけど、ギンカを遠目に見て、『雑種じゃない!』って、急に態度が悪くなったッス。」


と言ったのを聞いたガーランドが、


「やっぱり俺のいった通り、貴族みたいな血統が大事な馬よりも、町娘みたいなのが一番だって。」


と言いながら3つ目の牧場に向かう、そこは老夫婦が営む小さな牧場だったが、どの馬も人懐っこく、老夫婦が愛情を注いでいるのが、素人目にも解った。


牧場主の老夫婦は、ギンカを見て、


「スタミナタイプの品種とスピードタイプの品種の掛け合わせだね…良い馬だ。」


と言って、一匹のメス馬を連れてきてくれた。


ご主人が、


「品種的にも、相性が良いし、この娘でどうかな?」


とオススメしてくれたメスを見たギンカが、ラックスに聞くまでもなくメロメロなのがわかる…だって、ご立派な足が一本増えているのですもの…


牧場の奥さまが、


「あらあら、来年の春先には問題なく種付けできそうね。」


と言って、ギンカのギンカを見た後、メス馬に、『どうする?』みたいに視線を飛ばすと、メス馬も落ち着き無く少しウロウロしている。


ご主人が、


「おぉ、おぉ、恥ずかしがっとるわい。」


と楽しそうにしているのを見て、僕は即決し、どうせ買うならばこのご夫婦の牧場の娘さんをギンカの奥さんにしてあげたいと、老夫婦が大銀貨五枚からマケようとするのを強引に大銀貨五枚のままで購入した。


イチャイチャ二頭引き幌馬車になったのだが、前を歩くギンカが彼女を気にして振り返りまくり危ないので、ラックスにお説教を依頼したのだが、


「ギンカが、彼女が前なら文句を言わないと、言ってるッス。」


と言っていたので、試しにポジションを変えると、彼女の揺れるお尻を眺めながら楽しそうに幌馬車を引くギンカに、


『あぁ、お前もオスだったのだな…』


と、感じながら、残った予算で大人しいデスマッチカウを何代も掛け合わせた人間に従順な品種のノーマッチカウの群れの中からラックスがオススメしてくれた仔牛も含む20頭を購入して、ラックスとガーランドに運搬の手伝いをお願いして村までのんびりと帰る事にした。

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