第112話 変わりゆく村
牧場に動物が導入され、チーム残留3名と祝福の家のお姉さんチーム10名の合わせて13名が交代制でケンちゃん牧場の仕事をしてくれている。
勿論、お給料もミルクの販売などからまかなわれる手筈になっている。
まぁ、ほとんどのミルクはダント兄さんの商会の傘下のチーズ工房に卸されるので、お給料などの管理もダント商会に丸投げしてあるだけだ。
僕の仕事は、毎日の様に牧場に来て牛や羊の健康チェックがてらに撫で回して可愛がりながら、気力を分けてもらいながら、ついでに、イチャイチャしているギンカと、シェリーさんが命名したカレーライスという足首が白くて上が茶色のメス馬を眺めてるという簡単なお仕事である。
気力はなくなっても、スキルが発動しなくなるだけで、魔力不足の様に眠らなくて良いので、雲羊の衝撃軽減スキルやノーマッチカウの逃げ足スキルが使えない所であまり問題がないのから、最大で朝夕の二回吸収出来る。
以前、卵鳥で実験した時には、繁殖スキルが発動しなくなり丸一日卵を産まなくなってしまいレオおじさんに滅茶苦茶叱られたが、牧場ではその心配もなく、母牛は気力を吸われた後もしっかりミルクを出してくれている。
絞りたてのミルクにクリーンをかけて味見をするまでが僕の日課で、ありがたい事に、今回の人生ではミルクを飲んでもお腹がゴロゴロしないので、パンとミルクなどの最強コンビを楽しめるのだ。
ダント兄さんに、
「ケン、牧場の収益はどうしよう?」
と相談されたので、僕は、
「気力が吸収出来たら良いから、職員のお給料を値上げしたり、チーズ工房や牧場自体の設備にあててよ。我が家のお金は冒険者仕事で何とかなるから。」
と言った手前、ダント兄さんの発案で、セント村で『ケンちゃんの健康ミルク』という恥ずかしい名前のミルクが販売され、ケンちゃん印のチーズを炙り、焼いたジャガイモにトロリとかけたハイカロリーな料理が流行っているが文句は言えない…たまに外部から来た行商人が、『パンツミルク』や『パンツチーズ』と呼ぶ事だけを除けばであるが、むしろ新たな流行が勝手に生まれる村になった事は喜ばしい事である。
しかし、噂が行商人から広まり、井戸の毒と毒に苦しむ人々を救ったパンツ聖人の物語のお陰で、ドットの町に来た旅人が少し足を伸ばして、ウチの村までミルクを飲みに来ているらしく、アルの発案でパンツ聖人のハンカチなどを売るコーナーまで作られた時には流石に抗議に代官屋敷に乗り込んでやった。
しかし、アルに、
「あれあれ?ケン兄ぃは運営方針もダント兄ぃに任せたんだよねぇ…使える物を全部使って儲けるのは商人として当たり前だし、聖人グッズの売上の一部は教会と祝福の家の運営資金になってるんだよ。」
と言われ、ぐうの音も出ない僕は、半泣きでお家に帰りシェリーさんに癒して貰おうとしたのだが、家に着くなり、
「やっと帰って来たわぁ~。
ケンちゃん、狩りのシーズンよ!ついてらっしゃい。」
と、何とも言えない魔女っ娘コスプレ姿のセクシー・マンドラゴラ姉さんと、隠密っぽい黒ずくめのチュチュさんに、レオおじさんの腕に絡み付く革の部分鎧姿のシンディーさんが待ち構えていた。
狩人のリントさんとカトルによる罠講座でチーム残留の三人の狩り能力の上昇とレベルアップを計り、ギースはミロおじさんと、前衛での戦い方の練習で、サーラスはチュチュさんと索敵のスキルアップを目指して、キキとナナちゃんとシータちゃんはレオおじさんとシンディーさんが引率してレベルアップを狙い、セクシー・マンドラゴラ姉さんはシェリーさんに一対多数の戦い方をレクチャーするらしく、最後に僕は、食糧と獲物の運搬係という布陣で秋の森に狩りに向かう事になった。
と言ってもほとんど、キャンプを楽しむ程度のノリである。
森の奥のキャンプ地を拠点に、小型や中型の罠を作り、罠にかかった獲物をクロスボウや近接武器で倒すレベル上げチームと、
索敵で獲物を探して殲滅する強襲チームにわかれて行動を開始したのだが、正直僕の出番はほとんど無かった。
チュチュさんが
「はい、この方向にどれぐらいの距離に何匹?」
と質問するとサーラスが、
「うーん、200メートル先にタックルボアが6?」
と答えると、チュチュさんが、
「残念、50点ね。
その20メートル先に森狼13の群れが、タックルボアを狙っているわ。」
というとサーラスが再び意識を集中させると、
「本当だ、森狼が居る!」
と驚いていたのだが、200メートル先の魔物の数や種類を感覚で解るとは!?と僕の方が驚いていた。
その後は、ミロおじさんとギースが足止め要員でセクシー・マンドラゴラ姉さんとシェリーさんが遊撃手で倒しまくるというモノである。
僕は、獲物を拾い集めてマジックバッグにしまいこむ仕事ぐらいで、やることがほとんど無かったのだが、チュチュさんの、
「ブラッドベアーが居る!」
との声に、僕は焦りながらボアや森狼をマジックバッグに詰め込み、ニチャ棍DXを握りしめて戦地に向かうと、遠くから、
「コラっ!!」
というセクシー・マンドラゴラ姉さんの声が響き、僕が到着した時には顔の穴という穴から血を流してグラつくブラッドベアーに、シェリーさんが撲殺天使の持ち手部分で熊の頭を殴ると同時に水の刃が駆け回りブラッドベアーはズタズタにされて倒された。
セクシー・マンドラゴラ姉さんが、
「シェリーちゃん凄いじゃない、師匠の水鎌をマスターしたの?」
と言っているのを聞いて、『打撃と共にゼロ距離でウォーターカッターを打ち出す技か…』と、理解すると同時に、今回の狩りに僕の出番が無い事と、シェリーさんを怒らせない様にしなければと痛感し、あとから聞いたのだが、セクシー・マンドラゴラ姉さんの「コラっ!!」は音を圧縮して相手にぶつける音魔法らしく、クリーンヒットすると鼓膜は破れ、音の波は脳を揺らし、立ったまま気絶ものらしいので、セクシー・マンドラゴラの名前の由来も少し理解出来た。
そして、2泊3日のキャンプも終わり、レベルアップやスキルアップした我が家の家族と何でも屋のメンバーにとってはとても良い経験に成ったと思う。
僕は、そうでもなかったが…
そしてキャンプが終わってからも、勉強は続いており、続いて獲物の解体と、冬ごもりの保存食と、燻製などの作成を、牧場の手伝いをしてくれている女の子チームも合流して行う。
将来的には薬草採集の様に次の世代の現金収入の手段として引き継いで行きたいからだ。
解体が上手ければ、冒険者ギルドの解体場に就職も出来るし、燻製が上手ければ肉屋としての未来もあるし、勿論、冬ごもりの準備が出来ればこの村で、頼れるお母さんとしての将来だってある。
狩人の嫁としてエリーさんが解体の手順を女の子チームに教えてくれているのだが、ちょいちょい、エリー商会の石鹸チームに引き抜こうとするで、我が何でも屋クランの受付嬢であるキキが、
「エリー会長、冒険者ギルド経由で、何でも屋クランに工房職員としてのアルバイトを依頼して下さい。
彼女達もクランのメンバーなので引き抜きは困ります。」
とピシャリと言ってくれた。
キキは、女の子チームの中の数人の直接のお姉さんとして長年人身売買グループのアジトで暮らしていたので、彼女達のスケジュール管理などの為にクランに就職してもらったのだが、石鹸工房の戦力だったキキが抜けた事でエリーさんが困っているからこその引き抜き行為だったらしい。
エリートさんは、
「1日に二人…いえ、三人アルバイトに回して下さい。」
とキキに頼むと、キキは、
「その様に手配しますので、冒険者ギルドで依頼の提出をお願いします。」
とエリー会長と打ち合わせをはじめて、解体場には解体上手のカトルと女の子チームだけになってしまったのだが、様子を見ていると、数名の女の子が、
「カトルくん、ここからどうするの?」
とか、
「カトル君を一人占めしないでよ!」
などと、結構カトルがモテている。
何故かギースはモテていない様子で、サーラスと一緒に燻製小屋の近くからモテモテのカトルを冷ややかな目で眺めていた。
身体強化コンビのギースとサーラスはお似合いのカップルに見えてライバルが現れなかったのかな?ギースはいい子なのに、モテないのは可哀想だよ。
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