第54話 お手紙とお出かけ

日差しが肌を焼く季節になった。


大工さんの働きで、シンプルながら使い勝手が良さそうな石鹸工房とウチ新居が完成し、残すはエリー商会の建物と、ファーメル家の建物だけだが、この二つはどうも豪華な作りになりそうだ。


そして、僕達は新居でまだ暮らせて居ない…

それは何故かというと、夏の始めにココの町の大商会の工房の職人さんが、いいもの製作所のメンバーに教えを乞いたいと、カッツ商会経由で依頼があり、木工職人さんや鍛治職人さんに錬金術師さんまで5名ほど村に来たのだが、生憎村には宿など無く、5名を泊まらせた上で、工房も使えるウチの集落にやって来たという流れである。


現在、集落のいいもの製作所の工房で、扇風機の手ほどきを受けているらしい。


同じ様に作っても風の量にバラつきが出てしまい、困り果てた末に、特許が登録されたドットの町の知り合いに聞いてここまでやって来た行動力に頭が下がる。


問題は羽根の角度や厚みにバラつきが有ったのが原因らしく竹トンボから習いはじめて、今は扇風機のコツを通いで来てくれる講師の職人に教えてもらっているらしいが、何故か今朝からウチ弟達まで竹トンボをもらって遊んでいる。


暑いのに外で走り回っている兄妹達を見ながら、


『 水風呂でも用意してやるかな?!』


と井戸場へ向かい、我が家にも設置してもらった手押しポンプで湯船に水を貯めていると、


「ごめんください!」


と表から声がして、


「珍しい…お客さんか?」


と玄関の方に裏庭から回ると、すでに弟や妹達に男性が取り囲まれていた。


「お兄ちゃんだあれ?」と聞くナナちゃんに、

「兄にご用意ですか?」と丁寧に対応するカトルと、

愛刀の『仲間』に手を置き、「敵?」と聞くサーラスという三者三様の対応に困っていた男性に僕は、


「あっ、すみません。」


謝罪したあと、


「はいはい、まずは『いらっしゃいませ』だよね。」


とナナちゃんに教え、


「カトルはお兄ちゃんだからちゃんとお客さんをお出迎え出来て偉いね…サーラスを止められたら満点だったけど…」


とカトルを評価して、最後にサーラスに、


「怪しい敵は真っ昼間に『ごめんください』しないから、威嚇しないの!」


と軽く叱った。


三人は元気に「はーい!」と返事して再び竹トンボで遊ぶ事にしたようだ。


すると男性は、カツンとカカトを揃えて、


「私はファーメル騎士団通信部隊、伝令班のハリーと申します。」


と自己紹介してくれて、


「この度はポルト辺境伯様からのお手紙とファーメル家の方々からのお手紙をお持ち致しました。」


と言って手紙を差し出してきた。


手紙を受け取ったがハリーさんは帰る気配がないので、


『あぁ、郵便屋さんじゃないから返事をもらってから帰るパターンのやーつだな…』


と理解して、


「読むのに時間がかかりますし、狭いですが中でお茶でも飲んで下さい。」


と言って家に招きいれ、我が家の井戸で冷やした麦茶を出してあげた。


「お心遣い感謝します。」


と言ってお茶を飲みはじめたハリーさんの前に座り、蝋で封がされた高そうな紙の手紙を開けると、


ポルト辺境伯様というここら一帯の最高権力者であるニックさんのパパから


『様々な者から噂を聞いておる聖人様にお願いしたい…』


と書き始められた手紙を簡単にまとめると、


末の息子が滅茶苦茶自慢するから、我が家にも一度遊びに来てくれ、今年のパーティーに息子が連れてきた料理人が作ったパスタを使いたいので、その料理人が話していた考案者であるそなたの知恵を借りたい。

孫娘を弟のアル特待生とシゴキ直してくれた事も感謝しておる。

では楽しみに待ってるからねぇ~。


みたいな内容だった。


続いてニック様からの手紙で、こちらは、


近隣への農業指導は順調に進んでおり、合わせて同じ広さの転作する畑とわざとジャガイモばかりを続けて作る畑の収穫の違いを確かめている最中だという前置きのあとに、父親を驚かせる為に、木漏れ日亭の人達に、パスタ料理のてほどきを受けた料理長達を連れてミリアローゼお嬢様の入学式に行った時に作らせたパスタを実家の親がいたく気に入った様で、父上が今年のパーティーで出したいと言い出してしまいて、力を貸して欲しいと書いて有った。


何でも辺境伯様は、第一夫人と第二夫人も中央の有力貴族から娶ったために、息子の件で肩身が狭いのに、更に田舎と馬鹿にされて益々辛い立場なのだそうだ…つまりは、中央にも無い料理でガツンとやってやりたという内容だった。


3つ目の手紙は、エリステラ奥さまからで、


前回石鹸をお土産に配ったら大盛況でしたので、エリーさんに増産をお願いして下さい。

阿保みたいに売れると思いますので、特別を求める貴族が好きそうな特別な石鹸をほんの数個だけでも用意して貰えれば、第一夫人も第二夫人も取り込めるかも知れませんので宜しく。


みたいな、お願いだった。


そして、最後はココの町にいるアルからの手紙で、


『ケン兄ぃ、僕はこちらで楽しくやっています。

初めは特待生だとか、貴族でも無いのに貴族であるミリアローゼお嬢様と居ることをおもしろく思わない貴族家の子供に嫌がらせを受けましたが、

何故か辺境伯様が怒鳴り込み、

アル特待生が辞めたらどうする! 彼は貴族ではないが、入学試験で満点を取った天才で、教会が認めた聖人、ケン殿の弟だぞ!

と校長を叱りつけたという噂が流れて以来、変な貴族の子供に絡まれる事もなくなりました。』


などと書いた分厚い手紙の最後には、


『皆のおかげで、今、僕はとっても幸せです。』


とアルの手紙は綴られていた。


う~ん…領都に行くのは百歩譲って良いけど、お貴族様とお近づきになるのは面倒臭い。


でも、アルの虐めを止めてくれたのも辺境伯様みたいだし…これは行くしか無いのかなぁ~?と思いつつ、ハリーさんに、


「エリステラ様からの伝言を伝えに行って来ますので、少しお待ちください。」


と伝えて、エリーさんが居る工事現場に向かい、


「エリステラ様が石鹸の増産と新商品の試作をお願いするお手紙がとどきました。」


とエリーさんに伝えると、


「ついに始まるのね。」


と気合いを入れたエリーさんは、


「ナナちゃん!お仕事しましょう!!」


とナナを呼び、ミロおじさん達に、隣村までのお使いをたのんでいた。


多分マチ婆ちゃんや、いいもの製作所の誰かを連れてくるのだろう。


エリー商会の商品開発会議が始まる前にナナちゃんに、


「とーちゃん、辺境伯様に呼ばれてちょっと遠くに行くけどナナちゃんも行くかい?」


と聞くと、ナナちゃんは、エリーさんに、


「エリー先生、へんきょうはくさんのおウチって

遠い?」


と質問すると、エリーさんは、


「行くのに10日、帰るのに10日かな?ご用事が何かにもよるけど一ヶ月ぐらいかな?」


と答えると、ナナちゃんは、


「お仕事あるから、とーちゃんだけで頑張って。」


と、拒否られてしまった。


そして、エリーさんには、


「最近領都で何が流行っているか探ってきてよケン君。」


とリサーチの依頼まで頼まれてしまった。


その後に一応カトルとサーラスにも領都行きの話をすると、やはり、


「燻製作りの仕事が有るから。」


と二人にも断られた僕は、ションボリしながら自宅に戻り、


ハリーさんに一応ではあるが、


「ニック様って何か言ってました?」


と聞くと、ハリーさんは、


「そうですね、可能ならば連れて戻れとは言われております。」


と言っていた。


あぁ、めっちゃ急いでるのね… と諦めて、ハリーさんに、


「ご近所に挨拶だけしていいですか?

あと、隣村で暫く留守にすることだけ言えば、一緒に行けます。」


と伝えると、カトルが家に入って来て、申し訳無さそうに、


「ケン兄ぃ、もしかして、ギンカ連れていっちゃう?」


と聞いてくる。


兄ちゃんは一ヶ月居なくても良いけどギンカはお買い物に要るもんね… と少し寂しくなりながらまも、


「いや、留守中のギンカの世話も頼むよ。」


と、僕がいうと、カトルは


「何でも屋見習いカトちゃんにお任せあれ!」


と言ってニッコリ笑ったが、

カトちゃんとケンちゃんの何でも屋って、コントになりそうで何か嫌だな…と思ったがカトルが満足そうなので聞き流し、


「よし任せた!収穫の時期には帰ってくると思うから、お得意さん達の予約は聞いておいてね。」


と僕が頼むと、カトルは、


「ドンと任せて、ケン兄ぃもお仕事頑張ってきてね。」


と言ってくれた。


エリーさんに弟や妹達の事を頼むと、


「あら、今日から出発なの?まだ石鹸そんなに無いけど30ほど持っていく?

皆のご飯なら心配しなくて良いわよ。」


と言ってくれ、その後にハリーさんの馬魔物に2ケツして隣村に行き、トール達薬草組に、


「出張で領都に行くから家庭教師に当面来れない」


と伝えると、トールが、


「師匠、弟達の勉強は俺が教えますから大丈夫です。

今後の家庭教師も師匠のお仕事が忙しいそうなので、俺に任せて下さい。

その代わり、師匠が帰って来たら俺を正式な何でも屋にしてくれませんか?」


と頭をさげ、側で聞いていた。


その後ろではトトリさんや、兄妹も頭をさげる。


あぁ、トールも来年12歳か…見習いで働きに出る歳だもんな… と理解して、


「トールは既に何でも屋の薬草部門リーダーだから頼りにしているよ。

もし良かったらたまにウチのカトルやサーラスやナナの勉強も留守の間見てやってくれないかな?

三人とも計算がまだまだ苦手なんだよ。」


と僕がお願いすると、トールは


「任せて下さい師匠」


と答えてくれた。


僕は、トールに、


「じゃあ、報酬は帰って来た時に爪モグラ駆除用の箱罠とトールの装備に、何でも屋の必需品の荷車だな。」


というと、次男のギースが、


「また焼き肉出来る!今度は僕が解体する!!」


とやる気になっていた。


最後にベントさんと村長にも留守を伝えてドットの町へと向かった。

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